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《虫人》 - Insecter  作者: Risa (虫人の人)
ヴァーダントライン編
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第24話  逃亡!?



《逃走!?》


ヴァーダントライン城・客間——


闇夜に覆われた部屋の中——。

女忍者が、俺を魅惑の淵へ追いやる。


「——……用だ! 御用だ!!……」


そんな中、廊下の足音が徐々に近づいてくるのが聞こえる。


「——いいところだったのに。——時間ですね——。」


すると忍者は、声のする廊下の方——

ではなく、ユミナとミオナが寝る襖の方を見ながら、立ち上がる。


「——何が起きて——……!?」


その時だった——。


ガタンッ!!

外れた襖が、布団のすぐそばに倒れ込む。


「くせ者ッ!!」


「ユウジさん! こっちです——!!」


唐突に、フル装備のユミナとミオナが現れる。


そして——


「はぁあああ——ッ!!」


近接戦闘ブレードを両手に、忍者に切りかかるユミナ。


同時に、廊下の足音がすぐ近くまで接近し、廊下側の襖が勢いよく開く。


「いたぞ!! 捕まえろ!!」


「え——!?」


すかさず、こちらに寄って来たミオナが、俺の荷物を差し出す。


「こっちです! 早く!」


ミオナに強引に腕を引かれ、庭側の窓から飛び降りる。


走りながら後ろを振り返ると、ユミナもまた、こちらへ走ってくるのが見える。


そこに、もう忍者の姿はない——。


手提灯を持ったTEXSの武士たちが、遠くで、俺たちの方に刀を向けている。


「一体何が起きてんだよ?」


「事情は追って話します——!」


すると、追いついたユミナが俺の横に来る。


「さぁ! 逃げるわよ!」


城壁のすぐ近くへ来ると、腕を抱えるミオナと同じように、ユミナも俺の腕を抱え込む。


「ちょ、前! 壁!」


その瞬間、僅かに光る二人のレッグシェル。

気付くと、身体が宙に浮き、城壁の屋根の瓦が下にチラつく——。


「着地姿勢! 距離7メートル! 」


ユミナの叫ぶ声。


——いや、着地姿勢ってなんだよ——!!


そんなことを思いながら、俺はただ足を竦ませ、見事に地面と衝突したのだった。








ヴァーダントライン・城下町——


町外れの雑木林を伝い、竹の間をすり抜けていく——。


走りながら、ミオナがヘッドシェルのバイザーを降ろす。


「——地形情報スキャナー! 夜間モード——!」


微かに光る背中のアンテナ。

バイザーの青白い光が消え、輪郭が闇夜に溶け込んでいく。

ミオナが続ける。


「——正面に、敵兵5名! 迂回しましょう——!」


「りょーかいよ!」


ユミナが短く応える。

俺は痛めた足を庇いながら、その間を走ることしかできなかった。


——クソッ……。せめて何が起きてるのかさえ分かれば——。


理由も説明されず、ただ暗い竹林の中をぶつからないよう、走っていく。


そして、郊外の白い城壁が見えてきたのだった。


「目標50で停止してください——!」


ミオナの声で、俺たちは足を止める。

林の中から見える複数の具足型のTEXS——。

ヴァーダントラインの検問所は、既に武士たちで囲まれていたのだった——。







ヴァーダントライン郊外・検問所付近——


検問所に、増員された兵士たちが次々に集まってくる——。

検問兵は槍を片手に、何やら打ち合わせをしているようだった。


「……まだここは出てないみたいだから……」

「……けど、塀を跳び越えたと聞いたぞ……」


そんなやり取りが、林の中にも響き渡ってくる。


——あれ、完全に俺たちのことだよな……。


そんなことを思っていると、ミオナが音をたてないようにバイザーを上げ、こちらに首を向ける。


「——えっと、状況を説明しますね。——まず、サイチさんが失踪しました……」


「——は、はぁ……!?」


「しーっ。声でかいわよ——。」


驚きのあまり声を上げる俺に、ユミナが注意する。


——温泉で一緒に語り合ったアイツが、また失踪……?


