35 女の勘
「跳躍者としての時空管理員は天使達と比べて完璧とは程遠く、組織の権力も強くはありません。」
「天使達により、生身の人間による時空管理、超時代的技術の使用制限等といった制約もかけられています。でも、私達を信じて協力して欲しいのです。何故なら私達であれば、目先の幸福を追うからです。」
「私自身も、未来時空からの情報跳躍者です。しかし、長万部タマラという、この時代の人間の意識も持っているのです。山形さんも同じです。彼の実家はお寺で、お坊さんになる修行をしてた時に、情報跳躍者と脳内で初めて接触したんですって。本来なら立派なお坊さんになっていた筈。効率よく候補生を集める為に、宗教はやめたそうです。会社組織になって税金がかかる、と言って機嫌が悪いので、悩みの相談等はお勧めしませんけどね。」
園池さんが、アハハと笑った。
うーん。
要約すると、山形さんは『生臭坊主』って設定なのか。
あの山形さんが、よくそんな設定を許可したな。
「このタイミングで候補生を増やしているのには、いくつか理由がありますが、その内二つの重要な理由を挙げます。まず一つは、そう遠くない未来に重要な歴史的転換点が迫っているという事。第三次世界大戦が起きるかどうかの瀬戸際だからです。」
「もう一つは、3Dプリンターが市販された事です。これについては、少し詳しく説明しますね。3Dプリンターが市販された事により、、情報跳躍の改変者達は、今までのようなリスクなしで超時代的な物品を、すみやかに生産する事が可能となりました。これは、改変者の物品製造における技術的特異点となっています。」
「どういう事か説明しますね。根本は、跳躍させる情報の量と質の問題です。つい最近まで、物品の製造や加工の技術情報は、工場での機械加工プログラムの転送が主流でした。これは、個々の技術の情報量が非常に多い為に起きた現象です。機械加工プログラムであるメリットは、全基本情報を現代のシステムで流用可能なので、情報が圧縮される点です。デメリットは、設備の整った現代の工場が必要、という事。……ようするに今までは、工場さえ押さえてしまえば、超時代的な道具の生成を、取り締まる事が可能だったのです。しかし、ほんの数年前からその状況が一変します。3Dプリンター用のプログラムの転送が主流となり、3Dプリンターによって精密加工機器すら、どこでも簡単に作れるようになってしまいました。」
「……神の様な力を持つ天使達ですが、基本的に現代の人間の決定権を尊重します。しかし時々、私達のようなシャーマンに指示や指導を出します。3Dプリンターの開発自体を、『人類の正常な進化の過程として扱え。』という天使達の指示がありました。こうなると、もう、私達には止められません。世界中で大きな変革が沢山起き、犠牲者が沢山出ました。ですからこちらも、出来うる限り望む歴史を刻めるように、超時代的な道具を大量に使って対抗する事を始めたのです。しかし、圧倒的に人員が足りません。もちろん、穏やかな歴史を望む私達とってこういう状態はリスクがあるものですが、時空管理局の総意によって、貴方達の様な候補生を育成し、運用する道が選ばれました。そして、私達の現状があります。」
なるほど、設定は理解したぞ。
しかしその設定だと、天使を恐れて従う意味はあまりない様に思える。
バレないように裏で、3Dプリンターを規制する方向へ導いた方がいい。
頭の中に跳躍者の別人格が居るかどうかなんて、分からんのだから。
「佐藤君、その考えは危険なの。思考盗聴というのは、情報跳躍者にとってさえも基本的な技術だから、天使達に出来ない筈がない。情報跳躍っていうのはまず、記憶をデータとして取り出すことから始まる技術だから。もちろん、情報盗聴にも対抗技術はあるけど、技術レベルで圧倒的に劣る私達が、天使を相手にして隠し通せるとは思えない。天使達にとって人間は、絶滅を保護するべき動物程度の存在でしかないとされてるの。下手な対抗意識を持つ方が余程に危険。天使達の不利益になると判断された個人や組織は、とても安全とは言えない。」
まるで、オレの思考を見たかのような発言。
「まるでじゃなくて、思考を監視してるんです。佐藤君の許可も取ったでしょ。任務が終わるまで、あんまり変な事は考えないでね。まぁ、出発まで一時間もないけど、少しずつ状況を理解してください。」
す、すげぇ先読み、女の勘ってやつだな。




