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ナチュラル  作者: 犬兎
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第一話 由真、恋の三角関係警報発令中! ⑥

 その後、まどかから全容を聞きだした俺はダッシュで家に帰る。


「美鈴!お前何やってんだよ!」


 美鈴は俺の態度ですぐに何があったのかを悟った。


「あれ?ばれてたのかな?完璧だと思ったのに・・・。」


「お前はまどかの単純さを分かってないな? あいつならアンパン一つで口を割ったぞ。」


 俺がそう言うと、美鈴も観念したのか急に反省したような態度になる。


「だって・・・二人が心配だから・・・・。」


 伏し目がちに美鈴がそう呟く、こうしてみると美鈴もなかなか可愛い。腹黒いけど顔はいいのだ。


「心配なのは分かるけどさ・・・ほっといてくれよ。」


「うん、ごめんね・・・。」


 やけに素直な美鈴の態度が心配だが、とりあえず許す。すると彼女の態度が急変した。


「じゃあ、一万円返してね」


「なに?」


「一万円、使わなかったでしょう? じゃあ返して、ね」


「この腹黒女め・・・。」


 そう言いながらもやっぱ彼女の笑顔には勝てん・・・・名残惜しく一万円を返し自分の部屋に戻る。夕食の後・・・ しばらくボーっとしているとノックの音が聞こえた。


「誰?」


「あたしだ・・・ちょっといいか?」


 そう言って、さやかが部屋に入ってくる。風呂上りなのか、まだ髪が濡れていた。


「あのさ・・・明日、土曜日だろ?映画・・・見に行かないか?」


「映画?」


「ああ、『姿なき殺人者』・・・お前、これ見たがってたろ?」


 さやかがチケットを見せる。確かに俺はその映画を見たがっていた・・・でもそれを見に行ってないのには理由がある。


「さやか、お前怖いの苦手だろ?止めといたほうがいいんじゃないか?」


 そう、この映画はR‐15指定のグロい映画だ。さやかとか美鈴はこういうのが大の苦手。一緒に見に行くような友達もいないし、だからといって一人で見に行くのはかなりつまらないし・・・だから俺はそれを見るのは断念していて、まぁそんなところだ。

 俺が半笑いになった。さやかは頬を膨らませながら、


「な、馬鹿にすんな! あたしがこんな程度でびびるわけないだろ!」


 顔を赤くしてそう叫んだ。こうしてみるとこうやってさやかをからかって遊ぶのも悪く無いかもと思えてくる。


「・・・ゆーちんが側にいてくれるなら・・・・大丈夫だから。」


 恥ずかしそうにさやかがそう言った。耳の方まで赤くしながらそのチケットを俺に手渡す。


「約束だかんな! 絶対だぞ!」


「分かったから早く寝ろ! 明日起きれないなら置いてくからな。」


 勢いよく俺の部屋のドアが閉まった。現在時刻は九時五分・・・特に何もする事はないので俺は明日に備え寝る事にした。


「恋に不器用なお姫様は鈍感な王子様に愛を伝えるきっかけを探し中なのです・・・なんて言ってみたり。」


 ドアの向こうでさやかがそう呟いたのは当然俺には聞こえていないわけで・・・。

 また日が昇り朝になる。つまり次の日になったのだ。俺は昨日と同じように一階に降りる。リビングには珍しく美鈴の姿は無く、変わりにさやかがいた。


「うわ・・・お前起きるの早いな。明日は飴のち米だな。」


 俺が驚いてそう言うと、さやかはフンと鼻で笑いながら一言。


「訳わかんないこと言うな! 気合を入れれば早起きなんて楽勝よ。」


 だったらいつも気合を入れててくれ・・・。そんな心のツッコミが入る。


「さあ、行くぞ!」


「待てって・・・俺まだ起きたばっかなんだから・・・・。」


 そんな俺の言葉を完全に無視し、さやかは家を出た。仕方なく俺もついて行く。

 商店街からバスに乗り三十分くらい経つと、隣町が見えてくる。俺たちの住む町とは違い、朝でも人がたくさんいる。さやかは起き抜けでだるい俺の手を引っ張りながら映画館を目指す

「早く早く! 始まっちゃうよ~。」


 さやかは嬉しそうだ。そんなに楽しみだったのか?

 かなりのハイペースで走り続け、映画館に到着する。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・お前後で覚えてろよ・・・。」


 俺が小さくリベンジに燃えている中、さやかは嬉しそうに俺の隣の席に座る。


「あのさ、マジで怖くないのか?」


 俺がそう聞くと、さやかは俺の手を握った。俺は一瞬どきっとする。彼女の手の震えが俺に伝わってくる。


「・・・だからさ。手、握っててくれよな?」


 さやかは赤くなった顔を片手で隠しながら小さな声で言う。なるほどそう言う事ですか・・・今日はそれが目的ですか・・・。仕方なく了承し、手をつないだまま映画を見る。


「王子様は怖がりのお姫様の震える手を優しく握るのだった。」


「何言ってんだ?」


「なんでもないない。」


 そう言って、嬉しそうに微笑んだ。映画が始まる・・・時間が経つに連れて、怖くなったのかさやかの手を握る強さがだんだん強くなっていく。


「さやか・・・痛いって。」


「あぅ・・・・ご、ごめん。」


 しかし、そう言っておきながら握った手は放さない。

 そんなやり取りを繰り返しながら二時間半が経過。映画も終わり、俺とさやかは帰りのバスを待っている。


「バス、来ないな・・・。」


 バスの到着時刻は一時、現在時刻は一時十五分。明らかにバスは遅れている。


「そうだな・・・。」


 俺がそう言いながらきょろきょろと辺りを見回す。すると俺の視界に入ってきたのはいつも学校で見ている女の子の姿。

 小野寺さん? 何でここに?

