第一話 由真、恋の三角関係警報発令中! ①
「私・・・由真君がいたから・・・それに気付けたんだと思う。だから、やっぱり由真君は良い人だよ。」
現在時刻は午後七時、もう暗くなって辺りが見えにくくなった図書室で彼女はそう呟いた。
「・・・・由真君、どうしたの?・・・ん?」
俺の顔を覗き込み、彼女は柔らかく微笑んだ。
「麻衣・・・俺は・・・俺は・・・・。」
「・・・なぁに?」
彼女はいつもと同じ笑顔で俺を見つめている。
「俺は・・・君の事が・・・。」
「えっ・・・・?」
彼女の顔が一気に真剣になる。俺が何を言いたいのか悟ったのだろう。
「君が・・・。」
「・・・・・・。」
一瞬、全ての時が止まったかのような沈黙。そして彼女は・・・。
――事の発端は高校二年の九月に遡る・・・
俺の名前は川上由真、真面目だけが取り柄のごくごく普通の男子高校生だ。そのせいで当然、彼女いない暦生まれてこの方十七年・・・それどころか高校に入ってからまともに女子と会話もした事が無いただ一人の人物だけを除いて。
「・・・今日もあの人はいるかな?」
図書室の前で俺は小さくそう呟く。『あの人』とはクラスの学級委員長、小野寺麻衣。この学校唯一の図書局員で放課後は決まって図書室で本の整理をしている。俺は教室と違う彼女の生き生きとした姿を見るのが好きだった。
「・・・・よし、行くぞ。」
俺は緊張しながらドアに手を伸ばし、勢いよくドアを開けた。
「失礼しまーす。」
図書室の中は静かだった。奥のほうから本を片付けるような音が聞こえる。今日は来ているようだ、とほっとする。彼女にばれないように近付き姿を確認する。彼女は本を本棚の高い所に入れられずに困っているようだった。声をかけ、さらにお手伝いをし、一気に彼女にアピールするチャンスだ。
「・・・あ、あの・・・手伝おうか?」
俺は勇気を出して彼女に話しかける。すると、首を横に振った。
「・・・・・・・。」
彼女は何も言わないでその場を離れた。俺ってそんなに嫌われてたのか? 分かってはいたけど、ちょっとショックだった。悲しみにくれながら俺は仕方なく本を一冊取り、適当な椅子に座って読み始める・・・・。しばらくすると彼女が脚立を持って戻ってくる。
「よいしょっと。」
彼女のその声が俺以外誰もいない図書室全体に聞こえる。何をする気だ? 俺が心配になって見にいくと彼女は脚立に上り本を棚に入れようとしているところだった。しかし、今度は棚に戻す本に手が届かない。プルプル震えながら頑張って手を伸ばしている。俺としては彼女のかわいい姿をもっと見ていたいが、これ以上手を伸ばすと今度は脚立から落下してしまいそうだったため、急いで助けに行く。
「小野寺さん危ないって!」
俺はそう言って本を手に取り彼女に手渡した。
「だから手伝おうかって聞いたんじゃ・・・」
「―――」
少し彼女は戸惑いつつもその本を棚に戻した。すると彼女がこちらに手を伸ばす。
「えっ、何?」
「・・・そっちの本も・・・・取って。」
「・・・はい。」
俺は彼女の指差す本を手渡す。
「・・・ごめんなさい。」
彼女が本を受け取るとそう言ったので、俺は笑った。
「違うだろ? そういう時は「ありがとう」」
「・・・・・あり・・・がとう。」
彼女は俯いて、恥ずかしげにそう呟いた。




