乙女たちの密談
「ヒビキ、どういう事ですか?」
トイレに入り鏡が並ぶ前で二人は密談を始める。
ディアジオに対してさほど興味のないアリスはヒビキの先行した決定にやや不満な声で抗議する。
「アリス。よくよく考えてください。彼はほぼアリスの望み通りの人材です。どうやら容姿はアリスの好みからやや外れているみたいですが、付加価値も考えると得難い人材ですよ」
「えーと、それは?」
「出発するときに話した事を覚えていますか?」
「なんの事です?」
ヒビキは少しいじわるな顔をして。
「……自信過剰、されど仲間思いの剣士」
ピクリと反応して、思い出したようにこちらを見るアリス。
「暗い過去を持ったクールでニヒルなシーフ」
ピクピクッと反応するアリス。完全に思い出したという顔で手をわちゃわちゃと振る。
「人と魔、禁断の恋に落ちた天才魔法使い」
ピクピクピクッと震えつつも、真っ赤になってヒビキの口をおさえにかかる。
自分を抑えようとした手をうまくあしらって言葉を続けるヒビキ。
「そんな仲間を後方から癒す、異国からやってきた謎の美少女ヒーラー、アリスちゃん」
「もう! 思い出しました! だからもうこのお話はおしまいです!」
息も荒くなったアリスに、ヒビキはさて、と改めてディアジオの事を評価する。
「天才かどうかはわかりませんが、マックの反応や彼自身の物言い、周囲からの反応などからほどほどに腕のいい魔法使いである事はうかがえます。それに加えて商人としての能力とコネクション。足もアゴも出してくれそうな財力あふれるサポート体制。馬車も知識も経験もない私たちが欲してやまない相手です。早々に仲間にしても悪くないのではないかと?」
「確かにそう言われればそうなんですが……」
理屈では確かにそうなんだろうという顔でアリスは肯定する。
ヒビキとしてはディアジオを推すにあたり無理強いする理由もない。
アリレスが望むようにしてやる事が最も良い事だが、アリスは気づいていない。
ヘルパー要素以外でも彼こそがアリスの望みにクリティカルである事を。
ヒビキはそれをゆっくりと説明する。
「アリス。大事なのはここからです。彼はアリスにぞっこんです」
「……まぁ、そのような雰囲気でした。正直悪い気はしません」
天使の乙女部分的に及第点は越している異性から好意を寄せられるのは悪い気はしないのだろう。
「そして彼は人間ですね」
「そうですね?」
何を当然の事をとアリスは首をかしげる。
「アリスは……魔人。それも魔王の娘、姫君ですね」
「そうですね」
それも当然でしょうと傾けていた首を逆にかしげる。
「つまりそれは……人と魔、禁断の恋では?」
「……ッ!!」
目からうろこが落ちるというごとく目をカッと見開いた状態でも美女は美女だなと感心するヒビキ。
さらに追撃のシチュエーションを説明する。
「何も知らないディアジオ氏の想いは冒険をともにするうちにますます深まるでしょう。そして別れ際きっと彼は胸の内を打ち明ける」
「おう……」
静かに語られる物語にアリスのたくましい想像力が脳内で補正されていく。
「しかしそこでアリスは変装を解き……黒く美しい髪をなびかせてこう告げるのです」
「おおう、おおうっ……」
「『私は魔の姫……想い合っても人と添い遂げる事はできません。どうぞ恨んでださい。それがあなたの愛を慰める事になるのなら』……と」
「……」
目をつむったままうつむき、しばらくの間ビクンビクンと震えていたアリスは、一度ひときわ大きくビクリと震えた後。
ゆっくりとまぶたを開けてヒビキを見た。
そこにはまさに神の天啓を受けた聖女のごとく、どこまで穏やかで優しい微笑みを湛えたアリスがいた。
「彼は私たちのパーティーに必須な人物のようです」
「ではそのように」
こうして『星の蜜亭』内の聖域にてディアジオはパーティー入りを認められたのである。




