悪魔と戦乙女
どうやら悪魔は窓から外へと逃げ出したようじゃ。
それを追ってラジエルが飛び出す。
カンカンカンカン、カンカン
うひょ!追跡ルートを絞ってからの狙い撃ちとはやりおるわい。
じゃが火力不足じゃ。
ヤツの飛び道具ではラジエルの装甲を抜けぬのは実証済み、ワシが一番でなくて良かったわい。
まあ、この年寄りがいの一番に二階から飛び降りるとかないがの。
自身に軽量化の術をかけ、軟落下を重ねてかけ……
ぬお!こりゃアルテア何をする!
何とワシは有無を言わさずアルテアに抱き上げられて、そのまま外へ。
じじいのお姫様抱っこ二階から飛び降りバージョン。
きゃーはずかしい! じゃわい。
地面に降ろされ悪魔を探す。
おお、もうあんな所まで逃げておる、足が速いのう。頑張ればラジエルを振り切る事も不可能では無さそうじゃが……
ズドン!
上空より投じられた槍が悪魔の背中から胸へと抜け、そのまま地面へ縫い付ける。
そう、邸外待機しておったフュンフじゃ。
背に大きな魔力の翼を広げ上空から悪魔を見下ろすその姿はまるで断罪の天使、人の身では触れる事の出来ぬ孤高の戦士。
さすがは嫁をモデルにしただけのことはある。
美しい。
ふぅ、思わず見とれてしもうたわい。
足の止まった悪魔にラジエルが追いつき拘束の術を幾重にも施してゆく。
よいよい、悪魔はあれくらいでは活動を停止せぬ、じゃんじゃんやるのじゃ。
じゃが、気を抜くでないぞ奴らはそこからがしぶといでの。
十分に拘束が効いておると判断したらしきラジエルがゆっくりと近付き、
ドオン!
吹き飛ばされる。何と足元が爆発したわい。
どうやら罠を張っておったようじゃな、ラジエルよ油断大敵じゃ。
おっ、起き上がった。ダメージはないようじゃ。
しかし迂闊には動けぬ様になってしもうたがどうしたものか。
「アルテアや、どうにかならんかの?」
「すでに指示を出しました。しばらくお待ちくださいと申し上げます」
アルテアの返答とほぼ同時、私等が飛び降りてきた窓から次々とバルキリー達が飛び出してくる。
アイン、ドライ、フィア。
三体のバルキリーはフュンフと合流し上空で悪魔を囲む。
ん?ツヴァイがおらんようじゃが。
お、きたきた、何故かこヤツだけ玄関から走って来おった。
「ツヴァイや、何故お主だけ走っておるのじゃ?」
「う、うるさい、だまれセクハラじじい!」
顔を赤くし叫ぶツヴァイ。
セクハラじじいとはまた、ずいぶんな言われようじゃの。
こやつらの口が悪いのは今更じゃが、さすがのワシでも傷つくぞ?
「お父様ツヴァイは今、すーすーしたままなのです。発言にご配慮を、と要請します」
おお!そうじゃった、そうじゃった。
さすがに裸ドレスアーマーで飛び回るのはいかんな。うむ、いかん。
ツヴァイを除く4体のバルキリーの中、斧槍を構えたアインが飛び出し、悪魔の腹にその先端を突き刺す。
悪魔は痛みに叫び声を上げるがアインは御構い無しじゃ。
そのまま斧槍を持ち上げ悪魔を宙釣りにする。
そこへ抜刀した残り三体が群がりそれぞれの剣を突き刺す。
槍、斧槍、三本の剣。準備が整ったのぉ。
「ツヴァイ仕事です、行きなさい」
アルテアが促す。
「今日はもう、ちょっといいかなぁなんて思ったりするんだけど……」
「…… 行きなさい。同期率を上げましょうか?」
ツヴァイは絶望した様な顔をしておるの。
少しかわいそうか。
「アルテアや、配慮とやらはよいのか?」
「お父様、甘やかしてはいけません。役目は役目、発言の配慮とは別の話です」
「うぅ……、アルテア様の鬼ぃぃぃ!」
泣きながら飛び立ち仲間達と合流するツヴァイ。
ああ、確かに肌色じゃったわい。
おっと、アルテアの手で目隠しされてしもうた。
「お父様、ご配慮を」
はい。
目隠しをされて見えぬが、バルキリー達の歌が聞こえて来る。
悪魔を囲み、鉄を打ち込み、歌により縛る。
最近はバルキリーの数が増えたので楽になったもんじゃ。
最初は嫁とアルテアが細切れに切り刻みながら、ワシが丸一日かけて術で縛ったものじゃ。
それが今では触媒になる武器を打ち込み暫し歌うだけで無力化出来る。
ワシらの努力の賜物じゃな。
暫くすると歌が終わり、目隠しが解かれる。
バルキリー達は既に地面に降りておる。
「悪魔の能力は全て封じました。ゼクスの起動準備を申請します」
ふむ、ついに6体揃うか。
この悪魔ならばバルキリーの核としての条件は満たしておる。
精神的に熟成していない女性型の悪魔の魂。
器を先に用意してしもうたために起こったちょっとした不都合じゃ。
じゃからワシの趣味ではないとゆうに!たまたまじゃ、たまたま。
「ラジエル頼むぞい」
ラジエルが背負った箱から起動前のゼクスを取り出し、悪魔の前に横たえる。
「これより、バルキリー、ゼクスの起動の儀を執り行う。皆の者よいな?」
ここが最後の山じゃ、うまくいってくれるとよいが……
「わ、私をどうするつもりよクソジジイ!刃物で刺して怪我をさたうえにまだ何かしようなんて!この変態!早く私を解放しなさい!!」
む、まずいかの?
「お主はこの世界では咎人じゃ、じゃから裁かれねばならぬ」
「何よ!私は何も悪い事なんてしない!無実よ!そもそも証拠でもあるの?ないでしょ!訴えるわよ!そうよ、訴えてやる!弁護士を呼んで貴方を告発してやるわ!裁判よ!!」
やってしもうた。こやつ自分の立場をわかっておらんようじゃが一番面倒くさい事を言いおった。
チラリとアルテアを見る。
だめじゃ、後光が射しまくって神々しくなってしまっておる。
「【鉄壁】のアルテアの名において【悪魔】キリエの訴えを受理しました。これより審判の儀を開催する事を宣言します」
アルテアの宣言とともに周囲が光に包まれ、視界が白に染まったのじゃった。