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転生したらアンデルセンになっていた!  作者: 上野 拓夢
Episode one カエルの王子様
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scene.5   旅の仲間はピーター・パン

 国と国の境は連なった山だった。


 僕たちは山と山の狭間になる低い部分を超えるべく進んで行く。


 しばらくすると僕らは山間部にある湿地帯に入った。広大な湿地帯だ。そこは地面がぬかるんだ浅い沼のような場所で、歩く際には膝位まで水に足が浸かってしまう。


「むむむ、ここは何やらやばい感じがするねえ……」


 アンナが表情を曇らせる。


「は、はい、嫌な気配がします。私の体にも怖気が立っていますよ……」


 カエルは怯えた表情を浮かべる。呪いで姿を変えられた存在だとはいえカエルはカエルだ。本来なら水気のある場所は得意な筈だ。水掻きもあるし。


「う、うわっ」


 突然僕は足を取られた。何かが足に絡みついたような感じだ。


 僕の足に絡みついた何かは沼の陰になっている部分へと僕の足を引っぱっているようだ。


「う、うっ、うわあああああああああああっ 何かに足が引っ張られて……」


 そんな最中ちらりと水面から何かの背中らしき部分が見えた。濃い黒と白の斑模様をした太い綱のようだった。いや、綱どころか木のような太さがある。


 それを見たカエルは顔を青ざめさせて言った。


「こ…… こいつは…… ニーズヘッグじゃないか!」


「ニーズヘッグって魔獣の大蛇かい?」


「え、ええ……」


「強敵じゃないか! ちょっとやばいかも……」


 蛇に睨まれたカエルとはこの事なのか、恐怖に慄いたのかカエルは竦んで動きが極端に鈍くなった。


「良いかいハンス! 絡んでいる足付近をピッケルで叩きまくれ!」


「うん!」


 僕はアンナの指示に従い、絡まれている付近をピッケルで必死に叩く。数討てば当たるではないが、叩いた内の一発に手応えがあった。


 その瞬間絡んでいた力が弱まり、僕は急いで足を引き抜いた。


「よし、離れたよ!」


「ハンス! こっちに来な! カエルも! 三人で背中合わせで円になるんだよ!」


「う、うん!」


「ゲッ、ゲッ、ゲロオオオッ……」


「馬鹿ちんが! 恐怖でカエル語になっちまってるよ! しゃんとしな!」


「ゲッ、ケッ、い、いや、は、はい、済みません!」


 カエルはナイフを杖に括り付けた槍を身構える。


 三人は背中合わせになり全方位を警戒する。


 水面が静まり返る。僕らは動かず波を立てないように気を付けている。水面に現れる僅かな波紋を見逃さないようにしているのだ。


 カエルの前方三メートル程の所に僅かな水の動きが現れた。かと思ったら水中から巨大な蛇が飛び出し大きな口を開けて襲い掛かってきた。


「うわあああああああああああああああああっ!」


 恐怖に慄いた表情ながらもカエルは勇敢に槍を構え突き出す。


 僕もナイフ付ピッケルを構え、アンナは魔法だ。


「けえええええええい!」


 蛇の顎がカエルに及ぶ前に、カエルは杖の先にナイフを付けた自作の槍を大蛇の喉元に突き上げた。


「ギッ、シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 大蛇が唸り声をあげる。


 しかし、大蛇が激しく身を捩ったせいか杖からナイフが外れてしまった。だがナイフは突き刺さったままで首からは血が流れている。


「今だ!」


 僕はピッケルの先端に付いたナイフで蛇の胴を突き刺し、アンナが駄目押しとばかりに炎の攻撃をぶち当てる。


「シャア、アアアアアアッ……」


 アンナの炎が効いたのか、大蛇は力なく沼に倒れ込み、ザパーンと左右に大きな水飛沫を上げた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 カエルも僕もアンナも呼吸が激しく乱れまくりだ。


