仲間に相談してみた
休日二日欲しいという俺の願いを心優しいセシリアは考える間も無く了承。
しかし、セシリアは何かを察したのかその後の会話がよそよそしくなり、俺も上手くフォローできず。
気まずい感じで日にちは改めて連絡しますと言われて別れた。
こんなんで良いのかと思いつつなにもできないという情けなさ。
これならまだ厨二を出してツッコミを誘った方がマシだった。
「どうしよう、俺……」
急に吐きそうになってきた。
めっちゃ緊張する。
プロポーズの前段階ってこんな気持ちになるのか。
「ユウガもレイヴンもこんな気持ちになったのかな」
気になる。
二人をよく見てきたと豪語できるけど、気持ちまでは見えない。
プロポーズする前ってどんな心構えが必要なんだろう。
「ちょっと聞いてみよう」
今日はもう遅いから後日になるけど。
「ヨウキ様」
「うわっ……びっくりした。ソフィアさんでしたか」
屋敷の前であれこれ考えていた俺も悪いけど、急に声をかけられるのは驚くぞ。
「屋敷に戻ってからお嬢様の様子が少々……おかしいのですが?」
何かやったかというような視線をひしひしと感じる。
最早、疑いの余地なしといったところだ。
しかし、女性でセシリアに近しいソフィアさんに事情を説明するのは気がひける、
でも、下手な誤魔化しが通じる相手ではない。
「言えないようなことなのでしょうか」
「うっ……言えない。しかし、悪いことはしてないと断言する。絶対だ」
これで諦めてくれ。
じっ……と探るように俺の目を見てきたので、目を逸らさずに真っ直ぐに見つめる。
「……成る程、そういうことですか」
どうやら納得してくれたらしい。
何をだって話だけどソフィアさんだからな。
察してくれたんだろう。
「ヨウキ様。お嬢様を泣かせることは許しませんので、相応の覚悟を持って行動して下さい。たとえヨウキ様の力が未知数でも全力をもってお相手致しますので」
ソフィアさんの目がマジである。
メイド長が出すオーラじゃないぞ、これ。
だけど、ここで引いてたまるかという話で。
「言われなくても分かってます。今の言葉はソフィアさんなりの応援ということで受け取るんで」
「そうですか。では、失礼致します」
表情を変えずに身を翻してソフィアさんは屋敷に戻っていった。
ここまで啖呵切ったんだから、頑張らないとな。
さて……まずは相談してみるか。
というわけでレイヴンになんとか時間を作ってもらえないかと交渉。
ハピネスとの婚約騒動と本業で忙しいらしく、見回り中のデュークを捕まえて伝言を頼んだ。
俺の家に来てくれることになり、約束の日に訪ねてきたのは……。
「デュークとイレーネさん?」
扉を開けるといたのは鎧姿のデュークとイレーネさんである。
レイヴンはどうしたんだ。
「……俺だ、ヨウキ」
「あれ、レイヴンの声? でも、この鎧って」
「……似た物を用意したんだ。イレーネとデュークが二人で見回りをしていることは周知の事実。まさか、俺だとは思わないだろう?」
「そういうことか」
「……最近周りをうろつく輩が増えてな。覚悟はしていたんだが。こちらも準備を終えてからハピネスのこと公言したいのに」
「大変なのに呼び出してごめんな。イレーネさんも」
協力してくれたことに感謝しないと。
「いえ、団長とデュークさんの頼みです。ヨウキさんにもお世話になりましたから。では、団長。昼過ぎに迎えに参ります」
綺麗な敬礼を見せてイレーネさんは去っていった。
イレーネさん、雰囲気変わった……?
