63 サンバカーニバル
亜衣ちゃんが、オレの袖を引っ張った。
「もしかして、マンボウの寄生虫『を』食べたい、じゃないの?」
「あぁ、絶対それだって。マンボウの寄生虫『を』食べたい、絶対それ。それ、それ。」
園池さんも、しきりに何度も頷いている。
『を』?
そうか、それだ!
『が』じゃなくて『を』だったのか。
「さっきからこのガキ、何度もそう言ってんじゃねぇか。」
サンバカーニバルは呆れた口調だ。
アホみたいな台詞が多すぎて、毒気を抜かれたのだろう。
殺気がほとんどない。
「マンボウの寄生虫を食べたい。」
ピピピ、ピピピ、という音が聞こえる。
間違いない、今度こそナノマシンは活性化状態に移行した。
活性化の残り時間は五分四十秒、VRゲームの時よりも随分と長い。
確か、あっちは二分四十秒だった。
思ったより長いし、オレがバカを言っていたおかげで相手は完全に油断している。
これは、うれしい誤算だ。
「こんな変なガキに、いつまでも付き合ってられんだろ。さっさと始末して……。」
スキンヘッドに最後まで言わせず、瞬間的に距離をつめて、回し蹴りを腹に叩き込む。
サイボーグの急所なんぞわからんので、一番当てやすい場所を蹴った。
痛みが無いなら、手加減する必要もないだろう。
油断していたからかもしれないが、かなり遠くまで吹っ飛んで行った。
飛びすぎて、スキンヘッドがビルの際から落ちるかとも思ったが、派手に柵にぶつかって止まった。
そのまま、ゆっくりと地面に座るように倒れ込む。
相当なダメージを与えたようだ。
活性化状態の肉弾攻撃ってのは、これほどの凄まじい威力を生むのか。
「よし、イケる。」
不安そうだった、園池さんと亜衣ちゃんの顔色も変った。
二人して、吹っ飛んだスキンヘッドを追う。
「トゥワー!」
もうお馴染みとなった掛け声とともに、派手男がオレを蹴ろうとしてくる。
スキンヘッドの状態を見たはずだが、恐れた様子は無い。
そして、VRゲームの時と同じ、カポエラのような動きだ。
あの時を思い出しながら、連続攻撃を避ける。
巧く距離が取れたのか、奴の攻撃はオレに全く当たらない。
攻撃の手を休め、驚愕の表情を浮かべた。
「お前、何者だ!」
『お前こそ何者だよ』という言葉を寸前で飲み込む。
こいつは、律儀に答えそうな気がする。
『ここはサンバカーニバルの会場じゃないぞ、その格好で不審者扱いされないと思うの?』等々……。
聞きたい事は色々とあったが、長く会話をしてしまうと、情が移ってしまうかもしれない。
オレはこの男に関する全てを、『知らなくていい事』だと思うことにした。
そろそろ、亜衣ちゃんの活性化状態は終了するはず。
すぐに倒して、二人の掩護に向かわなければ。
「トゥワー!」
ゲームで一度見たからだろうか、派手男の蹴りを捌くのはそれほど難しくは無かった。
というか、そもそもコイツの動きはパターン化されすぎている。
ほとんどアンドロイド状態という話だったから、攻撃行動もプログラムなのだろう。
「トゥワー!」
それにしてもおかしい。
未来の技術なら、もっと複雑な動きになるはず。
どっかでやった、格闘ゲームにそっくりな動きなのも気になる。
こいつ、もしかして、現代の格闘ゲームのプログラムを流用してるんじゃないのか。
まぁいい、動きが読めるのは事実だ。
「トゥワー!」
確かゲームの時は、オレの蹴りと派手男の蹴りがぶつかって、派手男だけが倒れた。
山形さんが、全く同じ事をやれば問題は無い、といっていたのを思い出す。
あの時と、同じ事を狙ってみるか。
「トゥワー!」
掛け声に合わせて、タイミングを取る。
完璧に同時、とはいかなかったが、オレも派手男とほぼ同時に回し蹴りを出した。
バシッという音がして、オレの回し蹴りと派手男の回し蹴りがぶつかった。
オレと派手男は二人共、まるであのVRゲームを再現するかのように、見覚えのある崩れ方で倒れる。
「ぐぅおぉ、畜生っ、畜生っ、畜生っ……」
派手男は苦しそうな顔をして足を押さえ、立ち上がれない。
サイボーグには痛みは無い筈だから、苦しいというよりも悔しいのだろう。
オレは、ゲームと同じようにすぐに立ち上がる……筈だった。
クッソ痛い。
無理。
立ち上がれないって。
全然ゲームと違うって。
これは無理!
クッソ、あのおっさんいい加減な事言いやがって。
オレは痛みのあまりに、両手で脚を押さえて目を閉じて呻いた。
山形のおっさん、この間にオレがやられたりしたら、子々孫々を呪うぞ!




