表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/420

五周年記念 買い物に出掛けてみました

約一ヶ月放置で前編後編です……すみません。後編はなるべく早く上げます。五周年記念じゃなくなってしまった。

「今日は何をしましょう。……また、お忍びでヨウキさんが来てくれたら良いのですが」



勇者様とミカナの結婚式以降、休みが中々取れない中、せっかくのお休み。

一人で過ごさねばならないのは少し寂しいですね。



大胆に魔剣士さんとお付き合いしているという発言をしたのに、婚約の話が完全に収まったわけではないですし。

簡単に連絡する手段があれば良いのですが、今日は急に予定が空いたんですよね。



「失礼します……お嬢様。大丈夫ですか。窓の外を見ながらため息を吐いておりましたが」



「あっ、ソフィアさん。すみません、ちょっと……」



寂しく思っていたせいか、行動に出てしまっていたようです。

いけませんね、いつ、どこで誰かが見ているかもしれないのですから、一人の時でも気を配らないと。



「……お嬢様の気持ちは理解しました。ヨウキ様のご自宅まで急ぎで便りを出します」



「えっ……それは」



お願いしたいところですが、ヨウキさんも黒雷の魔剣士として頑張っているところかもしれません。

私の急な都合で呼ぶのは……どうなのでしょう。



ヨウキさんは頼まれると断らず、最後までやり遂げるので、疲労が溜まっていることも考えられます。



「ソフィアさん、良いんです。今日はゆっくりと読書しようと思います」



外出も誰に尾行されるか分からないので落ちつかないんですよね。

となると、屋敷で行動するしかないんですよ。

体を休めるのも必要ですし、今日はこれで……。



「お嬢様」



「何ですか、ソフィアさ……」



急に両手を握られてしまいました。

どうしたのでしょうか、こんなソフィアさんは初めて見ます。

表情を見ただけで応援されているのが分かりました。



「私は……お嬢様の味方です」



「ありがとうございます。ソフィアさんにはいつも助けてもらっていますから……改めて味方だと言われ、心強いです」



「お嬢様。せめて、外出しましょう。良い気分転換になるかと」



「ソフィアさんの気持ちは嬉しいのですが……」



「分かってます。ですから、私が何とか致します」



がしっとソフィアさんに手首を掴まれ、部屋から連れ出されます。

何処へ向かうのでしょう。



そして、何とかするとは一体何を? 

