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サムライの格好で異世界に来たんだが  作者: 志村けんじ


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3/7

仮の名前


 朝起きたら、夢から覚めて、完全に元の世界……。なんてことは、なかった。


 少年は、窓から入る陽射しの眩しさで目を覚ますと、きのう見た世界と何も変わらず……。夢のままだった。


「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」


 遅く起きた少年を、ムランさんが起こしに来てくれた。


「お、おはようございます。おかげ様でよく眠ることが出来ました」


 少年は、テンプレのような質問に、同じようにテンプレの挨拶を返した。


「朝食を用意しましたので、どうぞお召し上がりください」


 少年は、またこのテンプレのような言葉に、夢なのか現実なのか、判断つかずにいた。


「そういえば名前をまだお聞きしておりませんでしたな」


「名前……ですか。名前は……えーーっと、ボクは……。拙者、佐々木十兵衛と申します。当てのない旅をしております。改めてよろしくお願いします」


 少年は、「夢の方」を選んだ。これなら、普段の自分とは違う。


 だから、この佐々木十兵衛というのは、本当の名前ではなかった。


 有名な歴史上のサムライ、佐々木小次郎と柳生十兵衛から取って作った、仮の名前となる。


 これが現実の世界でも、夢の中の世界でも、元居た世界とは違うのだから、全部違うことにしておこうと思った。


「では、十兵衛殿。食事をお召し上がりください」


 朝ご飯を頂いてから外に出てみると、穏やかな情景が広がっている。


 まるできのうのことが噓みたいに思えた。


 念のために、一応刀カタナは二本腰に差してある。


 火縄銃の方は、用意してもらった寝床の部屋に置いてきた。


 そもそも、その弾(玉)も無いし、撃てるかどうかもわからない。


 きのうの夜、村人が火縄銃に興味を示さなかったのは、おそらくこの世界には、弓と矢はあるが、まだ銃というものがないからだと思った。


 少年は、村の端まで行くと、辺りに人がいないことを確認してから、カタナをあらためて抜いてみる。


「なんだ。ちゃんと問題なく抜ける……。じゃあ、村の人たちには抜けないのはなんで?」


「このカタナ……。ひょっとして、オレにしか抜けないのか?」


 そう思った。


「ヤァーッ!」


 試しに、目の前の木に向けてカタナを打ち込んでみたが、やはり木には、傷一つ付かない。


 脇差の方はどうなのかと、そちらを抜いてみる。


「普通のただの脇差だよなぁ……」


「ヤァ!」


 試しに、同じ木に斬りつけてみるが、こちらも大刀と同じく、傷一つ付かない。


 脇差をただ無造作に振って、鞘に収めようとしたそのとき、思ってもいなかったことが起こる。


「バキッ」


 突然何かに引っ張られるように、木の枝が折れた。


 もう一度、脇差を振ってみると「バキッ」と音がして、今度は明らかに脇差の動きに合わせて枝が折れた。


 但し、ちょっとタイミングが遅れて、枝が折れている。


 少年は、そう疑問には思ったが、深く考えるのはやめて、そのまま脇差を鞘に収めた。


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