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大学の部室で僕たちはテーブルをかこみ、読書会という活動を行っていた。先輩たちは文学作品を読み、テーマや背景について熱心に語っている。その横で、僕もふんふんと最初は真面目に聞いていたけれど、難しい話がずっと続くので眠たくなってきた。
先輩たちの文芸トークを子守歌に、うつらうつらとする。それがある種のトランス状態を生んだのか、天啓のように、その考えが閃いた。
「……あれ? もしかして物語って、四つのパートに区切ること、できません?」
僕の言葉に他の部員が怪訝な顔をする。
僕はニヤリと笑う。我ながら天才的な閃きだ。みんなも度肝を抜かれるに違いない。僕はさらに自分のおもいつきを練ってみる。説明しやすいように、四つのパートに名前をつけよう。『Aパート』『Bパート』『Cパート』『Dパート』と名付けるのはどうだろう。いや、それではあまりに素っ気ない気がする。そうだ、それぞれのパートにぴったりな漢字を一文字ずつあてはめればいいじゃないか。すこしだけかんがえて、僕は『起』『承』『転』『結』と名付けた。
早速、僕がさっきおもいついた起承転結という概念についての説明を始める。まずは部室の壁際に置いてある古い黒板に起承転結と書いてみた。四つの漢字を様々な角度からながめてみる。物語をこんな風に区切るなどというかんがえかたは、どんな本にも書かれていなかったはずだ。
「起承転結というのはですね、さくっとやってがーっといって、途中でどーんと……」
「え、全く意味が分からん」
僕の口下手さにみんなが度肝を抜かれた顔をする。おまけに、今までこの世界にはなかったかんがえかたなので、なかなか理解してもらえない。向かいに座った先輩が厳しい声をあげた。
「文芸活動中よ。非文芸発言は慎みなさい!」
長い髪をした小柄な女の子が言った。鋭い声に反して、その見た目は子供のようだ。高校生か、ひょっとしたら中学生と間違う人もいるかもしれない。実際は大学四年生であり、この文芸サークルの部長をやっている。
「でも、これは創作にかんする画期的な考えなんです」
部長はため息をつき「またわけの分からないことを」と呆れたような表情を浮かべる。
「あんたはこの前も寝ぼけて『普段はツンツンしているけどたまにデレる女の子って良くないですか?』とか意味不明のことを言っていたじゃない」
「あ、『つんでれ』のことですね。ツンツンデレデレするところから、そう名付けてみたんですけど……」
僕が話し終わらないうちに、他の男子部員が反発の声をあげる。
「道理の通らんことを言うな!」
「ずっと優しい方が良いに決まっているだろう!」
「女の子に冷たくされたら立ち直れなくなってしまうじゃないか!」
「みんな、ハラダ君の話を聞いてみようよ……。それで、その起承転結というのは具体的にどうするの?」
部員の一人が男子部員をなだめてそう言ってくれる。
僕は頷いて、今度こそ伝わるようにゆっくりと起承転結の説明をする。
起承転結の考えはシンプルなものである。
キャラクターや世界観を説明する『起』のパート。
事件が起こって進んでいく『承』のパート。
話に大きな転換が起きる『転』のパート。
事件の解決を描く『結』のパート。
話の進みぐあいによって、描く内容の役割を決めておく。こうすれば、スムーズに話を組み立てられるし、話がブレることも少なくなるだろう。自分で話しながら、これはやっぱりすごいアイデアだと思った。とんでもない発明をしてしまったような気分だ。
けれど、先輩たちはいまいちピンときていないようである。お互いに顔を合わせて、苦笑いをしている。
「ハラダ君は文芸というものがまだよく分かっていない」
「仕方がないさ。まだうちのサークルに入って二週間だもの」
「下らない考えね。あなたはマニュアルに沿って小説を書けと言うの? まるで工業製品のように。同じ方法で書けば同じような物語ばかりになってしまうでしょう。そんなの面白くないじゃない」
「いや、そんなことは……」
「いい? 物語には無限の可能性があるのよ。あなたの言う方法とはその可能性を自らドブに捨てるようなものよ。小説とは、己と向き合い、魂を削り出し書かなければならない。あなたは魂を鋳型にはめようとしているのよ」
そろそろ活動が終わる時間だったので、みんな帰り支度を始める。
「あ、それとみんな、今度のイベントのシフトだけど……」
もうすぐ大学で文化部発表会というイベントがある。文芸部はそこで作品を展示することになっており、部員は数名ずつ受け付けにいなくてはならない。そのシフトを部長が発表して僕たちは解散した。




