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深い絶望から立ち上がりなお笑う男、ディアジオ


「えー……お顔があんまり私の好みではないので……」


天上の声かと言わんばかりの声が絶望を告げた。


意識も朦朧と床に突っ伏したこのディアジオという男、本来は悪い男ではない。


酒が元の自業自得とは言え、女性に対しての不信感からそれまでの自分というものがわからなくなり、結果として他人に態度が横柄となった。


だがひねくれてからこれまでの時間より、ひねくれるまでに築いた商人としての礼節、知識、経験というものの方が長い。


そして今、ディアジオは天使のような存在を目にし、ひねくれた心を浄化されつつも、かつての品位と知性を取り戻していた。


逆境と挫折を乗り越えた、優秀な冒険者であり商人であり、男として人として一皮むけたのである。


つまり、どういう事かというと。


「これは手厳しい。ですが天使たるもの余人が触れることがかなわないというのもまた世の真理なのでしょうね」


突っ伏した体を起こしローブの埃を払うと、白い歯を見せてディアジオは笑う。


「ええと……」


アリスが珍しく愛想笑いというものを浮かべる。


マッカランは相変わらず急変した知人の様子に言葉を失っていた。


店の者たち、従業員と客を含めて、すべての者たちがディアジオという男に奇怪な物を見る目を向けていた。


その中でただ一人だけ、少しばかりの敬意を向ける者がいた。


ヒビキである。


「……70点、といったところですね」


「ヒビキ?」


ポソリとつぶやいたヒビキの評価にアリスが驚く。


「ヒビキ? ヒビキ? ええと、ディアジャスタさんの事ですか?」


「ええ、こちらのディアジオ氏の事ですよ。冒険者でありながら商人でもあり、装備からして魔法使い系統。さらにこちらに対しても敬意と好意をもっていらっしゃる。しかも何やら支援もして頂けるというお話ではないですか? そういった点からの評価ですが」


「……勇者さんが80点ですのに?」


いまだアザァに対しての評価点が気に入らないらしいアリスはくってかかるが、ヒビキはどこ吹く風かと涼しい顔でかわす。


「勇者アザァ様に関してはまだまだ減点の余地がありますが。ディアジオ氏に関しては今後のおつきあい次第では加点もありうると考えていますよ?」


そんな二人の、ある意味ではとても失礼な会話を黙って聞いていたディアジオは、酔いの覚めた元来は回転の早い頭でそこから様々な情報を予想し予測し予感した。


これはまだチャンスがある、と。


ただ一つだけ解せないのはついさきほどまで皮膚を裂くかのような薄氷のような視線で自分を見ていたヒビキ嬢から、急に擁護と寛容の言葉をかけられた事だった。


「お話中、失礼いたします。なにやらとても興味深いお話のようだ。かの勇者アザァ様を80点として、私が70点も? とても光栄な事ですし、場合によってはさらに点数をいただけるようですね? つまるところそれは、お二人との今後のおつきあいを許されたという事でしょうか?」


「えっ、えーと?」


アリスはヒビキがどのような意図でこんな話の流れにしているのか理解できずあたふたとしている。


なんとなく視線が合ったマッカランも、礼節などにうるさそうなヒビキが彼を好むはずもないだろうと困惑していた。


しかも彼は姉アリスを罵倒したのだ。


対してヒビキはさきほどまでの態度を改め、少しばかりの笑みすら浮かべてこう言った。


「誰にでも過ちはあるでしょう。間違う事もあるでしょう。ですがそれを心から反省し、謝罪をする事ができる方はとても少ない。ディアジオ氏はそれができる数少ない方のようですから」


「おお、なんという寛大さ。ヒビキ嬢のようなお美しい方はやはりお心まで美しい!」


「私はお世辞はあまり好きではないのでご遠慮いただければ」


「世辞などと! 私、生を受けてこれまで女性の賛美に嘘をついた事などありません!」


それはまるで男慣れした美女を必死に口説く年若い坊やのような構図となっていた。


「立ちっぱなしもどうかと思いますし。よければそちらにお座りになりませんか?」


ヒビキはさらに同席を促した。


「アリス、マック、少しだけ彼とお話したいのですが、よろしいですか?」


事後承諾でよろしいもなにもないが、二人はコクコクとうなずく。いまだヒビキの思惑がつかめないのだ。


なんという事はない。


ヒビキは感じ入ったのだ。


これだけの視線の中で声高らかに愛を謳いお手をと求めた結果、顔が気に入らないからイヤ、と言われてなお立ち上がったタフさに。


よってヒビキの中で床に転がすべきモブAから評価をフラットして、再度採点。


自分にはとてもまねできないガッツのあるヤツという事で10点。


冒険者かつ商人かつ、なにより魔法使いというのはアリスのパーティーメンバーとしての候補にもなる。10点。


アリスを天使と讃えたという事で50点。


結果70点。


「ではディアジオ氏、おかけください」


そうしてディアジオは望外の幸運とともにテーブルについた。


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