49 合図
オレ達は、現場となるビルの目の前に到着したらしい。
時刻は今、九時十分。
もう五分ほど、三人でそのビルの前をウロウロとしている。
気温は多分、三十度を越えてる。
こんな場所でも、セミの鳴き声が聞こえた。
タマラさんから連絡があるまで、中に入るのはダメらしい。
会話も弾まない。
コードネームが決まっていないので、お互いを呼び合う事も出来ないからだ。
タマラさんからの連絡で、三人のコードネームを教えてくれるらしい。
九時十分頃になれば、必ず連絡が来るそうだ。
大抵の場合、コードネームは渾名の様なものになるらしい。
らしい、ばかりで心許無い。
亜衣ちゃんどころか、園池さんまでもが真剣な表情をしている。
バイト初日だというのもあって、かなり緊張してきた。
どうしよ、マジでドキドキする。
園池さんが、袖を引っ張ってきた。
「連絡あったよ。あたしがルリ、そんでアリサとシュウ。オペレーターがモニカで決定。」
「また、それなんだ。いつも同じ偽名だよね。」
って事は、オレはこれからもシュウと呼ばれるのか。
園池さんがルリ、亜衣ちゃんがアリサ、オペレーターのタマラさんがモニカな。
あぁ、ややこしい。
コードネームなんだから、呼び捨てでいいんだよな。
「じゃ、十五分過ぎたら任務を始めましょう。九時二十分に、駐車場入り口に到着するタイミングで、私達が先に行く。シュウ君がリーダーだから、任務開始の合図はお願いします。」
そうか、そういえばオレがリーダーだったな。
亜衣ちゃん、偽名にまで君付けしなくていいのに。
他人行儀は悲しいが、そんな事気にしてる場合じゃないな。
「合図っていうのは?」
「これより任務を開始します。とかでいいの。そしたら後は、ゲームのつもりで頑張ってよ。」
園池さんも、かなり緊張してピリピリしてるみたいだな。
なにも分からんリーダーで申し訳ない。
後五分で任務開始らしいけど、結局ゲームの打ち合わせしかしてないし。
始まれば分かる、で二人には押し切られた。
今更悩んでも仕方がない。
スマホを取り出して、九時十五分にタイマーをセットした。
バイブレーション設定なら問題ないだろう。
「行動の確認をしておきましょう。まず、警備室に小窓から入る。九時二十八分まで待って、階段がある扉の中に隠れる。三人を倒して隠したら、カップルが居なくなったのを確認して、急いでエレベーターに向かう。エレベーターに着いたら、中でミーティング。」
この雰囲気でコレを言うって事は、何らかの形でゲームをやるんだろうか。
あるいは、新人の儀式として、本当に警備室に忍び込むのかもしれない。
亜衣ちゃんと園池さんが、女優レベルの演技力って可能性も捨てきれないし。
だとしたら、とんでもないルーキー歓迎会になりそうだ。
ヤバそうな雰囲気だから、気合を入れておくしかないな。
「警備室にはシュウが最初に入って。で、あたしでアリサね。パンツ見えちゃうし。」
え、そういう理由なの。
じゃ、オレは最後で、って訳にはいかないか。




