プロローグ
「さ、3000……?」
目覚めてすぐにアクセス数や感想をチェックするのが日課になっていた。いつも通り布団の中でスマートフォンをごそごそといじっていたのだが、アクセス解析を見たところで文字通り飛び起きた。見間違いかと思ってマンガみたいに目をこすってしまう。僕はスマートフォンを投げ出し、パソコンでも確認してみるが、やはり同じ表示だ。
な、なんで……? 僕は喜ぶより先に戸惑った。パソコンの前でじっと考え込む。一晩で十倍以上。意味もなくこんなに跳ね上がるはずがない。
部屋をうろうろとする僕だったけれど、そこで布団の上に投げ出したスマートフォンにメッセージが着ていることに気づいた。
『やったねハラダ君!』
織本さんからだった。彼女も作品の動向をチェックしていたらしい。
僕は『ありがとうございます』と書き、続けて、何でこんなにいきなり人気になったか分かりませんとつけくわえる。
さらに数日後、僕のアカウントあてに、とあるメールが届いた。
僕はカップ麺の容器を持ったまま、パソコンの画面を見て、動きを止める。
送信者は『運営』。
件名は『書籍化打診のお知らせ』。
僕はおそるおそるメールの本文を開く。
『○×出版社と申します。
作品、拝見させていただきました。非常に面白く拝見させていただきました。書籍化を視野に……』
書籍化なんて遠い世界の話だとおもっていた。
僕の人生には無縁のことだと感じていた。
あの日、文芸サークルの部室で、とある概念をおもいつかなければ、こんなことにはならなかっただろう。
編集者と名乗る人物からのメールを前に、はじまりの日のことを僕はおもいだす。