36 交通事故
「タマラさぁん。やっぱりこの男、この期に及んで、全然信じてないんでしょ。」
「無理もないと思う。このままで現場なんて……。」
いやいや亜衣ちゃん、信じていますって、演じきって見せますよ。
「はぁ、ちょっとおかしな展開になってきてるけど。現場に着くまでには、ね。」
「候補生は、ランダムに選ばれる訳でありません。時空管理局が、危機から助けた若者に限られています。命がけでやってもらう以上は、相応のメリットが必要でしょ。信用が第一ですから、時空管理局は報酬を前払いで払いました。今回から参加する佐藤君の場合、五月に交通事故で意識不明になって、そのままでは危険だった所を私達が助けました。まぁ、今はまだ信じられないかもね。」
すでに、オレを交通事故での危機から助けたって?
またバカな事を、とは思ったが……。
……。
まさか、友達数名にしか言っていない、あの時の事を言ってるのかな。
実は本当に五月頃、今の話の元ネタになる様な事があった。
オレが通学の途中、自転車に乗って信号待ちしていた時だ。
中学生の女の子の自転車がぶつかって来た。
その勢いでオレの自転車が斜め前に進んでしまい、自転車の前輪がゆっくりと左折していた車に接触。
オレは派手に倒れ、頭を打って意識を失ってしまった。
十数秒以上は意識がなかったようだが、オレは立ち上がった。
ぶつかって来た中学生の女の子が、青い顔で呆然とオレを見ていた。
頭から少し血が出たようだったが、全然大丈夫そうだった。
自転車も壊れた様子は無かった。
青い顔の女の子は、オレに向かって必死で謝まりだした。
オレは「大丈夫。平気、平気。大丈夫だって。」と言いながら自転車に乗って、そのまま学校へ行った。
大事にしたら女の子が、可哀相だと思ったのだ。
強く頭を打った場合、後から症状が出る事もあるらしいので、念の為に病院にも行った。
特に問題はなかった。
これがその、『五月に交通事故で意識不明になって』の元ネタになりそうな出来事だ。
しかし、そんな事をどこで調べたんだ?
何でも屋だから、捜査とか聞き込みとか興信所まがいの事もやるんだろうか。
なんにしろ、《時空管》は侮れないな。
「佐藤君。その通り、《時空管》は侮れないの。良い傾向ね。」
タマラさんはニコニコしている。
やはり、オレの事を調べたのだろう。
「それでは、今日の任務の確認に入りましょう。今回も私がオペレーターを、山形さんがバックアップを務めます。」
タマラさんが真剣な顔で言った。
どうやら、今度こそ仕事の時間が始まる様だ。
その瞬間、オレはとんでもない事実に気が付いてしまった。
そんなバカな事は、ありえない。
そして、そのありえないような事から、導かれる結論。