とりあえず、レイヴンを中へ招いて座らせてと。
「イレーネさん、何かあったのか?」
本題の前に気になったので聞いてみることにした。
「……やっぱり、そう見えるか」
「ああ。前は危なっかしさがあったというか……」
ドジっ娘属性が付いてたよな。
「……騎士団でも噂になっててな。イレーネの仕事が早く正確で無駄がなくなったと。まあ、原因は分かってる。デュークだ」
イレーネさんの能力向上とデュークに何の関係があるんだ。
まさか、デートと言って休日に鍛えていたり。
デュークならやりそうだ。
「勤務中、イチャつくことができないからか。なるべく早く仕事を終わらせて帰宅してからデュークに甘えているらしい」
「そんな理由かよ!」
「……ああ。最近寮を出て小さな家を借りて暮らしているんだ」
同棲しているのも初耳なんだけど。
この前、巡回中に会った時はそんなこと話してなかったのに。
「……騎士団内でも二人のことは噂になっているんだが、態度や関わり方は変わってないからな。上手く誤魔化せているよ」
「そうだったのか。……デュークのやつ大丈夫なのか?」
付き合い始めてからイレーネさんが肉食系になったんじゃなかったっけ。
「……デュークの話だと大変らしい。仕事中はくっつけないから我慢している分、帰ると凄まじいんだとか。まあ、仕事中に別行動していると寂しさが増して結果、帰ると反動がすごく、どっちを取ってもという話だ」
「デュークも大変なのか。そんな時に声かけて悪かったな」
「……いや、ヨウキも決心したんだろうと二人で話してな。ようやく隊長も男になるんだと嬉しそうにしていたんだ。そのための協力なら惜しまないとな」
呼んだ時点で察していたのか。
何だか恥ずかしい話だな。
「まあ、セシリアにプロポーズをするんだけどさ。悩んでるんだ」
「……言い方が悪いが今更何を?」
「プロポーズってどんな風にすれば良いのかなって」
ハードルが上がりすぎていてプレッシャーになっているんだよ。
成功したら一生に一度の想い出になるんだぞ。
ショボかったら駄目じゃん。
そんなこと考えたら不安になってなぁ。
「……そういうことか」
「期待させておいて微妙なプロポーズになった時のセシリアの反応を想像するともうさ……」
こんな時に厨二スイッチでも入れれば良いんだけど軽々しく決められるもんじゃないから無理なんだよ。
セシリアから休日を伝えられても今の俺にはプランがないんだ。
家に呼び出していつもみたいに談笑して指輪渡すわけにもいかんし。
「……そういうことか。俺もハピネスに想いを伝えると決心した時は胸が締め付けられるような気持ちになったよ。沢山の強敵と戦ってメンタルはかなり強化されていたと思ったのにな。だけど、決めたからにはやるしかないと思ったんだ」
「それはわかってるんだけどさ」
「……ヨウキのできることをやれば良い。俺にはこれしか言えん。そもそも俺だって婚約したばかりだ。ただ、セシリアはヨウキのやることなら何でも嬉しいって言うと思う。困らせなければの話だけどな」
「そこまで方向性がずれた行動はしないって」
「……プロポーズ中にセシリアの説教が始まらないように気をつけろよ?」
「そういう展開にはならないって!」
俺のことを何だと思ってるんだ。
それからは恋人の自慢話対決になり、気がつけばイレーネさんが迎えに来てレイヴンは帰った。
話してすっきりはしたけどプランが……と考えていたらまたもや来客人が。
レイヴン以外は呼んでいなかったんだけど。
「それで今日はどうした」
「何、小僧の部下に頼まれた。話を聞いてやってくれとな」
来客人はガイだった。
デュークの仕業らしい。
「いや、まあ聞いてくれるなら助かる」
俺はセシリアへのプロポーズについて悩んでいると打ち明けた。
「それを我輩に話してどうしろというのだ」
「助言とかあれば」
「助言か……」
必死に頭を悩ませているご様子。
ガーゴイルのガイに助言を求めることが間違っているような気もするが。
「はっきり言ってわからん。だが、我輩はティールから毎日のようにその……好意を向けられている」
「知ってる」
そんな言いづらそうにしなくてもわかってるから。
「やはり自分に好意を向けてくれているいうのはな。大変むず痒いものなのだが、毎回ティールは笑顔で接してくるわけで……」
ガイは惚気を言いに来たのか。
俺の視線に気づいたようで咳払いをして無理矢理空気を変えやがった。
変えても今の会話はきっちり覚えてるからな。
「つまりだな。相手に好意は伝わっているのなら、あとは押すだけだ。……合ってるか?」
「なんで俺に聞くんだよ……」
「我輩も自信がなくてな」
最後に気合を入れてやると背中を叩いてガイは帰っていった。
ガイよ、お前は惚気に来ただけじゃねぇのか。
まあ、気合は入ったかもしれない。
来てくれて助かったよ。
夕食時になったらまた客がやってきた。
「来て大丈夫なのか?」
「大丈夫っす。イレーネは家で大人しく待ってるんで」
最後の客はデュークだった。
来てくれたのは嬉しいんだけどさ。
「一戦交えた後に見えるんだけど」
「……何でわかるんすか」
「何年の付き合いだと思ってんだよ」
鎧で表情見えなくても疲れてるのがわかる。
しかも、それが仕事が理由じゃないこともな。
「隊長の言う通り……ちょっと無理して出てきたっす。時間がないんで一言だけ言わせてもらいに来たんすよ」
デュークもなんだかんだで世話焼いてくれるよなぁ。
セシリアとデートした時とかも相談乗ってくれたし。
デュークには感謝しきれない……。
「隊長が悩んだ結果、どんなプロポーズになってもセシリアさんなら上手くまとめてくれると思うっす」
「おい、こら!」
親指立てて何言ってくれてんだ。
長年の付き合いだからわかる。
こいつ絶対笑ってるだろ!
「それじゃあ、俺はこれで失礼するっす」
デュークは帰っていった。
「成る程、俺がどんな計画を立ててミスしても最終的にはセシリアが上手くまとめてくれる……か」
人生……いや、魔族生一度の大勝負でそんな情けない話はないだろう。
相談して良かったと思える。
俺は絶対にツッコミどころがない、完璧なプロポーズを……セシリアの休日二日を有意義なものにしてみせる。
翌日から俺は情報収集に取り掛かった。
最初に得た情報は騎士団に出勤したデュークとイレーネさんのこと。
デュークはだるそうにしていてイレーネさんはツヤツヤしていてすこぶる機嫌が良かったらしい。
ほんと……ありがとうデューク。




