クレア姫
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少年が、この自分の夢の中かもしれない異世界来てから、もう二ヵ月以上経つ。
あれから数回に渡り、「不死の軍団」に襲われたが、その度に少年が撃退した。
結局は、あの日以来、村の用心棒として、この村に留まってる。
そして、二本の刀と火縄銃のこと以外に、少年が気づいたことが三つある。
それは、着物は、洗って干すとあっという間に乾くということと非常に丈夫であること。
藁草鞋は、凄く丈夫で全然擦り切れたりしないということだ。
おまけに足首に固定する為の緒が付いているからなのか、足にピッタリと張り付いて、全然痛くもないし、普通の運動靴よりも遥かに履きやすい。
走る速さも、信じられないほど速く走れる。
そして、もう一つ。この村そのものについても、気づいたことがあった。
それは、この村の結束が、決して一枚岩ではないということだ。
どういうことかといえば、村の人の中には、「不死の軍団を率いる死の王リッチ」に取り入って、自らの身を護ろうとする者もいるからだ。
実際に、「死の王リッチ」に貢物を渡して、この村を魔物に襲われないようにすればいいのではという意見もある。
もしそうなると、村を護っている、用心棒としての少年の役目も必要なくなる。
そんなところへ、ある高貴な方が、この少年の噂を聞いて訪ねてきた。
このムートリアム王国の姫君である、「クレア姫」である。
彼女は、姫君でありながらも、勇敢に国民の先頭に立って、「死の軍団」と戦っていた。
幌馬車から、降り立ったクレア姫は、さっそく少年を呼んだ。
西洋人は、日本人より大人びて見えるというが、それでも少年が見た限り、この若く美しいクレア姫は、自分よりも若く見えた。
「あなたが、佐々木十兵衛? ずいぶんと変わった名前なのね」
クレア姫の、少年に対する第一声がそれだった。
彼女は、普段から「死の軍団」と戦っているためなのか、着飾ったドレスではなく、身動きが取りやすい男装をしている。
身長も、村の女性たちよりも低く、少年よりも少し低いぐらいだ。
長く伸びたきれいな金色の髪も、後ろで一つにまとめられている。
「一つ。わたしと、手合わせ願いたいの。よろしいかしら」
そう言った。
「手合わせ、ですか? それはかまいませんが、この刀は使えません。この刀は、魔物にしか効果はありませんから」
そう説明したのだが、クレア姫は疑いの目で少年を見る。
「このわたしのことを、馬鹿にしているわけ」
「いや。別にそういうわけでは……」
少年は、説明に困った。まさかクレア姫に向かって、刀を抜くわけにはいかない。
「では、手合わせというのであれば、剣技の練習用の木刀ではいかがでしょうか」
少年は、そう提案してみる。
それならば、練習試合のようなものだ。
相手が魔物だから、躊躇なく刀を振れるが、相手が人間となれば話は別だ。
だから、この手合わせで、「負けてもかまわない」と、少年は思った。
「いいわ。あなたの剣の実力が見たいだけだから」
この少年の提案に、クレア姫も折れてくれた。




