エピローグ~花に願いを~
本日二話目ですm(_ _)m
これにて終了です。ありがとうございましたm(_ _)m
「……こんな時にごめんね。ねぇ、アイリス。ぼくは貴女を愛している。ぼくの手を取って、一緒に来てくれないかな」
闇の中から差し出される、白い手。ゼロ、貴方の瞳は揺れていて、心では荒れ狂う感情が葛藤していたのでしょう。なのに、わたくしは気付きもせず、貴方の手を拒んでしまった。
「ふざけないで下さい。ゼロ、わたくし達は家族でしょう? レイナの気持ちを裏切らないであげて」
……わたくしの言葉は、きっと貴方を深く傷つけた。虚空に伸ばされたゼロの手に闇の精霊が触れた瞬間、わたくしは貴方の手を取らなかった事を後悔しました……。
ゼロの、全てを諦めたような空虚な笑顔を忘れる事が出来ません……。謝りたくても、貴方が今どこに居るかもわからない。ただ生きていてくれると信じています。
有翼人のわたくしからしても長い時間が経ち、その間にガラクシアスも、良き理解者だったルベウスも死んでしまいました……。ルベウスの子は権力争いを嫌って天空に逃れ、思い出の詰まった王城は、今や魔窟と化しています。わたくしはか弱い子供達を守るために、残りの寿命を全て費やす決心をしました。
後ろ盾もなく、親すら失った子達を守るため、王族と婚姻を結ぶことになったのです。嫁ぐ相手も、わたくしが育てた子の一人です。なんという皮肉でしょう。家族だからとゼロの手を拒んだわたくしが、自ら育てた……実の子としか思えない相手に嫁ぐことになるとは。新たに国を立ち上げ、わたくしは王妃となりました。
……夫となった人とは信頼で結ばれていますが、愛し合う関係ではありません。ゼロを思い続ける事を、許してくれました。
────ゼロ、貴方は……あの闇の精霊と結ばれたのでしょうか?
胸がズキズキと痛みを訴えます。わたくしと貴方の道は、完全に別たれてしまった。それでも貴方の痕跡を感じる度に、愛しさがこみ上げます。……ゼロは一人で抱えこむ子です。責任感や孤独に押し潰されないといいのですが、心配です。
かつてわたくし達が暮らした思い出の地が、遠い昔に亡くなった正妃の出身地だからと、何故か不可侵条約が結ばれました。
不思議な事に、大陸全体で戦乱が起こっているにも関わらず、パトリだけが荒らされなかったのです。……あそこには、メイ達の建てた病院もあります。ゼロ、貴方が暗躍して守ってくれたのではないですか?
わたくしは王妃となった時に、我が儘を言いました。わたくし達の国“ルークスステッラエ”の紋章に、レイナの象徴だったハリの花の意匠を選んだのです。それだけでなく、わたくしは毎日欠かさずハリの花を作り続けました。
レイナの気休めに教えたルリの花のおまじないに、わたくしは縋るしかなかった……。
すれ違ってしまったわたくしとゼロ。遠い未来、例えお互いの子孫でも構わないから、また手を取り合えるように、心が通い合う日が来ますようにと、願いをかけます。
掲げたハリの花が、深く濃い蒼、瑠璃色に染まる時。願いが叶うと信じて、わたくしは花に願いを託すのです……。
「たった一つ、たった一つでいいのです。どうか、わたくしの願いを叶えて下さい……」
“たった一つ”。いつしかそれがわたくしの口癖になりました。ゼロと再会する事は生涯ありませんでしたが、わたくしは最期まで祈り続けたのです。
子供を産んでも、年老いても、ゼロ、貴方を忘れる事は出来ませんでした。いつか遠い未来で願いが叶うと信じて、わたくしは人生に幕を下ろしました。
────最期の瞬間、闇の中に、涙に濡れた黒い瞳が見えた気がするのですが……幻覚でしょうか?
レイナ~涙色の愛憎劇~完