69 勇気
オレは、覚悟を決めた。
なんとかして、二人が逃げる時間を稼ぐ。
それが、オレの人生最後の行動だ。
多分このままだと、オレ達全員が簡単に殺される。
どちらにしろ、一番近くに居るオレが生き残る可能性は、限りなくゼロに近い。
論理的な理由がある訳ではないが、戦っても勝てない、という確信をしていた。
活性化はまだ出来ないだろうし、仮に活性化出来たとしても、勝てるとは到底思えない。
(早まってはダメ!逃げる事に集中して!バラバラに逃げれば、全員は追えないから。)
タマラさんの意図は分かったが、皆でバラけて逃げても、誰かが捕まだろう。
それがオレでなかった場合、一生後悔しながら生きる事になる。
「お前達は、普通の人間ではないよな。」
オレは、なけなしの勇気を振り絞った。
「……あっちにうどん屋があったからさ、飯食いながら話そう。」
すっとぼけた台詞だが、こうでも言わなきゃ動けない。
オレは何とか、男の隣まで移動した。
「昼食には、まだ早いだろ。」
まさか、あんな発言に対して、マトモな返事をするとは思わなかった。
どうやら、これがオレの最後の会話になりそうだ。
「逃げてっ!」
叫ぶと同時に、オレは男の片腕に組み付く。
だが、亜衣ちゃん達は逃げてくれなかった。
オレを置いて逃げるのが、後ろめたいのだろうか。
むしろ、オレの行動で体が動く様になった様だ。
あのスタンガンを、取り出そうとする素振りさえ見えた。
気の強い娘達だから、「一緒に逃げよう」とか言わないかぎり、逃げてくれないかもしれない。
男は、オレが掴み掛るのを避けようとさえしなかった。
力任せに倒そうとするが、ビクともしない。
試しに蹴りも入れてみるが、オレの脚が痛くなっただけで何の反応もなし。
どうやら、思った以上に絶望的な実力差があるみたいだ。
「あまり、目立つ事はしたくないな。」
男はオレが掴んでいない右の手で、何かを取り出した。
オレは思いっきり掴んでいるのだが、全く何の効果も無い様だ。
突然、頭がクラっとした。
なにか、周囲の景色が歪んだような気がする。
こいつ、何をしやがったんだ?
亜衣ちゃんと園池さんが、尻餅をつくようにして地面に座り込んでしまった。
クソ、このままじゃダメだ!
何か、手はないのか……。
この圧倒的な差を埋める、何かが……。




