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転生したらアンデルセンになっていた!  作者: 上野 拓夢
Prologueー
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scene.1   上野国からデンマーク王国へ

 風がとても強い。


 この地方には秋になると上州からっ風とも赤城おろしとも言われる強い風が吹き下る。その強い風は看板や自転車を吹き飛ばしたりする事もある程だ。


 僕はその風を特に好きでも嫌いではないのだが、今日に限っては不快な気がしてならなかった。


 え~と、僕は上野拓夢(こうずけたくむ)という名前で群馬県高崎市在住の中学生だ。一応、将来の夢は絵本作家になる事だった。そして絵本作家になるという夢の第一歩として、僕はレターパックライトに入れた絵本大賞応募用の原稿を近くのポストに投函しようと向かっていた。


 自分で筆を使って描いた絵に自分で考えたお話を載せて苦労して作成した絵本原稿だ。今回のはかなりの自信作だった。


 因みに応募原稿を持ち歩いていて思うのだが、レターパックという代物は平たく薄い形の為に風を受けやすい。実際の合否には何ら関係もないと思うが、風の所為で原稿を落としたとか落っこちたという不吉な状況に至る事は避けたいところだ。


 そんな事を思いながら利根川水系の烏川に掛かる橋を渡っていると、ビュッと想定以上の強いからっ風が吹いた。


「あっ、ああっ、えっ、マジか! やばい!」


 握っている握力を超える風に煽られ、僕の持っていたレターパックが手から離れてしまう。僕には目に見えない風の精霊が応募原稿を奪い去ろうとしているようにも感じられた。


「ちょっと待て、うっ、うああああああああああああああああああああっ」


 からっ風に吹き飛ばされたレターパックは欄干を超え八メートル程下の川に落ちていってしまった。


 僕は蒼白になった、


「おい! 本当かよ! 駄目だよ、そんな! そんなぁぁぁ!」


 レターパックライトは封をする際、余白があり少しだけ中に空気が残る状態になっている。その空気の為か川に落ちたが沈まずに水面にプカプカ浮かんでいた。


「レ、レターパックは強い! 紙にコーティングがしてある。そんな簡単に中まで浸水しない筈だよ。まだ間に合うかも! いや大丈夫だ!」


 その時の僕は周りが見えなくなっていた。原稿第一主義になっていたと言ってよい状況かもしれない。


 そんな僕は欄干を乗り越え川へとダイブしたのだ。咄嗟の本能的な行動だったかもしれない。


 ドボンと大きな水飛沫を上げ川へ落ちるも、飛び込んだ勢いが強すぎてレターパックを見失ってしまう。


「ど、どこだ?」


 周囲を見回すもレターパックは見当たらない。そんな事よりも。


「あっ、ち、ちょっと待て、やばい、水が恐ろしく冷たいぞ…… 体が思うように動かない…… か、体が沈んでいく…… ヤバい! やっちゃいけない事をやっちゃったかも……」


 僕の体は水の冷たさで上手く動かず、水を掻く事も出来ない、どんどん、どんどん川の底へと下降していく。


 ゴボッ、ゴボッ、く、苦しい、あ、ああ、ヤバい、これ死んじゃったかも。


 僕の意識はどんどん遠のいていった。


 ああっ………… 誰か助けて……。


 救いを求めるかのように水面に手を伸ばすも、誰もその手を掴んでくれない。


 僕はその姿勢のままゆっくりと川底へと沈んでいった。


 嗚呼、なんて馬鹿な事をしてしまったんだ。


 そして僕の意識はそこで途絶えた。



 しばらくすると、どういう訳か途絶えた筈の意識がまた蘇ってきた。


 頬に空気の暖かさを感じ始め、瞼の上に明るさを感じるのだ。


「……ほら、ハンス、ハンス、頑張って! ハンス、気をしっかり持つんだよ、絶対に死んじゃ駄目だからね!」


 薄暗い部屋の中で女性の声が僕に強く呼びかけてくる。


 僕は薄目を開けた。見知らぬ金髪の女性が僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。他に白髪の老婆なんかもいて同じように心配そうに僕の様子を窺っている。


 この金髪の人は誰だろう…… 年の頃は四〇歳位だろうか。


 ハンス? いや違うよ、僕はハンスなんて名前じゃないよ。


 そう思いつつも体がダル過ぎて声を上げる事も反応する事も出来ない。高熱があるのか頭がボーっとしているのだ。


「ハンス、お前は将来物書きになるんだろ? 頑張るんだよ! お前は私の希望なんだからね……」


 その女性はランプの薄明りの中、僕の顔を覗き見ながら励まし続けている。


 僕はそんな必死さに応えるべく僅かに顎を引いた。状況はよく解らないがその女性に応えなければならない気がしたのだ。


 そんなこんなしているうちに、また段々と意識が遠のいてくる。しかし今度は感覚が無くなっていくような感じではなく眠りに落ちて行くような感覚だった。


「………………」


 また僕の意識は途絶えた。


「ハ、ハンス……」



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