サムライの格好で異世界に来たんだが
ある日の放課後のこと。
まだ十七歳になったばかりの、高校二年生の少年は、河川敷の草の上に寝転んで、青く広がる空に、ゆっくりと流れる白い雲を見ていた。
少年は小さいときにサムライに憧れて、小学四年生のときから剣道を習ってはいたが、試合で勝った数はほんのわずかだった。
「あぁー、なんかこのまま体が宙に浮いて、空って飛べねーもんかなぁー」
そんな現実では起こりえないことを妄想していた。
まぁ、そんなことはありえないよなー……。そんなことより、もっと剣道が強くなんねーかなぁー。
これが半分遊びだったら、余裕でみんなに勝てんだけど、試合になると、どーも緊張して、なんか身体が上手く動かねーんだよなぁー。
そのうち少年は、急激な強い眠気に襲われると、そのまま深く寝てしまった。
そして目を覚ましたとき。少年はさっきまでとは違う、異世界に来ていた。
さっきまで、河の向こうに立ち並んでいたビルの山たちがない。
その前に、目の前にあった河も無くなっている。
後ろは深い森で、目の前には緑の草原が広がっている。
少年は前に見たことがある、北欧神話の映画のようなところだと思った。
少年は、この突然の状況が、まったく理解できなかった。
それが、普通の反応である。
「はぁーーっ!? って、どういうことだよ!? って、ここドコだよ!?」
それだけではない。少年が身に付けている衣服も、高校の制服から、サムライの着物に変わっていた。
「えーーっと、これって、どういうことなんだぁーー!? この格好は、完全にサムライの格好だよなぁーー。オレが稽古のときに着てる、剣道着でもない」
少年が、自分の足元に目をやると、穿いていた運動靴が、藁草履に変わっている。
「それになんなんだよ!? オレのこの横にあるのって、どう見ても刀じゃねーかよ!? しかも、大刀と脇差の二本、ちゃんとある!?」
「おまけに、なんだよ!?」
その二本の刀の横には、火縄銃まである。
「えーと……。オレ、時代劇のエキストラにでもなったってことはないよな……」
もし、そうであれば、少し合点がいくのだが、そんなわけはなかった。
そんな突然のことに、動揺しまくりの少年の前に、口髭を蓄えた白人の老人が声を掛けてくる。
「アンタ、こんな所で、おかしな格好をして何しとるのかね?」
その老人の言語は、いままで少年が聞いたことがない外国の言葉だった。
えっとぉー、この人、なに言ってるんだ? 言葉わかんねー。でも、少なくとも英語ではないとは思う。
「あっ、えっ、えーっと……」
そのとき、老人の背後に、西洋の鎧を付けた骸骨のバケモノが、剣で襲い掛かろうとしている。
「ちょっと!? ふざけんな!」
少年は、ずっと前にゲームで見たことがあるようなバケモノに、自分はまだ夢の中にいるのだと、なんだか腹が立った。
「どーせ、夢の中なら、好き放題暴れてやるぜ!」
少年は大刀を手に取ると、そのまま抜刀して、その骸骨のバケモノを、左手に持っていた盾ごと、鎧を横一閃に斬り裂いた。
「どんなもんだい! 夢でしょ! 夢!」
「えーと、確かさっきのは……。スケルトン・ウォリアーって、いうんだっけか」
この老人を背後から襲おうとした、骸骨の兵士は、RPGでは、スケルトン・ウォリアーと呼ばれている。
その役割は、前衛として前線に立ち。 突撃兵であり、盾役でもある捨て駒だ。
奴らは、近接戦闘に特化していて、剣・斧・槍などを武器にしている。
ゲームの設定では、物理的に頑丈なはずだが、少年の手にした刀は、それをいとも容易く斬り裂いた。
「しかし、夢とはいえ、スゲー切れ味だなー! 盾と鎧をまとめて真っ二つにするなんて」
「でも、なーんか、おかしい……。刀を抜いたあと、刀が勝手に動いたような……」
少年は、刀を振るう前に、刀が勝手に反応したように思えた。
「それにしても、なんか妙に、リアリティのある夢だなぁー。ホント、夢かぁー」
そうどこかで疑いつつも、それでも、この老人が無事だったことに安堵する。
「おじいさん、怪我ない? 大丈夫だった?」
老人はこの少年が、いとも容易く、一瞬のうちにスケルトン・ウォリアーを倒したことに驚愕した。
「あ…ありがとうございます。助かりました」
少年はこのとき、老人が話した言葉が、はっきりと理解できた。
あれ? なんでだ? このお爺さんが話してる言葉わかる。なんで? まぁ、夢なら、当然か」
少年は、これもすべて、夢の中のことだと思った。
ふと刀を確認すると、いつの間にか鞘に収まっている。
確認のため鞘から刀を抜いて確認してみると、刃こぼれ一つしていない。
おまけに、あの斬ったスケルトン・ウォリアーの姿まで消えてる。
少年は試しに、太い木に向かって、大刀を振ってみるのだが、打ち込んだ刀の刃が当たったにもかかわらず、その木には傷一つ付いてない。
それに、刀の刃が当たった、衝撃すら感じない。
「んーーっ? どういうことだぁーー?」
これは、どういうことかと、まったく理解できない。
これも全部夢だからと、そう思うことにした。
そして少年は、この流れ的にも、「命を救ってもらったお礼をしたい」という、この老人に付いていってみることにした。