そこで俺は、直前に来た女忍者が言っていたことを思い出した。

ツバルが俺を仕留めに来る——それは夢でも虚言でもなく、現実で起こり得ることだったのかもしれない。


「——サイチさんの失踪で、私たちが手を組んでいると思われているのかもしれません——。」


「——なら、ツバルさんと直接話した方が——」


「ダメよ。」


「え——なんで……?」


ユミナが呆れたように、ため息をつく。


「——いい? サイチが失踪した、過去に協力した私たちが招かれている——

 この二つが揃った時、出る答えは一つよ。」


「——サイチの失踪は……サイチが勝手にやったことで——」


「違うわよ。サイチの失踪は、私たちが協力した、私たちは犯罪者扱い、それだけよ。」


「——でもちゃんと話せば分かってくれるかも……少なくともツバルさんなら——」


その言葉に、ミオナが静かに首を横に振る。

ユミナは続ける。


「あんた、ツバルに期待しすぎよ。廊下から来た兵士たちを見たでしょ。

 あいつも所詮は、ヴァーダントラインってことね——。」


言われてみればそうなのかもしれない。

話さないことには俺たちの誤解が晴れることはない——だが、現状はそうじゃない。

話す前から、ヴァーダントライン側の結論は、既に出揃っていたのだ。


一通り話に区切りがつくと、ユミナが再び口を開く。


「——ミオナ、敵の数はどう——?」


ミオナは再びバイザーを降ろし、スキャナーに映った敵たちを見渡す。


「——ダメですね……。ここだと、少し多すぎます——。」


「——完全に詰みね……」


すると、背後から妙な気配を感じる。

すかさず俺たちは、気配のする暗闇に目を凝らした。


風が吹き、竹の葉が揺れる——。


徐々に現れる輪郭。

それは、先ほどの忍者だった。


「つけてきたのね。気付かなかったわ——。」


忍者は口元の布を少し捲ると、僅かに口角を上げた。


「——東へ向かいなさい——」


それだけ言うと、また後ろを振り返り、足音もなく消えていく。

その姿に、ユミナは少し悔しそうに眉間にしわを寄せたのだった。


「くっ……いくわよ——。」


「——お、おう……。」


敵か味方か——。

少なくとも、直接危害を与えてくる存在ではないことだけは確かだ。

ただ言うことに従え——。

そんな態度に、ユミナはどこか屈辱を覚えたようだった。







ヴァーダントライン郊外・東——


忍者の言葉に、再び竹の間をすり抜けていく。

すると、ミオナが何か困ったように言葉を発する。


「——前方100、岩……でしょうか——? 低い何かがあります。ぶつからないよう注意してください——。」


「——おう、分かった——。」


そんな言葉に、ユミナが珍しくバイザーを降ろす。


「——サイトレイヤーオン、夜間モード——。」


一瞬だけ光ったバイザーが、すぐに暗夜に溶け込む。

ユミナはその情報を見ると、驚愕したように言い放つ。


「——迷子くんを見つけたわ——。」


「——え、迷子——?」


その言葉の意味を、俺たちはすぐに理解することになる。


暗闇にかがみ込む男の姿——。

こんな立派な一本角があるのは、一人しかいない。


「——サ、サイチ……? なんでこんなとこに——」


俺たちは再び、足を止める。


「お、おぉ。ビックリした……なんだ、お前らか……。」


慌てふためき、両手を前に出すサイチ。


「——忍者さんが言っていたのは、このことですね。」


そんな様子に、ミオナが微笑みながら言う。


ドガ——ッ!!

眉をしかめたユミナが、唐突にサイチを蹴り飛ばす。


「——って、痛っ……てぇ——。何すんだよ——?」


「何すんだよ、じゃないわよ。私たちの旅行が台無しじゃない。このクソカブト。」


——旅行じゃないけどな——? それ一応、総長だし——蹴るのはダメだろ……。


俺はそう思いながらも、手を付いたサイチにゆっくりと手を差し伸べる。


「——サイチ、帰るぞ。」


しかしサイチは、その手を握り返そうとはしない。


下を向き、ただ静かに目を瞑る。


「——俺は、もう帰らない——。」


「……?」


沈黙の中、俺たちは顔を見合わせた。


「——いや、帰らないって、どういうことだよ……?」


「——俺は……こんな窮屈なところで、生きたくない……もっと世界を見てみたい……。」


俺の質問に、サイチは続ける。


「——親父は、十五で将軍を務め、この森でも勇ましく戦い抜いた……親父のことは尊敬している——

 けど……用意されただけのレールを進むのは、俺の性に合わねぇ……。

 何も成し遂げないまま、終わりたくねぇんだよ……。」


「——サイチ……。」


ユミナが再びサイチに近づく。

そして、胸ぐらを掴んでサイチを持ち上げる。


「——。」


無言。

何も言わず、ただサイチの眼を無言で睨みつける。


「——あ、あぁその、迷惑かけちまったのは申し訳ないと思ってる——すまなかった——。」


ミオナが止めようとするが、ユミナに暴力の意志はない。


「——ユミナちゃん……。」


人気のない郊外の森の中——。

何をするわけでもなく、ただユミナは、その顔を無言で睨みつけたのだった。







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