「いやったあああああああああああああああ! やった倒したよ!」


 僕たちは歓喜の声を上げた。襲ってきたニーズヘッグを返り討ちにしたのだ。


「良かった、良かったよ、倒せて……」


 カエルはまだ緊張が解けていない様子だった。


「やったじゃないか、あんた!」


「いや、もう夢中でしたよ! やった! 私、やりましたよ!」


 カエルは興奮冷めやらない様子で叫ぶ。


「……ん? あれ…… あんたの槍…… なんで杖にナイフがくっ付いたままなのさ?」


 アンナが首を傾げながら質問する。


 改まって見るとカエルの武器はそのままだった。血すら付いてない。


「あれ、本当だ…… どうしてだ?」


「……変だね、大蛇の首元に刺さっているあのナイフは何? あれはあんたの槍先じゃなかったってことなのかい?」


 ニーズヘッグの遺体に近づいて喉元のナイフを改めて確認すると、見覚えのないナイフが突き刺さっていた。


「一体、どういうことだいこれは?」


 理解が追い付かない。


 そんな時、背後の木の上の方から微かにくすりと笑う声が聞こえた。


「むっ、だ、誰だい! そこに居るのは!」


 アンナが笑い声がした方に鋭く声を掛ける。


「ふっ、あはははははははははははははは、あんた等が大変そうだったから、さり気なく手助けしてやろうと思ったんだけど、気が付かれちゃったな……」


 木の上には小柄な少年のような者がいた。ピエロのような三角帽子を被り、狩人のような服装をしている。


「お前は…… い、いや、あんたが、あたし達を助けてくれたのかい? どうしてだい? そして、あんたは一体誰なんだい?」


 少年は木から降りて来ながら返事をしてくる。


「ふふふ、俺かい? 俺はピーター・パンって名前の小人族だよ、親友の仇を討つために旅をしていてさ…… アンタ達がちょっと危なそうだったからナイフを投げて手助けをしちゃったんだよね」


 あれ? ピーター・パンって、まさか、あのピーター・パンなのか? ネバーランドの年を取らない少年の。


 僕は自分の知っているピーター・パンなのかを確認すためジロジロと見てしまう。


「そ、そうだったのかい……」


 アンナは戸惑い気味な表情を浮かべるも、何度も頷いた。


「い、いや、お蔭で助かったよ、恩にきるよ」


「どういたしまして……」


 ピーターは何て事はないといった様子で答える。


 そんな問答をしていると、僕らが、いや僕らとピーターが倒したニーズヘッグの遺体は煙のように消え、かなり大きな魔宝石へと姿を変えた。


 アンナはその魔宝石を拾うとピーターに渡した。


「はい、これは、あんたのだよ、実質はあんたが倒したようなもんだからね……」


「良いのかい? とどめを刺したのは君達だよ」


「いや、あたし達だけじゃ危なかったと思う、あんたのお陰だよ」


「まあ、くれると言うなら貰うけどさ……」


 ピーターは受け取った魔宝石を腰のポケットらしき場所に仕舞った。そんな様子を見ながらアンナが改まって声を掛ける。


「ところで、ピーターさん、あんたかなり強いわね、余裕すら感じるし、土地勘もありそうだし……」


「いやいや、それほどでもないよ」


 ピーターは謙遜しつつ手を横に振った。


「ね、ねえ、助けてもらったついでで申し訳ないんだけど、もう少しあたし達を助けてくれやしないかい?」


「ん? もう少し、あんた達を助けるだって? それは一体どういう意味だい?」


 ピーターは首を傾げる。


「ああ、あたし達も、このカエルを助けている途中なんだけどさ、実はこのカエル、山向こうの国の王子様だっていうんだよ、呪いを解いて元の人間の姿に戻れたら、お礼をしてくれるって事になっていてね、あんたは強そうだし一緒に助けてあげてもらえないかな?」


 アンナは問い掛ける。


「へえ~、意外と興味深い話だね、カエルさんが本当は王子様で、そのカエルさんを助けたら褒美までもえらるんだ……」


 ピーターが少し喰い付いてきたのを見計らって、アンナは話を続ける。


「それと、あんた、ほら仲間の仇を討つとか言っていたじゃないか、今回の件が終わったら、今度はあたしらがあんたのそれを手伝うよ、そんな感じだったらどうだい?」


 ピーターは少し考え込む。


「……別に構わないよ、仲間の仇に関してもまだ情報が少なくて辿り着けそうにないし、別に急いでいるって訳でもない。ああ、良いよ、あんたらに付き合って手助けしてやるよ」


「本当かい? 良いね、本気で助かるね」


 アンナは微笑みお礼を述べる。


「あっ、そうだ、自己紹介がまだだったね、あたしはアンナ、で、こっちは弟のハンス、あと元王子のカエルだ」


「えっ、いや、僕は弟じゃ…… うごっ!」


 また鳩尾に肘鉄が入った。


「ゴホ、ゴホッ、は、はい…… ぼ、僕は、弟のハンスです。嘘じゃありません……」


 僕は涙目で訴える。


「へ~、あんたら兄弟だったんだ」


「そうなんだよ、似ているだろう?」


 アンナは念を押すかのように言った。


「確かに少し似ているかもしれないな……」


 ピーターは適当そうに答える。それほど興味は無さそうだ。


 そんなこんなでピーター・パンが旅の仲間に加わった。


 その後ピーターを含め、巨大な蜘蛛などを退治しながら、僕等は国境の尾根を抜けて行った。

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