64 サイボーグ
オレは十数秒程掛けて、なんとか立ち上がった。
よろよろと片足を引きずりながら、派手男に近づく。
すぐ近くにいるのに、やたらと時間が掛かる。
派手男は、まだ立ち上がれないようだ。
脚の痛みも治まってきた。
なんとか、派手男にとどめを刺せそうだ。
山形のおっさんの野郎、何が『全く同じ事をやりゃいい』だよ。
痛みで動けないなんて大問題は、ちゃんと考慮しとけよ。
ふと、女子二人が気になって振り返ると、園池さんとスキンヘッドが一対一で戦っていた。
多分、亜衣ちゃんのナノマシンの活性化は、すでに終了してしまったのだろう。
ナノマシンが通常の状態で、あのスキンヘッドと勝負するのは無理そうだ。
亜衣ちゃんは観戦に回って、園池さんが倒すつもりなのだろう。
かなり苦戦しているよう。
しかし、スキンヘッドはかなりのダメージを負っている筈だし、園池さんには切り札の特殊攻撃がある。
……いや、威力のありすぎる特殊攻撃は使わない気もする。
さっさと派手男を動けなくして、オレが助けに向かうべきだな。
「なんだよ。畜生。ホント、なんなんだよ、お前ら。どう考えても、普通の人間じゃねぇよな。」
派手男は、片手で脚を押さえながら、オレを睨み付けている。
いくらサイボーグでも、このパワーで頭や下腹部を蹴れば動かなくなるだろう。
たぶん、もう一度蹴れば倒せる。
早く、園池さんを助けに行かなくては。
それは分かっている。
もちろん、分かっている。
だが、オレは蹴れなかった。
「なんだよ、止め刺さねぇつもりか。オレを生かしておいたら、いずれお前を倒すぞ。」
こいつ、マンガみたいな台詞を言いやがって。
もしまた、やり過ぎてしまったら……。
サイボーグというのは、腹に穴が開いたり、頭が取れたりしても、死ぬ事はないのだろうか。
「ヘッヘッヘッヘッ、ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ。」
突然、派手男が不気味に笑い始める。
嫌な予感がした。
「チャージ終わったぞ。お前ら、皆殺しにしてやる。」
座りこんだままの派手男の右手が、ゆっくりとオレの顔を指差した。
その右手の手首が、付け根の部分で割れるようにして開く。
開いた部分が、青白く光っているように見える。
これは、多分ヤバイ。
「アディオス!!」
オレは思い切り後方左に飛びずさった。
次の瞬間、猛烈な光とともに、何かがオレの右の耳を掠める。
「嘘だろ、避けやがった!」
右耳の辺りから流れる、生暖かい物を感じる。
多分、オレの血だ。
躊躇してる場合じゃない。
こいつは、危険だ。
オレは可能な限りの速さで、もう一度派手男との距離をつめた。
今度は何の容赦もなく、思い切り腹を蹴る。
穴が開いたかもしれないが、真っ二つに千切れてしまう事はなかった。
「ゴフォッ」
という声にならない声を聞いた後、派手男と目が合った。
無意識だろうか、派手男は左手で腹を押さえている。
「……気付いてなかったかもしれんけど、アンタもう死んでるんだってさ。」
オレに向けようとしてくる右手首を左手で押さえ、上空に向けさせる。
その状態のまま、斜め上から右フックで派手男の頭を攻撃。
ガシャーン、と派手な音がした。
やけに落ちない帽子だったが、金属で出来てたのか。
おかげで、今回は血を見ないで済みそうだ。
派手男は片手で腹を押さえた状態のまま、前のめりに崩れ落ちる。
オレは心を鬼にして、胸と両手両足の五ヶ所を強く踏みつけた。
十分過ぎるような手応えがあった。
多分、こいつはもう動けない。
最後まで、派手な奴だった。
結局、お互いに名前も何も知らないままだが、もう二度と会う事は無いだろう。
……アディオスか。
スペイン語で『さようなら、神のもとへ。』って意味だったかな。
アンタ、スペイン語圏の人間なんだろうな。
アディオス、サンバカーニバル。