 私服でさらに猫を抱いているがあれは明らかに小野寺さんだ。彼女は俺に気付いていないようで、猫を抱えたまま裏路地に入っていく。


「どうしたゆーちん?」


 小野寺さんの方をじっと見つめていた俺を心配したのかさやかが俺の目の前で手を振る。


「さやか・・・あのさ、俺まだ用事あるから・・・。」


「委員長先輩か?」


「え?」


「気付いていないとでも思ったのか?お前が今、ずっと見てたのぐらいお見通しだかんな!」


 さやかは泣きそうな顔をしながら俺を睨みつけ、後ろを向いた。


「行けよ・・・・そんなにアイツの事好きならさっさとあたしを置いて行けばいいだろ!」


「さやか・・・・。」


 俺は今更になって何故さやかが今日、俺を映画に誘った理由が分かった気がした。まさか、さやかは俺のこと・・・・ってさやかに限ってそんなわけ無いか・・・俺って自意識過剰かな?


「ごめん、俺行くな?」


「ああ、行ってこい。あたしは先に帰るからな。・・・がんばれよ。」


 さやかの声がかすかに震えているのに俺は気にせず走り出した。バス停に一人残されたさやかはふっと口元を緩める。


「王子様はシンデレラのところへ・・・そしてお姫様は舞踏会で一人置き去りに・・・・か。」

目から涙が零れ落ちる。そして地面に座りこみ、とうとう大声で泣き始めた。


「う、うう・・・うわあぁぁぁぁん!! ・・・・・ゆまの・・・ゆまのばかぁ!」


 さやかが泣いているのにも気付かないほど真剣に俺は小野寺さんを追いかけていた。裏道を走り続けてニ、三分してようやく彼女に追いついた。


「小野寺さん!」


「え? あれ・・・川上君?」


 小野寺さんはさっき見た通り、私服姿で猫を抱いていた。普段と違う彼女のかわいらしい姿にドキッとする。


「川上君、今日は何かあったの?」


「あ、ああ・・・・ちょっと映画をね・・・。」


 俺がそう言ったとき、彼女がくしゃみをする。


「くしゅ! ・・・う~。」


「小野寺さん・・・風邪?」


「え? ううん、違う違う! なんでもないよ。」


 彼女の目にはうっすらと涙、少し鼻が赤い・・・そしてその否定の仕方・・・まさか。


「猫アレルギー?」


 彼女は頷いた。俺は彼女から猫を取り上げる。


「あっ、猫さん!」


 彼女は猫を取り返そうとするが、俺は何とか死守する。


「ダメだって! 猫没収!」


「うぅ・・・・だって・・・・・その子、ダンボールの中に入って捨てられてたんだもん・・・。一人でずっと寂しい思いをしてきたのに・・・また一人にしちゃかわいそうだよ・・・。」


 それを聞いて、元居た場所に戻そうなんて考えるやつは普通いないよな?だから俺は猫を小野寺さんに返した。


「小野寺さんはこれ以上猫触るの禁止な? 親父さんに飼ってもらいなさい。」


「う、うん。ありがとう。」


 そう言って、猫を抱きしめた。


「よかったね猫さん、もう一人じゃないからね・・・くしゅ!」


「・・・・家まで送ってくよ。」


 嬉しそうに微笑む彼女をもっと見ていたいから・・・俺は適当な理由をつけて小野寺さんについて行く。

 そこから歩いて十五分、彼女の家に到着した。


「ここですか・・・。」


「ごめん・・・貧乏なんだ。」


 もっと普通の家を想像していたのだが、想像以上のボロアパー・・・いや失礼・・・想像以上に小さな家だった。


「じゃあ、もうここで・・・。」


「いや、とりあえず玄関まで行くよ。」


「え? ・・・・う、うん。ありがとう。」


 そう言う彼女の瞳はどこか寂しげだった。階段を上がり、家の鍵を開ける。


「ただいま・・・お父さん。」


 彼女がそう言うと、彼女の父親が家から出てくる。


『パシッ!』


「え?」


 俺は突然の出来事に驚きの声を上げる。いきなり出てきたかと思えば父親が彼女に平手打ちをしたのだ。


「今日は早く帰るといっただろうが! ・・・一体どこをうろついていたんだ!」


「ごめんなさい・・・・途中でクラスメートに会って・・・それで。」


 彼女が頬を押さえがら謝ると、さらに父親が彼女の顔を殴る。


「口答えするな!」


「うぅ・・・・ごめんなさい・・・ごめん・・・なさい。」


 彼女は泣きながらただひたすら耐えている。そんな姿を見て俺は父親の腕を掴んだ。


「アンタ何やってんだよ! 自分の子供だろう?」


「うるさい! こいつさえ・・・こいつさえいなければ・・・こんな・・・こんな事になんてならなかった・・・皆こいつのせいなんだよ!」


「わけ分かんない事言ってんじゃねぇ!」


 俺はそう言って、彼女の父親を殴り飛ばした。


「何があってもお前は彼女の父親だろうが! だったら・・・」


「川上君!」


 彼女の声が俺の言葉を止めた。


「・・・出て行け!」


 親とは思えない態度。マジでむかついた。


「お前!」


「やめて川上君! 私が・・・私が全部悪いんだから。だから・・・やめて。」


 そう言う彼女の瞳からは猫アレルギーとは違う大粒の涙。


「ここから消えろ! 二度と帰ってくるな!」


「ごめんなさい・・・全部私のせいだよね、本当に、ごめんなさい。」


 彼女はそう呟くと、階段を下りていく。俺は彼女を追いかけた。



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