scene.4 王子の国へ向かってみる
アンナの話を聞いて動揺しているのか、カエルは振るえる手で蜜酒を口に運んだ。
「いや、そ、そんな事は……」
「あんた、王子だと言ったけど、父王はどうしているんだい?」
「父王は二年程前に亡くなりました。私は十八歳の年に即位する予定です」
「状況が揃い過ぎてるね、今頃そのハインリッヒが王様とか支配者になっちゃっているんじゃないかい?」
「…………」
カエルは不安そうな表情を浮かべる。
「兎に角、兎に角だ。この国にいても問題は何一つ解決しないとみた。あんたはあんたの国に帰るべきだよ、あんたがペテンを言っている可能性が無い訳じゃなけど、あんたの話を聞いてみて一応は真実なんじゃないかとあたしは思い始めている。お礼目当てではないけど、あんたが可哀そう過ぎるから手助けをしてあげるわよ。あんたの国に行こうじゃないか」
アンナは僕を見る。
「良いねハンス?」
「僕は別に構わないけど」
そんな僕らの問答を聞いていたカエルはシクシク泣き始めた。
「あ、ありがとうございます。本当に本当に深く感謝します…… 見ず知らずの私にこんなに親身になってくれて……」
「まあ、元気を出しなよ、先ずは腹ごしらえをしないと、食べた食べた!」
「は、はい! じゃあ、ばくばくばく、ああ、美味しい! 美味ひいれす」
またカエルは凄い勢いで食べ始める。
「だ、か、ら、あたしらの分もあるんだから! 食べ過ぎんなって言っているでしょ!」
「…………はい」
そんなこんな僕達も、魚のフライや焼いた鶏肉を口にしていく。
弱り切っていたカエルは食事を摂り、少し先行きも見えてきた事から、体も心に関しても大分生気を取り戻してきているように見えた。
「……あっ、そうだ、ア、アンナさん…… 一つ思い付いたのですが、こんなにも私に親身になってくれましたけど、アンナさんが私にキスをしてくれたら呪いが解けたりしないですかね?」
「えっ、あたしがかい?」
とんでもない展開だ。
「ええ、私の事を思い、そして親身になってくれたじゃないですか……」
「マジかい…… キスか…… 確かにそれで呪いが解ければ話は早いけどさ……」
「あの、ちょっと試していただけませんか?」
「……えっ、試す? ……それは、いけない駄目だ」
アンナは顔を顰める。
「えっ、どうして?」
「だって、気持ち悪いから……」
「…………」
カエルは悲しそうな顔をする。
「……ち、ちょっとだけで良いからお願いします。唇と唇が一瞬くっ付くだけで良いですから」
「ほら、アンナさん、ここで呪いが解けたら城に国に戻るだけで問題解決するかもしれないよ、やってみたらどうだろう? ファーストキスって訳じゃないんだしさ」
別に減るもんじゃないだろう。
「ハ、ハンス、あんたまで、そういう事を言うのかい!」
アンナは凄い顔で僕を睨む。
「お願いしますよ、アンナさん」
「アンナさん、頑張ってみてあげてよ!」
アンナはしばし考え込んでいる。
「一瞬だけ触れてみようか…… 確かに変わったら変わったで話が大分簡単になるしね……」
「お願いします! ありがとうございます!」
カエルは深々と頭を下げる。
「仕方が無いね…… それじゃあ…… ピッとほんの一瞬だけだからね」
そんなこんなで、カエルの口先と祖母ちゃんの口先が近づく、カエルは積極的に、アンナは顔を近づけたくない気配があり、嫌々口先だけを伸ばしている感じだった。
「ん、ん、ん…… ぷちゅ」
唇と唇が触れた瞬間。
「ぷぷぷ…… ぶぶぶぶぶぶぶ、ぶばっ!」
アンナが噴出した。大量の唾がカエルの顔に吹きかかる。
「うわっ!」
「……こ、こ、こ、こ、これはやばい! 生臭すぎるよ!」
「な、な、な、な、何てことするんですか! 吹き出すなんて……」
カエルは腕で顔を拭う。
「やばい、やばかったね、でも、ピッと触れたけど、ほら元にもどらなかったろ! 無理なんだよ! あたしのは愛情じゃなくて哀情…… あんたに対する哀れみだからね」
そう言いながらアンナは蜜酒をちょんちょんと唇に付けている。飲んでいる風だが飲んでいない。
「ア、アンナさん、あなた一体、何をしているんですか?」
「えっ、消毒だよ」
当たり前といった顔でアンナは答える。
「消毒って…… 酷い事しないで下さい。とても傷つきますよ」
「まあ、一応だよ」
「……残念です……」
結局、アンナとのキスでは元には戻らなかった。予想はしていたけど。
「いやいや、しかしながら、カエルの姿だし、相手を見付けて好きにならせて真実のキスとやらをさせるのは、かなりハードルが高いかもしれないね…… 生臭いし……」
改まってアンナが言及する。
「そうだね、何かを退治するとかよりも厄介な気がする。恋愛関係は気持ちの問題だからね……」
僕も同意の頷きを示す。
そんなこんな、食事を済ませた我々は、武器屋と道具屋に寄り多少の買い出しをすることにした。携帯用食料やナイフとか防具とか服を購入する為にだ。
ナイフは二本買い、一本はピッケルの先端に縛り付け殺傷能力を高め、もう一本はカエルの持っていた木の杖の先に紐で縛り付け槍にした。
更に僕は中古の胸当てとかを装着し、カエルには中古の鉄マスクを付けさせ長袖の服を着させた。彼の領地に入った際にカエルだとバレない様にする為だ。
そんな準備が整った後、僕等はこの国を後にした。向かうはカエルの王子の国だ。




