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ナチュラル  作者: 犬兎
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第二話 麻衣、ごめんなさい撲滅運動実施中! ④


 数分後、準備が整い『小野寺麻衣、私たちの家族任命記念パーティー』が始まった。それは私にとって初めての出来事・・・お父さんは今までこんなことしてくれなかったから・・・・。

 小学校五年生くらいの頃、「母さんが死んだのはお前が生まれたせいだ」ってお父さんはそう言った。その日から何かにつけて私に暴力を振るうようになった。そのうち仕事を辞め、毎日家にいるようになってからはその暴力はさらに激しくなった。当時、学校でも友達がいなかった私は誰にも相談することは出来ず、ただその行為に耐え続けていた。でもなぜその頃になってお父さんは突然そんな風になってしまったのだろう・・・。


「委員長先輩、どうしたんですか?」


 さやかさんの声で私は思考の世界から解き放たれた。いつまでも食事に手をつけない私を心配してくれたのだろうか?


「あ、うん。なんでもないんだ・・・。」


 目の前に並べられた料理を美鈴ちゃんがお皿に取り分けて、私のほうに持ってくる。


「はい、どうぞ。」


「あっ・・・ごめんなさい。」


 私がそう言って、お皿を受け取ると。二人は不思議そうに私を見つめる。


「な、なに? どうしたの?」


「麻衣・・・日本語がおかしい・・・。」


「委員長先輩・・・あのですね・・・。」


「「そういう時は『ありがとう』だよ。」」


 彼女たちは同時にそう言った。私はきょとんとする。


「え? 何のこと?」


 さやかさんが私のほうを指差しながら間違いを指摘する。


「だってさっき『あっ・・・ごめんなさい。』って言ったじゃないですか!」


 さやかさんがやった私のものまねを完全に無視し、美鈴ちゃんがそれに続く。


「麻衣、言葉は正しく使わないと相手に伝わらないんだよ?ここで『あっ・・・ごめんなさい。』なんか使ったら私たちのほうがなんか気を使っちゃうんだよ?」


「あぅ・・・ごめんなさい。」


 すると美鈴ちゃんが怒り出す。


「ああもう! 麻衣! これから『ごめんなさい禁止令』を発令します! 今後一切『ごめんなさい』を使わないこと! いい?」


 そう言って、美鈴ちゃんは冷蔵庫にぶら下げている小さなホワイトボードに『ごめんなさい撲滅運動実施中!!』というメッセージと自分の似顔絵を書き込んだ。


「そ、そこまでしなくても・・・。」


「ダメ! っていうか今度ごめんなさい使ったりしたら罰ゲームだよ! 分かった?」


 美鈴ちゃんに圧倒され、私は仕方なく同意した。すると彼女はニコニコ笑ってさっきまで座っていた席に戻る。


「罰ゲーム、何にしようかな~?」


「ホントにやるんだね・・・。」


 私は楽しそうに笑う二人の顔を見てこの先大丈夫なんだろうか、と思っていたりしていた。パーティーも終わり、時刻は十時半。私は自分の部屋の窓から桜の木を見ていた。


「お父さん、一人で大丈夫かなぁ・・・?」


 あんなに暴力を振るわれていても、私はお父さんの心配をしている・・・美鈴ちゃんにそんな事言ったら呆れられちゃうかな?

 もう夏も終わる・・・夜の風が心地いい、空には丸い月が浮かんでいる。それはそうとして明日は学校へ行かないと・・・そんなふうに私の思考があちらこちらに飛び交う。集中力が切れた証拠だ。もう寝よう・・・最終的にそんな考えに行き着いた。窓を閉め、ベッドに入る。最初からうとうとしていた私はすぐに眠りについた。

 夢の中であるものが蠢いているのが見える。・・・なんだろう?そう思って私はそれを手に取った。・・・猫だ。真っ赤に染まった猫の頭が私の手の中で動いている。


「・・・・猫さん?」


 ――どうして助けてくれなかったの?

 そんな言葉が聞こえる。


「・・・ちが・・・私は・・・猫さんを・・・」


 ――こいつさえいなければ・・・こんな!

 どこかで聞いたことのある声が聞こえる。私はとっさに耳をふさいだ・・・しかし声はまだ聞こえてくる。

 ――お前、ホントウザい

 ――生意気なんだよ・・・小野寺麻衣・・・

 ――ここから消えろ・・・


「うわあぁぁぁ!」


 その時、目が覚めた。でも心はまだ夢の中にいるような感覚で、まだ声が頭の中でぐるぐるしている。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」


 何とかして気分を落ち着けようとするけど、心臓の鼓動は一向におさまらない。空はいつまでも暗くて、私の心を飲み込んでいくような感じ・・・それがたまらなく怖い。


「夜が・・・怖いよ・・・・由真君。」


 膝を抱え、泣きそうな声を出して私はそう呟いた。


「由真君、由真君・・・」


 由真君のことだけが頭の中から浮かんでくる。『もう私に関わらないで』・・・なんであんなことを言ったんだろうと今更後悔する。不意にあることが頭の中に思い浮かんだ。


「・・・・なんだ、そっかぁ、私・・・」


 私はあの時、由真君に会いに行こうとしていたんだ・・・。




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