新婚夫婦を見送ってみた
ユウガの意思を尊重するべく、イレーネさん以外にはばれてるけどばれていない体で俺たちは動いた。
とは言ってもハプニングが連発して起きるようなことは……あった。
イレーネさんが彼氏へのお土産はどうだと言われ、顔を真っ赤にし動揺している隙に商談を無理矢理勧めてくる、露店商。
彼氏という言葉に反応するイレーネさんを見て、デュークは俺っすか、俺っすよねと動揺を隠せないでいた。
見た目は荒くれ者なんだから、堂々としていてくれよ。
過剰な押し売り禁止、と書かれた扇子を置いてきた。
セシリアを引き込もうと執拗な勧誘をしてきた謎の宗教団体。
祭り関係ねーだろうという話。
俺はセシリアの正体ばれてるんじゃないかと焦ったけどな。
宗教団体が聖母を勧誘するってどうなの?
まあ、全力で止めたけどな。
信者勧誘禁止、と書かれた扇子を投げつけてやった。
セシリアが少しだけこちらを見て微笑みかけてくれたので、仕事の満足感がすごい。
スキップしたい気分である。
「ちゃんと楽しめているかな。随分と絡まれたりすることが多いみたいだけど」
「ここまできたら、陰ながらじゃない方が良さそうだけどな。一人に一人付けば良いんだからさ」
「そうっすねぇ。声を出さずに隊長の扇子だけでやるには限界があるっすよ。……どうせ、イレーネ以外にはばれてるし」
最後の言葉は声が小さかったので、ユウガには聞こえてないようだった。
もう女子だけで見回るのは充分なんじゃないのかね。
ミカナも周りをキョロキョロと見回してはため息をついてるし。
あれ、絶対ユウガが出てきてくれるの待ってるだろ。
「もうひょっとこ行ったら良いんじゃない。頃合いだろ」
「……良いのかな?」
「うじうじしてんなって。お前はどうしたいんだよ」
駆けつけたい気持ちでいっぱいなはずだ。
お面のせいで顔は見えないけど、きっとそんな表情をしていると……俺は信じている。
「イレーネもそろそろ限界っぽいんで、行ってくれないっすかね。……女性をいつまでも待たすのは男としてカッコ悪いっすよ」
「そ、そうだね。……よし」
頬に張り手をして気合いを入れるひょっとこ。
もういらないから外して良いんじゃないかな。
変装用の眼鏡あるし、それを付けて……。
「あっ、またナンパされてるっす!」
「うぉぉぉぉぉ!」
行っちゃったよ。
ひょっとこのまま、全力疾走だわ。
差し出そうとしていた眼鏡はどうすれば良いのか。
「なあ、これで丸く収まる……よな?」
「いけるっすよ。二人のあの感じを見て行けないなんて思えないっす」
何故だろう、どうにも引っ掛かっていることがある。
祭りでナンパなんてつきものだ。
浮かれた若者なら美少女が三人で歩いてたら、チャンス到来と思うだろう。
普通に考えたら皆気付くよなぁ。
ミカナは頭に血が昇っていて、ユウガは止めたけど無理だった。
デュークは入る余地がなかった、イレーネさんは……。
駄目だ、考えたらドジっ子シーンしか浮かんでこない。
失礼だとは分かってるけども、印象が強烈に残っているから、無理!
ごめんなデューク……。
「となると……俺の感じた違和感はあれかなぁ」
「さっきから、何をぶつぶつ言ってるんすか隊長。俺らも合流するっすよ」
「あ、ああ。そうだな」
デュークに急かされて四人の元へ。
着いたら、ちょうどナンパ男を追い払ってる最中だった。
「さっきから、なんだよお前。この子は俺たちが先に声をかけてたんだぜ。横から入ってくんじゃねーよ」
「……横から入ってきているのは君たちの方だ」
「はぁ?」
「妻がナンパされていて黙ってられる夫がいると思うかい?」
待て待て待て待て!
