第二話 麻衣、ごめんなさい撲滅運動実施中! ③
家に戻ると、もう時刻は一時を過ぎていた。お父さんはお昼寝中・・・。私は部屋に入り、普段着に着替えた。
「ふぅ・・・。」
まどかさんの言ってた、『本当の気持ち』・・・このままじゃ私は幸せにはなれないってこと、そして私はそうなることを望んでいない。ついこの間まで自殺してしまおうかと思っていたほどの人間だったのに、いまさら人並みの幸せを手に入れようとしている私・・・。
本当にそれでいいのだろうか、とふと思う。自分に幸せになる資格なんてないんじゃないだろうか? そんな考えが頭の中でぐるぐる回る。
「私・・・本当にこのままでいいのかな?」
そんな独り言が口から出る。すると一瞬頭の中が真っ白になった。
気がついたら私はケータイを握り締めて家を飛び出していた。そしてバス停に立ったとき、不意に自分が今何をしようとしているのか気になった。
「あれ? 私何してるんだろ?」
突然白昼夢を見て、さらに夢遊病にでもなったのだろうか?だとしたら今すぐ病院へ行かないと・・・。いや、そういえば自分で家の鍵をかけた記憶がある・・・と言うことは意識はあった。ということは今、私はどこかへ行こうとしている。
「・・・どこに行こうとしてたんだろう?」
そう言ってみたが、自分では分からない・・・そんなこんなしてるうちに、バスがやってきた。
「隣町行きのバス・・・。」
いつも学校に行く時に利用するバスだ。私はこれに乗ろうとしていたのだろうか・・・?
「あれっ? 麻衣、どしたの?」
突然の声に私はびっくりして振り返った。そこにいたのはいつも顔を合わす長身の女子高校生・・・そして後ろにはその妹さん。
「美鈴ちゃん・・・それとさやかさん・・・?」
美鈴ちゃんは大きなカバンを持っている。二人はニコニコ微笑んでぺこりと会釈した。つられて私も頭を下げる。
「こんにちは。麻衣、いろいろ大変かなって思って様子を見に来たんだ・・・余計なお世話だったかな?」
美鈴ちゃんが私のために・・・?
「あのさ、実は今日から由真君・・・フェアリーサークルで住み込みのバイトすることになってさ・・・よかったらうちに来ない?」
その突然の彼女の提案に私は反射で首を横に振った。
「そ、そんな。悪いからいいよぉ・・・・。」
「委員長先輩、二、三日くらい良いじゃないですか。きっと楽しいと思いますよ」
さやかさんが断る私の右手を掴んだ。
「そうそう、女の子三人で共同生活とか萌えるね~。」
そう言って、美鈴ちゃんも私の左手を掴んだ。そして二人は同時にこう言った。
「「強制拉致~っ!」」
「いやあぁぁぁ! 人さらい~!」
二人はものすごい力で嫌がる私の手を引っ張った。抵抗しようとするが、ぜんぜん振りほどくことは出来ない。
「やだってば!美鈴ちゃん、放してよ。」
「まあまあ、別にいいじゃない。いつもと違う生活してみて『自分探し』してみるのもいいと思うよ。」
『自分探し』か・・・。その言葉で、さっきまで自分が何をするつもりだったのかを思い出せた・・・ホントはそんな気がしただけで思い出せてはいないんだけどね。
「・・・・分かった、自分で歩くから手、離してよ。」
「じゃあ、来てくれるんだ?」
私は大きく二回うんうんと頷き、そして美鈴ちゃんに向かって微笑んだ。
「うん。やっぱその笑顔にお姉さん萌えちゃうよ。」
「あははは・・・・。」
「はい~とうちゃく!」
「そんな感じで、ここが我が家よ。くれぐれも他人の家じゃないから安心してね」
「そんなこと言われたら逆に安心し難いんですけどっ!」
そんな私のツッコミはさておき、私たち三人は家に到着した。
「さてと・・・まずは部屋へご案内だね。こっちだよ。」
そう言って、彼女は二階へ上がった。さやかさんはさりげなくリビングのほうへ向かう。・・・何か準備でもするのだろうか?
「何やってるの? 早く来てよ。」
「あ、うん・・・。」
さやかさんが気になるけど、これ以上待たせると美鈴ちゃんがもっとまずい台詞を言いそうだったからついていった。
部屋は日当たりのいい南側の場所だった。何もない部屋の中にはベッドがひとつ置かれている。
「ここはもともと由真君のお母さんの部屋だったんだ。今はお仕事で海外にいるけどね。」
「へぇ・・・。」
窓の外をのぞくと、真下の庭に大きな木があるのを発見した。
「桜・・・?」
「うん、春になるときれいに咲くんだよ。」
「そうなんだ・・・。」
私はここで自分を見つけられるのだろうか・・・『本当の気持ち』を正直に出せるようになるのだろうか? ・・・というよりそれ以前に私に幸せになる資格はあるのだろうか・・・。そんな不安に駆られつつ私は桜の木を見つめていた。
「あっ、そうだ。お父さんに連絡しないと。あとカバンとか制服とか・・・・。」
「大丈夫、全部持ってきたから」
そう笑顔でいい、私にさっきの大きなカバンを手渡した。かなりの重さに一瞬よろめく。
「いつの間に?」
「まあいろいろとね。」
なんだろう・・・? 気になるけど、聞いてはいけないような気がする。
「まぁ、とにかく今日はゆっくり休むことだよ。じゃあ私は下にいるから。じゃね」
そう言って美鈴ちゃんは一階に下りていった。
「全部って・・・・いったい何持って来たんだろう・・・。」
そう思って、カバンを開ける。大きな旅行カバンの中には着替えやら参考書やらが詰められていた。
「本当に全部だ・・・。」
しかし、制服が入っていないことに気がつく。制服がないと学校に行けない・・・。急いで美鈴ちゃんのいる一階に行く。
「美鈴ちゃん! 私の制・・・ふく・・・。」
リビングのドアを開けて、怒りながらそう言うおうとするが、目の前の光景に気をとられ、言葉が途中で止まってしまった。
「あれ? 麻衣、もう来ちゃった?」
美鈴ちゃんがそう言うと、さやかさんが庭から戻ってきた。
「委員長先輩、もうちょっと待っててくださいね。もう少しで準備で来ますから。」
私の目の前に広がっている光景・・・それは『小野寺麻衣、私たちの家族任命記念パーティー』と書かれたまるでお誕生会のような飾り付け達・・・。
「家族・・・・?」
「そう・・・由真君が言ってたんだ・・・・「この家に住む人はみんな俺の家族だ・・・」って。だから麻衣はこれからは私たちの家族だよ・・・それとも私たちのような家族じゃ頼りないかな・・・?」
由真君が・・・そんなこと・・・でもそれは・・・。
「ううん、嬉しいよ。」
一瞬そんな考えが浮かびつつも私はそう言って愛想笑いをする。しかし美鈴ちゃんには私の心が読めているようで、複雑な表情を浮かべ私をじっと見つめていた。