疑問に思いながらも大人しく連れていかれました。



「お嬢様、このような無礼をお許し下さい」



ソフィアさんが深々と頭を下げ、謝罪します。

何故かと聞かれると今の私の格好が原因でしょう。



明るい茶髪のショートカットのかつらに眼鏡。

そして……ハピネスちゃんたち、使用人の方々が着ている仕事着を着ています。



鏡を見ればそこには使用人の姿がありました。

これなら外出しても、セシリア・アクアレインだとばれる心配はないでしょう。



「お嬢様に使用人の服を着せるなど、無礼な行為とは重々承知しておりますが、私にはこれしか案が浮かばず……」



ソフィアさんはがっくりと頭を下げてきます。

私のためにとソフィアさんは考えて、こうした物を集めてくれたのでしょう。



「ソフィアさん、頭を上げて下さい。ソフィアさんのおかげで私は気分転換のために出掛けられそうなんですから」



「お嬢様……ありがとうございます」



「お礼を言うのは私の方ですよ。では、早速出掛けても良いですか?」



「そうですね。念のためにハピネスを付けても良いでしょうか。使用人が一人で買い物というのも目立つかもしれません。何よりお嬢様に危険が及ぶ可能性もあるので……」



ソフィアさんの説得により、ハピネスちゃんも同行することになりました。

一人よりも二人の方が楽しいので大歓迎です。

気を付けて下さいとソフィアさんに見送られ、屋敷を出ました。



「……助っ人」



「助っ人ですか」



「……こっち」



ハピネスちゃんの案内でやって来たのは騎士寮でした。

来る前から何となく想像はしていました。

おそらく、助っ人とはレイヴンさんかデュークさんのことでしょうね。



「……呼ぶ」



ハピネスちゃんは一言言い残して、騎士寮の奥へと進んでいきました。

ロビーに取り残されてしまった私はどうすれば良いのでしょうか。



すれ違う騎士の方々からの視線を感じます。

普段いないメイドが立っているのですから、当然ですよね。

居心地が悪いと思うのは失礼かもしれませんが……早くハピネスちゃん来てくれないでしょうか。



「……ちょっと良いか」



後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはレイヴンさんがいました。

声でレイヴンさんと分かりましたが親しげに話してしまうと正体がばれてしまいますね、どうしましょう。



「……知らないメイドが立っていると少し騒ぎになっている。どこの屋敷の者か聞きたいので、こちらに来てくれ」



これはレイヴンさんの助け船ですね。

私は声を出さずに首を縦に振り、レイヴンさんに付いていきました。

案内されたのはレイヴンさんの部屋、これで一息つくことができます。



「ありがとうございました、レイヴンさん」



「……ああ、ハピネスに頼まれたんだ。今はデュークの相手をするので忙しいと言ってな」



「デュークさんですか?」



「……変装させているらしい。ヨウキが考えるようなことだ」



確かに変装は普段ヨウキさんが考えて行っていることですね。

正解かどうかの判定に迷う格好をしていますが、助かっていることが多いんですよね。



「……隊長と部下という関係上、学んできたことが多いはずだ。俺が知らないハピネスをヨウキはたくさん知っているんだろうな」



「長い付き合いだと聞いていますからね。……嫉妬ですか?」



ハピネスちゃんのことになるとレイヴンさんは表情がころころと変わります。

今も焦っていますからね。



この反応はハピネスちゃんを大事にしている証でもあります。

愛されていますよ、ハピネスちゃん。



「……嫉妬だな」



「それはハピネスちゃんを想ってる証でもあると思いますよ」



「……これぐらいで嫉妬するのは男として器が小さいと思うんだが」



「自分以外の男性と仲良くしているのに、何の感情も湧かないよりは良いと思います」



それでも自制は必要ですが、この一言は言わないでおきましょう。



「失礼するっすよー。セシリアさん、こんにちはっす」



「あ、デュークさん……その格好は?」



部屋に入ってきたデュークさんですが、普段見ている鎧兜の姿ではありませんでした。



服装は執事服、それでは首が……と思いきや、口元が隠れるマスクを着けており、シャツと縫い合わせているようです。



さらにストールを巻いていますね、これなら首のことを誤魔化せそうですが……。



「……危ないな」



「私もそう思います。その状態で激しく動くとどうなるのかが心配ですよ」



「はい、やばいっすよ。固定しているわけじゃないんでジャンプしたら、首が微妙に跳ねるっす」



かなり危険な状態ですね。

万が一転んだりでもしたら、大惨事ではないですか。



「まあ、いざとなったら魔法で首を操るんで大丈夫っすよ、何とかなるっす」



「な、なるんでしょうか」



「俺も暇してたんで出掛けたいんすよー。イレーネとは休みが被ってないから、行く相手がいなくて。セシリアさんとハピネスの護衛、大歓迎っす」



デュークさんが乗り気なのですが……どうしましょう。

助言を求めてレイヴンさんを見たのですが。



「……デュークがいるから大丈夫だとは思うが、怪しい奴に着いていくんじゃないぞ」



「……うん」



「……変なのに絡まれたらセシリアの屋敷の使用人だと言うんだ。後ろ楯があると認識させれば調子に乗るようなことはしてこない」



「……うん」



「あとは、そうだ……気を付けて行ってこい」



「……仕事、がんば」



間に入って良い状況ではありませんね。

仲が良いのは良いことです。



「あー……最近はあの二人が羨ましく見える時があるっすよ、全く」



デュークさんもちょっと気にしているみたいです。

ハピネスちゃんと離れたくなさそうなレイヴンさんに別れを告げ、私たちは町へ繰り出しました。

久しぶりに人目を気にせずに歩きます。



「それでセシ……なんて呼べば良いっすかね」



「セシリーでお願いします。こういう時に使う呼び名でヨウキさんが考えてくれたんですよ」



「……了解。これ、買い出しメモ」



「買い出しメモ? 普通に仕事じゃないっすか。ハピネス、今日はセシリーさんの息抜きじゃあ」



買い出しメモですか、ソフィアさんが持たせたのでしょう。

メモを見る限り一つの店では解決しそうにありませんね。

目的地に困らないようにという、ソフィアさんの配慮ですね。



「買い出しは冒険していた時に何度も経験しました。行きましょう」



「……苦労人」



「あー、そういえば隊長がセシリーさんはパーティーで苦労していたって話してたっすね。男性陣がどうとかで大分苦労したとか」



「あの頃はあの頃で楽しいこともあったんですよ。それに私、買い出しとかの経験があまりなかったので、鍛えられたという意味では良かったと思っていますし」



屋敷では買い出しはソフィアさんたち使用人の仕事ですから。

最初は大変でしたが、ミカナが色々と教えてくれたんですよね。



「あの旅が私を成長させてくれたんです」



「……なんか、お疲れ様っす」



「……拍手」



「私は普通に思い出話をしただけのつもりだったんですが。何故、二人とも大袈裟に労ってくるのでしょうか」



私がそう言うと二人は顔を合わせて微妙な顔をしています。

今の話にそこまで深く考える要素はないと思うんですけど。



「いやぁ、レイヴンからもセシリーさんの話を聞いたことがあるんすよ。ご飯の支度はセシリーさん、お金の管理もセシリーさん、怪我をしたらセシリーさん、勇者の尻拭いもセシリーさん、その他諸々セシリーさん……」



「……過労死、寸前」



「二人とも、その不憫な者を見る目は止めてください……」



私にとっては良い経験になったので良いんですよ。

勇者様が日持ちしない高価な食材を買ってきて腐らせたり、レイヴンさんが買い物に行くと予想以上の時間がかかったり、ミカナが勇者様に色目を使ってる女性と揉めたり……。



「本当に……良い経験になりました……」



「ちょっ、セシリーさん! 遠い目で空を眺めるの止めるっすよ。戻ってくるっす」



「……帰還!」



思い出に浸っていたのですが、二人から肩を揺すられて正気に戻りました。



「やっぱり、セシリーさんは苦労人っす!」



「……援護」



「そうっすね。今日はセシリーさんに苦労をかけないように何があっても俺たちが対応するっすよ」



「……承知!」



二人ともやる気満々といった感じなのはありがたいのですが、今日は普通のお出掛けですよ。



勇者様やヨウキさんもいませんし、私ではトラブルに巻き込まれないと思います。

……こんな言い方は二人に失礼ですね、撤回しましょう。



「何があるか分かりません。騒ぎにならないように行動しましょう」



「了解っす」



「……了承」


頼りになる二人を連れての買い物が始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