邪術士と大錬金術士
邪術士達と対峙する。
まだ若い男じゃ。性格の悪そうな顔をしておるわい。
「今の子供、溶解液をまともに被って無事とは。お前らよほど上等な魔術結界を使ってやがるな。だが!」
男は手にした杖を振り上げる。
炎の槍かのぅ。じゃが少し魔素の動きがおかしい。
取り敢えず結界を張る。
後出しでなお、ワシの魔術のほうが発動が早い。
男が目を見張る。
ほっほっほ。伊達に100年も魔術を使うてはおらんわい。年季が違うのじゃよ、年季がな。
しかしじゃ、振り下ろされた男の杖からほとばしった炎の槍は、ワシが予想しておったものの軽く3倍はありそうな大きさじゃった。
「なんと!」
向かって来た炎の槍がワシの結界を貫き目前に迫る。
こりゃまずい。
大急ぎで二枚目の結界を発動させるがそれでも威力を押さえ切れず、ワシのローブが僅かに焦げる。
この男何をしおった?
「ハッハァ!よく防いだな爺さん。だがギリギリじゃねえか。そんなんじゃ俺の相手はできねえぞ」
大口を叩きおるが、それだけの事はあるか。今の術の大きさだけならリーベルトにも匹敵しよう。
「爺さん、酸素って知ってるか? クックック、悪魔の知識ってやつは凄えぜ?知ってるって事はそれだけで力なんだよ!」
男が再び杖を振るうと今度は炎の槍が三つ。
これはまともにぶつかるとまずいかの?
じゃがアルテアとラジエルは悪魔の対応をさせる為に動かせぬ。
悪魔共はこの世界の外の存在じゃ。どんな事をして来るか分からぬからの。
見たところ、こやつの炎の槍は、普通のものに比べて風属性の魔素が多く動く。
しかも、何やら見たこともない変質もしておるようじゃ。
さて……
「取り敢えず死んどけ」
まともに受ければ致命傷になりかねない三つの槍が放たれる。
「ふん!」
ワシも愛用の杖を振り、魔術を発動じゃ!
しかし結界ではこの三本の炎の槍は止められぬ。
ワシが選んだのは魔力消去と呼ばれる魔術じゃ。
魔素の構成を読み取り、干渉し分解する。
「ほっほ。思うた通りじゃ。異界の理により魔力消費を抑えながら炎の大きさを上げておったな?基盤になる魔術が小規模ならば干渉するのも簡単じゃ」
「くっ、これならどうだ!」
今度は水の魔素に土が混じっておるかの?
「無駄じゃ」
こやつの魔術のネタは割れたわい。
既存の魔術に異界の法則を加えて威力を上げる。
それによって魔力を押さえつつ強力な術を使えると言うわけじゃ。
ならば基盤になる術の発動を阻害してしまえばどうなるか。
そう、異界の法則に注いだ魔力の分だけの赤字になるのじゃ。
剣士や魔物相手に使うならば良いが、高位の魔術師同士の戦いではさほどのアドバンテージは得られぬし、ワシのような相手には邪魔でさえある。
因みにリーベルトのヤツじゃと簡単な初級魔術で飽和攻撃を仕掛けて来おる。
学生時代の模擬戦で雨のように降り注ぐ水球を凌ぎきれず、ずぶ濡れにされたのは良い思い出じゃ。
「くそ!なんなんだこの爺い!おい、キリエ手伝え!」
「えー、私戦いとか嫌なんだけど。私が知識チートとか教えてあげてるんだから現地人相手に苦戦するとかありえないし」
何やら文句を言いながらも悪魔が動く。
この初動がキモじゃ。
悪魔の中には予備知識無しでは対処のし辛い、いわゆる「初見殺し」な能力を持つものが少なくない。
これに迂闊に嵌れば例えアルテアであっても苦戦することもあり得る。
「もう、これ使いなよ。使い方覚えてる?私目立ちたくないんだからこれっきりにしてよね」
悪魔の手元が光り、鉄の杖のような物が現れる。
魔道具の類いの様に見えるが魔力は感じぬ。
「アインの記憶に該当データ有り。完全物理の飛び道具。脅威度B。ラジエルはお父様のガードを」
ずっと様子を伺っていたアルテアが動く。
タッタタタタタタタタ
大きく乾いた破裂音が響き、屋敷の天井の一部がパラパラと落ちてくる。
アルテアは相手の飛び道具を掴み発射口を天井にずらした状態で立っておる。
その神速の踏み込みに悪魔も邪術士も共に声も出ぬ様じゃ。
アルテアが邪術士を止めたのを見てラジエルも前に出る。
狙いは悪魔じゃ。
迫るラジエルに対し新たに光から飛び道具を取り出し、身を守ろうとする悪魔。
「最低!もう、何なのよ!」
タッタタタタタタタ
再びの破裂音じゃが。
カンッ!カッカッカッカッカ
杖の先から吐き出された何かは、全てラジエルの装甲ではねかえされる。
伊達にガンドの鍛えたオリハルコン合金でできてはおらぬよ。
そう考えるとアルテアに着せておる鎧も大して意味がないかも知れぬのぉ。
あれがなくても十分に硬いわけじゃからな。
いや待て、やっぱり必要じゃ。
もしも今回溶解液を被ったのがアルテアで、尚且つ鎧をつけておらなんだら。
危ない所じゃった。アルテア全裸とかラジエルが火を吹いて倒れてしまうとこじゃったわい。
それはさておき、悪魔に肉薄したラジエルが渾身の気合いと共に杖を突き出す。
それをまともに腹に受けて床を転がる悪魔。
見事な突きじゃ!
じゃが、杖を使いこなすと言うのはそうではないぞ?
もっと魔術的なやつで頼むわい。
ふむ、今回の悪魔狩りは割りかし順調にすみそうじゃの。
術師も悪魔もどちらも小者じゃわい。
「ああ!もう!さっきから何なのよ!なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのか説明しなさいよ!死んだと思ったらいきなりこんな世界に連れて来られて!テレビも携帯も、コンビニすらないなんて聞いてないわよ! おまけに現地人がこんなに強いなんて思うわけないじゃない!」
すくりと立ち上がる悪魔
「もういい、私帰る!あんた達この世界の人間が呼んだんだから責任持って送ってよね。呼んでおいて帰せないとか言わないでよ、其れじゃ誘拐と一緒だからね、はやくして!」
いきなりキレて支離滅裂な事を言い出しおったが……
「受け入れねば呼ばれぬし、対価を受け取らねば世界に定着もせぬじゃろうに」
「どうせ生贄を喰らわねば消える存在です。気にせず首を落としましょう」
「意志の疎通は無理っぽいね」
ワシらの会話に悪魔は鬼の様な形相でこちらを睨みつける。
「もういい!死んじゃえ!」
こちらに何かを投げつけ、窓から飛び出す悪魔。
咄嗟に結界は張ったがこの投げ付けられた丸い物はなんじゃ?
結界を維持したまま覗き込もうとした所で……
ドーン!
ぬお!爆発しおった。しかも硬い物を飛び散らせながらの爆発とは、殺意ありすぎではないかの?
まだ耳がキーンっとするが逃すつもりは無い。
追うのじゃ!