その台詞はひょっとこのお面を取ってから言えよ。
なんだなんだ、と野次馬が集まってきてるし。
思いっきり目立ってるんだけど。
「お、夫?」
「そうだよ。行こうか」
ユウガがミカナの手を取り、連れ出す。
抵抗することなく、ミカナはユウガに合わせて歩き出した。
これにて一件落着かな。
「ちえっ、なーんだ、既婚者かよ」
「実は年いってるとかな」
「まじかー。全然気づかなかったな。水色の髪の子とか聖母様っぽくてタイプだったのに。ショックだわー」
あっ、地雷踏んだやつ一人発見。
セシリアにとっても俺からしても今の発言は地雷である。
早速、とっちめることにした。
「な、なんだお前」
突然現れた俺に驚いているらしいが、説明はしない。
扇子に書く言葉は、地雷踏み込み禁止。
これを投げつけてやろうとしたら、セシリアがナンパ男に一言。
「女心を掴む努力をしましょう。まずはそこから始めるべきですね。それでは、失礼します」
やはり、地雷を踏み抜いた罪は重いらしい。
俺とユウガがガチのやらかしをした時に見せた笑顔を披露。
ナンパ男は腰を抜かしてしまい、去っていくセシリアに頭を下げていた。
これはトラウマ確定だわ。
俺は扇子にさらなる言葉、自分磨き最優先と書いてそっと男に渡してセシリアを追いかけた。
「おつかれ」
「ヨウキさんですか。勇者様には正体をばらしてしまったんですか」
「いいや、偶然この辺に来てたってことにしたんだ」
「そうですか」
「やっぱり、ばればれだった感じかね」
「逆に目立ちますよ、あれでは。イレーネさんは気づいていないようでしたね。このお祭りには騎士団だけでなく、ああいった素晴らしい方々が見回りをしてくれているんですね、と目を輝かせて話してましたよ」
「それは……反応に困っただろうな」
「私もミカナもなんと声をかけて良いか分からず……」
「デュークは気づいてもらえずにショックを受けていたよ」
「でしょうね」
二人で歩きながらの会話はいつも通りに見える。
なら、気になっていたことを聞いてみよう。
「セシリア。聞きたいことがあるんだけど」
「どうぞ」
「なんか、悩んでたりする?」
セシリアの歩みが止まった。
この旅行はどうにもセシリアらしくないところが目立っていた。
もしかしてとは思っていたんだけど、どんぴしゃだったらしい。
「……誰もいないところに行きたいです」
「任せてくれ」
こんな騒がしく人が多いお祭り会場だろうと、俺になら誰もいない場所を探すことは容易。
セシリアの手を引いて、誰もいない場所へと誘導した。
祭り会場から少し離れた位置にある公園だ。
周囲に誰もいないことは確認済と。
ちょうど良くベンチがあったので座った。
「さて……今なら誰もいないし二人きりだけど」
「そうですか。……まず、今回の件についてです。すみません、私が回りくどいことをしたせいで迷惑をかけました」
すみません、と頭を下げてくる。
……なんでそうなる。
「いやいや、セシリアは何も悪いことしてないでしょ」
むしろ俺の方が空回りしていたしさ。
「いいえ。私がミカナの相談にもっと乗り、勇者様の対応をしっかりしていれば日にちを無駄にすることはなかったんですよ」
「それはユウガたちの問題じゃないか」
「今日だってそうです。三人だけで出掛けたら声をかけられることは想定できたはず。下手に目立って私たちのことがばれたら、騒ぎになり旅行が台無しになるのは目に見えています。それなのに、女性だけで回ることに私は……」
俺が聞きたいのはそういうことじゃない。
セシリアの反省は分かるんだけど、問題はどうしてセシリアがいつもと同じ状態でいれなくなったか。
そこが知りたいんだけど、今のセシリアに質問攻めはどうなんだろう。
今にも泣きそう……な程でもないが、状態が良いとは言えない。
ここは男を見せる時だ、顔もお面で見えていないしな。
俺はセシリアの肩を抱いてそっと体を寄せた。
「こうすると落ち着いたりしない?」
慣れないことをしているので、つい聞いてしまった。
聞いたらムードが無くなるだろ、馬鹿か俺は。
しかし、セシリアはうつむいてそうですね、と小声で肯定してくれた。
効果はあったらしい、良かった。
「護衛もしないでいちゃついてて良いのかね」
冗談を言ってみた……半分は本気だ。
「本来はダメですよ」
「だよなぁ」
「でも、今は二人きりになりたいと思いますよ、ミカナたちは」
「そっか。なら、良いかな」
「はい……私ももう少しこうしていたいので」
「俺も賛成」
無理に話を聞き出す必要もないのかもな。
「ヨウキさん」
「ん、言いたくないことは無理に言わなくても良いよ」
「そんなわけにはいきませんよ。……私はヨウキさんと私だけの秘密が皆に知られていくのが嫌だったんです。子どもみたいですよね。でも、二人だけの特別なことって……大事かなと」
俺はそんなに深く考えていなかった……考えるべきことだったのに。
セシリアのことをちゃんと見ていたつもりだったのに、所詮はつもりだった、だけと。
セシリアは俺たち二人のことを真剣に考えてくれていたのだ。
そんなセシリアの気持ちを知ったら……。
「セシリア、こっち向いて」
狐のお面を取り、セシリアの目を真っ直ぐに見つめる。
セシリアは何も言わずに目を閉じた。
そして、俺は……セシリアにキスをした。




