慈悲の心
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「どうじゃ。もう打つ手なかろう」
少年の背後を取ったエクセラは、余裕の笑みを浮かべる。
エクセラの言う通り、確かにこのままでは、打つ手はなしだ。
だがしかし、少年はたった一人で戦っているわけではない。
「コンッ」
背後から、エクセラの鎧に小石が当たる。
エクセラは思わず、その後ろを向いた。
エクセラに向かって小石を投げたのは、クレアだ。
少年は、その一瞬のエクセラの隙を見逃さない。
少年は身を屈めて、エクセラの胴に向かって、刀を打ち込んだ。
ほとんど何の抵抗もなく、スッと入った刃は、鎧の胴に半分斬り込んだところで、何か硬いものに当たって止まる。
「グヌッ……。この若僧めが……」
エクセラは、再び黒い霧となり、姿を消した。
「もう戯れは、やめることにしよう。この死の村の恐怖、味合わせてくれる!」
「出てくるがよい! ゾンビどもよ!」
エクセラがそう言い放つと、一行を取り囲むように、地面から不気味なうめき声が、あちらこちらから聞こえる。
「うぅーーう……」
「あがぁーーっ……」
「ほぉーーっ……」
そうして、土の中から這い出てきた数十体のゾンビが、あっという間に一行のまわりを取り囲む。
「一人じゃ敵わないから、数でモノをいわせるっていうわけですか!」
少年は、臆することなく、エクセラにそう返す。
その後すぐに。
「クレア! さっき、エクセラの体の中で、刀が当たったのは?」
そう聞いた。
「わからないわ!? なんのこと!? 何も見えなかったし、何も感じなかった!」
クレアは、少年の質問にそう答える。
「わかった!」
その間にも、ゾンビたちは、不気味なうめき声を上げながら近づいてくる。
クレアたち三人も、剣を抜いて構える。
「グガァーー!」
そのゾンビの中の、三体が同時にクレアたちに襲い掛かる。
三人は、各々《おのおの》にゾンビを斬りつけるが、それでもそのゾンビ三体は襲ってくる。
三人がそうやって応戦している間に、他に近づいてくるゾンビの数は増す。
少年は、自分にも襲い掛かってくるゾンビたちを、斬撃で斬り倒していく間に、あることに気づいた。
このゾンビたちは、首を刎ねない限りは、再び襲ってくる。
「可哀想かもしれないけど、首を刎ねて! そうしないと、また襲ってくる!」
なので、そうクレアたちに教えた。
「わかったわ!」
このゾンビたちも、元は土の中で安らかに眠っていたはずの人間だ。
それを無理矢理に、エクセラによってゾンビとして甦らせられたのだ。
だから、ゾンビたちに対しても慈悲の心があった。
「ごめんなさい」
「スマン」
「すまぬ」
そう言いながら、三人はゾンビたちの首を刎ねていく。
しかし、クレアたちの持っている西洋剣は、元来斬るというよりも叩きつける剣。
少年の持つ、切れ味鋭い、魔法を込められている刀とは違う。
だから少年は意を決めて、次々とゾンビたちの首を刎ねていった。
最後に残っていたゾンビの首を刎ね。もう立ち上がってくるゾンビはいない。




