25 IDカード
「おう、契約書書いてきたか。そこに置いてけ。」
山形さんは、いわゆる『ボスの席』にいた。
「山形さん。明日から、よろしくお願いします。」
「IDカードと、あと資料のプリントを渡しとく。プリントは持って帰って、一応読んどけ。IDカードとプリントは、忘れずに明日も持って来いよ。あと、給与を受け取るには印鑑がいるから、それも忘れるな。」
オレの写真が貼られた免許証のようなカードと、文字印刷された数枚のコピー用紙を渡された。
写真が貼られてるのが、IDカードだろう。
バイト代の受け取りに印鑑か、そういえば手渡し支給って募集に書いてあったな。
「わかりました。あの、明日は何時に来ればいいんですか?」
たしか募集の勤務時間には、朝六時から夕方六時の数時間、とか書いてあった。
まぁ、夏休みだし、帰宅部だから部活って訳でもない。
何時でもいいんだけどさ。
「朝六時だな。」
うお、って事は五時起きか、早く寝ないと。
もうちょっと遅い方が……。
「とりあえず明日のバイトは、アメリカ大統領の暗殺を止めてもらう事になる。簡単な作業になるだろうが、それで歴史改変は防げるからな。今度はVRゲームじゃなくて、現実で本当に時空管理局の一員として、暗殺と歴史改変を止める訳だ。同じシチュエーションをVRゲームでやってんだから、現実の方がずっと簡単な位だぞ。」
なんだ、くだらない冗談を言い出したぞ。
あぁ、適性検査に絡めたネタか。
「暗殺阻止任務は一時間位だが、移動込みで六時間分の給与を出す。時給千円だ、おいしい仕事だろ。一般の高校生だし、始めてのバイトで初日って事だから、サービスだと思えよ。移動と手続きを含めても、半日ありゃ終わる。それでも、身体の方は結構キツイかもしれん。」
その暗殺阻止設定、いらないでしょ。
六時間か、結構長いな。
その間、飯とかはどうするんだろ。
「今回は、バイトだけで現場に行ってもらう事になる。あと二人、高校生の女の子が一緒に行くから、細かい事はその子達に聞け。基本的には、お前がリーダーって事で任せる。VRゲームでは、お前の成績が桁違いで良かったからな。さっき渡したプリントの、成功条件っつう項目に沿って、三人で失敗しないようにうまくやってくれりゃいい。何回も言うけど、絶対にプリント持ってくんの、忘れんじゃねぇぞ。時間跳躍ってのは、コストがかかり過ぎる。現代のスペースシャトルみたいなもんだ。タイムマシンで成功するまでやり直すとかは、有り得ねぇと思え。とにかく明日は、朝六時にココな。以上。」
いやいや、以上って。
ちょっと待て。
何をやるのか全然、説明してないでしょ。
VRゲームの成績が良かったからリーダーってどういう事だよ、そんなんでいいのか。
リーダーっていうのが本当なら、作業の詳細は絶対に聞いておかないと。
理解できたのは、朝六時から六時間なら昼飯はバイト後って事だけだ。
このまま行ったら、一緒に行く女の子達に文句を言われて、嫌われるかもしれない。
それは避けたい。
入り口で会ったあの美少女が一緒かもしれないから、尚更だ。
「ハハハ。そういえば今、アメリカの大統領が来日してるんですよね。それであの、リーダーって事ですけど、作業の詳細が良くわからないんで、もうちょっと教えて貰えますか?」
すでにスマホに夢中になっていた山形さんは、あからさまに嫌そうな顔をした。
もっとも、顔はスマホの画面に向けたままで、視線さえも合わせようとはしない。
「あのなぁ、オレは暇じゃねぇんだぞ。」
「さっきVRゲームやってる時に説明しただろ。あん時と全く同じ事をやりゃいいんだよ。今回の未来予測は精度が高い。お前なら一人で出来るから、お前がリーダーだ。説明終わり。プリントを読めよ、プリントを。」
「社内のその辺見てくのはいいけど、話しかけんな。気が散るから。あと念押ししとくが、機密事項は絶対遵守っての忘れんな。秘密を漏らした場合、脳内の全思考をスキャンする事になる。」
いや、全然説明になってないんですけど。
VRゲームと全く同じって、サイボーグと戦えとでも言うのか。
あぁ、ダメだ。
もう、話しかけられる雰囲気じゃない。
仕方が無い。
もう暗くなってきたし、明日も早い。
家に帰って、資料のプリントってのを読んでみるか。




