二人たちの密談
「それでは失礼します。せっかくのお招きです。喉をしめらすものを用意しましょう。よろしいかな、そちらのレディ?」
さきほど自分が店に来た際、ねちっこく絡んでいたウエイトレスを呼び飲み物をオーダーする。
「酒の類は避けた方がよろしいですね。では旬の果汁の水割りなどを用意いたしましょう。私とマックには私のボトルの……そうですね20年物を」
「タリスカーさん、私までごちそうになるというのは……」
ディアジオのキープボトルとなるといくらのものかもわからない。
だがディアジオは「ディアと呼んでくれよ、マック」と笑い、ウエイトレスにそのまま注文を告げた。
やがて飲み物がそれぞれの前にそろうと、ディアジオはウエイトレスに多めのチップを手渡しねぎらう。
「え、こんなには……」
「かまいません。ありがとうございました」
と、断ろうとしたウエイトレスに笑顔でチップをおしつける。
「さて、本題ですが」
「ええ、そうですね」
ディアジオにヒビキが応え、後の二人はその視線を二人を往復する。
「ヒビキ嬢の口ぶりから何かお手伝いできる事がありそうだ」
「ええ。実は私とアリスは明日からしばらく魔草採取の為に、近くの湖に通う予定です」
「魔草で湖……ああ、あそこですか」
「しかし私たちは冒険者としては新米も新米。今日が初仕事でした」
「なるほど。初日はマックが面倒を見ていたというわけですか。彼はいつも面倒見がよいですからね」
「ですが、マックも本業があります。よって明日から私たちは現地までどうやって通おうかと考えていたわけですが」
「なるほど」
ディアジオが素早く考える。
三人乗りが可能な馬車ですぐに数日間は貸し切りで動かせるもの、かつ乗り心地が良いものは商会に空きがあっただろうかと。
もちろん魔草採りのような仕事では採算はとれないし、二人から料金をとるつもりはない。完全な丸損だ。
だが、自分の心に宿った炎のような高ぶりと、神に跪いている時のような神々しいこの快感の為ならばと。
「ついてはその往復の足とお手伝いをいただける方がいるならば、とても助かる話でして」
「お安い御用です。まったくもってなんのご心配もなく明日からはお二人は快適な馬車にて現地へと向かわれる事を保証いたしますよ」
「それはとてもありがたいお話です。それで私たちからの対価なのですが」
「対価などと! 親友であるマックの紹介でもありますし、なによりもこの運命の様なご縁を神に感謝しての事ですから」
私は親友だったのですねとマッカランの小さなつぶやきを無視して、ヒビキはいいえ、と首をふる。
「ならばそれでお願いします、というものもやはり心苦しいので。とは言え、私たちは遠くから出てきたばかりの身で、おまりお金もありません」
「それはそうでしょう。誰しも駆け出しのころというものはそういうものです」
「そこで、もし身近な方などが病気やケガなどに悩まされるようであればお知らせください。我が姉アリスは腕の良いヒーラーですから。そうですね、アリス?」
急に話題を振られたアリスは、え? え? と首をあちこち回しつつ、そうです、私がヒーラーです! と立ちあがり頭を下げた。
「ああ、アリスさんはヒーラーでしたか。そうではないかと思っていましたが」
マッカランがようやく知らされたアリスのスキルに関して納得する。
「マック。同伴していた君はそれも知らず彼女たちの後を?」
不可解な目で敏腕商人であるはずのマッカランを見る。
「ええ、タリスカーさん。実は私はヒビキさんの腕を見込んでご支援していたので。アリスさんに関してはお力を知ったのは今が初めてです」
「つまりは二人分の支援をしてなお採算がとれるほどの実力者と?」
「私はヒビキさんをそのように見積もらせて頂きました」
ディアジオは素直に驚く。この幼くも美しい容姿にどれほどの力を秘めているのだろうかと。
「マックからの高い評価はありがたく感じていますよ。マックは気を使って具体的には言いませんでしたが、私は素手による近接戦闘を主とします。ちなみに、これも力のうちです」
ふと、瞳を閉じるヒビキ。
そして次にディアジオを見る目は蒼く染まっていた。
次の瞬間には、元の茶色の瞳に戻っている。
「魔眼、しかも一瞬で自在に操れるとは……そして武道家ですか。ますます想像の埒外でした。ですがその肢体が軽やかに繰り出す技というものは実に興味を惹かれます」
ディアジオは信仰と美貌に魅了されていた頭をガツンと冷やされ、改めて商人として計算する。
魔眼の武道家。そして腕が良いというヒーラー。着飾るだけでその服が飛ぶように売れる美しい姉妹。
「マック。君はとても良い縁を持ったな。先んじられてしまったが、今後は役割分担をして共同後見人というのはいかがだろうか」
ディアジオがマッカランにそう持ち掛けるが、マッカランは首を振る。
「それを決めるのは彼女たちですよ。ただ私では手の届かない部分もタリスカーさんであればとは思いますが」
マッカランはなんとも言えない顔でヒビキを見る。判断しかねる、という所だろうか。
「私としては今後ともマッカランさんのお世話になりたいと思っています」
マッカランとディアジオがどちらも笑顔でうなずくか、その心のうちは正反対であろう。
「ですが、冒険者仲間というものはいまだおらず、ディアジオ氏がもし友人としてお時間を割いていただけるならば幸いではあります」
「なるほど、それは素晴らしいお考えだ。いやとても素晴らしい!」
ディアジオはまさに満面の笑顔で大きくうなずいた。
「というわけで、もし私たちに何かできる事があれば、微力ながらお手伝いいたしますので……」
「ええ、相互助力ができる関係。つまりパーティーメンバーとしてのお誘いというわけですね!」
「ありていに言えばその通りです。最もそういった場合の手続きなどは存じませんが……」
「そういった雑事はおませかください」
話がトントンと進み、ヒビキはディアジオを同行する冒険者として誘っていたようだ。
これはアリスが驚いた顔でヒビキをゆする。
「ヒビキ、ヒビキ! パーティーを組むのですか!?」
「ええ。ディアジオ氏はとても良い方のようですし。冒険者としての先輩でもあり、色々と助けてくださるようですよ?」
「ですが、その……」
「ちょっと失礼します。アリス、こちらへ」
ヒビキは仕方ないとばかりに、二人の商人にことわった後、席を立つ。行先はお手洗い。つまり男性にとっては教会の次に神聖な場所であり、男子禁制
不可侵の場所だ。
マッカランとディアジオは、ごゆっくりどうぞと見送った。




