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68  入口

オレ達は階段のある部屋から出て、駐車場の入り口まで、ゆっくり歩いて行った。

駐車場も蒸し暑かったが、日の出ている外は、焼け付くような暑さだ。


「えーと、現在十時十五分。ギリギリだと思ったけど、十分位は余裕があったんだね。」


まだあのビルに入ってから、一時間経ってないのか。

これはオレにとって、衝撃的な事実だ。

凄く濃厚な一時間だったぜ、全く。


「まぁでも、ギリギリだよ。さっさと帰ろう。あたし、お腹空いてきちゃったよ。」


園池さん、まだフレンチトースト食べてから、一時間半しか経ってないですよ。

それに、貴方その前にケーキ食ったんでしょ。

あの、パイ投げ用のやつ。


「任務、完了しました。引き続き、『帰還任務』に移行します。」


(はぁーい。アシスト情報は、スケール小さくしとくね。)


「『帰還任務』って何?」


オレは、そんなの全然聞いてない。


「会社に帰る。それが『帰還任務』らしいよ。一々大袈裟なだけで。」


へぇ、なんだ、それだけの事か。


(改変者が直接かかわるような任務は、イレギュラーな事象が偶発する事も多いから。帰り道は別の任務って事にしてるの。山形さんの指示でね。)


なるほど、『家に帰るまでが遠足』みたいなもんか。

多分、山形さんは無駄な事をさせる性質じゃないな。

会社に着くまで、念の為に警戒していた方が良さそうだ。




オレ達は駅に向かって歩き出した。

道路は混んでいるようだが、人通りはあまり無い。

この暑い中、外を歩き回りたくないのだろう。

エアコンの効いた室内や車内に居れる立場なら、誰でもそうする。


歩き始めて、三分程経った時だ。

『突然』、一人の男が目の前に現れ、オレ達の行く手を遮った。

そう、『突然』としか表現のしようが無い。

本当に、『突然』現れた。


「お前達に、聞きたい事がある。」


やけに、ゆっくりとした喋り方だった。

声を聞いた途端に、心臓がすごい速さで脈を打ち出した。

オレの直感が、最大音量で警告音を発しているのだろう。

不気味で、嫌な響きの声。

間違いない。

こいつは、桁違いにヤバイ奴だ。


見た目は、グレーの夏物のスーツを着た普通の男。

身長は少し高めで180近くあるが、体格自体は特別という感じではない。

しかし、目付きと雰囲気は違う。

なにか説明のしようが無い、禍々しい気を纏っている。


横目で亜衣ちゃんと園池さんを見る。

あのサイボーグにさえ、顔色を変えずに正面から挑んだ二人。

その二人の顔は、完全に恐怖に支配され、青白くなっていた。

こいつは、絶対に『普通の人間』じゃない。

遺伝子のレベルで人に恐れを感じさせる様な、危険な存在の『何か』だ。


「お前達は、時空に干渉しているな。」


(その男を相手にしてはダメよ!とにかく、全力で逃げて!)


テレパシーで送られてきた、タマラさんの声は悲痛だった。

オレだって、こんな不気味な奴を、相手にしたい訳じゃない。

確かに、今すぐ全力で逃げるべきだろう。

しかし、まるで蛇に睨まれた蛙のように、オレは一歩も動けなかった。

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