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最終章 20  決着

出来ました。

今回、ザーツ達の視線と会話がメインで、間にリシェルの動きとセリフ、その他が入ります。


少し読み難いかもしれませんが、こう表現しました。

よろしくお願いします。


ブクマ登録ありがとうございました。



 魔王ミーザが、スランから受け取った転移装置で、帝国城の謁見の間の前室、待ち合い大広場に着いた時、最初に目に写ったのは、あきらかに目を惹き付ける存在感を発しているリシェルだった。


「リシェル……目覚めたのか」

 少し成長したリシェルは、背中から六枚の黒い翼を生やし、ミーザが送った槍で、勇者を圧倒していた。


「戻ったか、ミーザ」

 リシェルを見続けていた、ミーザの背後から、ザーツが声をかけてきた。


「……ザーツ。

 あれが、神となったリシェルなのか?」

 ザーツの下に近寄り、状況を確認するミーザ。


「ああ、そうだ。

 そっちは……スランは、どうなった?」


「……」

 ミーザは、ザーツの質問に、苦虫を潰した様な、複雑な顔で首を振る。


「……そうか」

 その様子で、ザーツは全てを察した。


「アイツが望んだ事だ。

 お前が、そこまで落ち込む事はない」


「ああ、わかっている」

 スランの消える間際の微笑んだ顔を思い出しながら、強い意思の瞳で前を向く。


「……なあ、ザーツ。

 リシェルの、あの姿は」


「神になった姿、らしい。

 それに……三対六翼だが、まるで魔翼族の、いや、俺達の様だな」

 ザーツは嬉しそうに笑っている。


「そうだな。

 しかし、あのリシェルの槍の動きは、どこかで?」

 ミーザは、見覚えはあるが、思い出せず首を傾げた。


「あれは、アーク・ジルベスタの」



「これは、三年前、お前が手駒おもちゃにした、人族の英雄、槍聖アーク・ジルベスタに教わった、槍の基本技術〈六つの動作〉だ」

 ザーツが答えを言う前に、リシェルが、勇者に告げていた。



「……だ、そうだ。

 さっき、リシェルが言っていたんだが……この世界に存在する全てが、リシェルが神になる事を望んだそうだ」


「~~くそっ!」

 リシェルが槍の基本動作〈巻き払い〉で、払い飛ばした神剣を、勇者は瞬時に手に呼び戻し、切りかかる。


 リシェルは構えていた槍を一回転させ……その一連の動きの半回転目、槍の石槌で剣を打ち払い、槍を突き出し、避けようとして、避けきれなかった勇者の脇腹を切り裂く。



「……あれは、槍の動きじゃない。

 ラーシャの……棍の動きだ」

 ガインが、リシェルの槍捌きを見て違いに気づき、長年の連れ添う妻……ラーシャが得意とする棍術の技とわかった。



 リシェルは、手にしている槍を消し、横腹を押さえよろつく勇者に素手で攻撃を仕掛ける。


 複雑な足の動きで、リシェルの姿は三人に分身した様に見えた。

 それは、リシェルが五歳の誕生日の後、傭兵になるといい、修業で最初に身につけた、ガインの歩術……闇の残歩。


 三人に分かれたうち、左右のリシェルが、勇者を挟む様に顔へ向けて回し蹴りを放つ。


「くぅ……っ!」

 両腕で顔へのダメージを守った勇者に、真ん中のリシェルは、踏歩で床を力強く踏み締め、みぞおちへ魔力で強化した拳を突き入れた。


 くの字に身体を折れ、勇者は身体が硬直する。


 左右のリシェルは消え、残った真ん中のリシェルは、空中を空歩で踏み上がり、その勢いで勇者の顔を蹴り上げ、折れ曲がった身体は、伸びるように起され、顎も上を向く。



「あれは……まさか?」

 今度はリシェルが、次々に行う体術は、必ずガインが教えた歩術をまえて攻撃を行っているのに気づいたガインは、リシェルの考え、行動を理解した。


 七つの歩術を順次に行いながら続ける攻撃。

 〈七歩連撃〉……ガインが教えた最大奥義。

 これは、人によって歩術を繰り出す順番が変わり違う為、技の名は同じでも、順番と目的を考えた者によって、攻撃の形が違う。


 だから、今、行われているのは、リシェルだけの七歩連撃。



 空中から、すかさず瞬歩で、勇者の少し離れた後ろに飛び、二度目の瞬歩で、勢いに乗ったまま勇者の背中……肺を両手で突き打つ。


「カハッ?」

 顎が上を向いて気道が真っ直ぐになり、勇者の肺の空気は一気に抜けた。


 跳歩で跳び、勇者の顎を後ろから掴み、後頭部に膝蹴りを、そのまま、勇者を飛び越え、勇者を背に降り立ち、流歩で右足を円を描く様に滑らせ半回転し、勇者の左足首にかけ、勇者は尻餅をついた。


 戻した足を交歩で交差させ、素早く一回転して、尻餅をついて低い位置にある、勇者の顎に後ろ回し蹴りを撃ち抜いた。



「これが、リシェルの〈七歩連撃〉か」

 ガインが、リシェルの技に驚愕する。


「ああ……ガードが空いたみぞおちに一撃。

 顎を蹴り上げ、背後から背中に衝撃で、肺の空気を抜き、後頭部に一撃。尻から倒れさせ、再び顎に一撃で、顎を砕き、脳を揺らす、か……勇者に回復もさせず、脳や、肺、急所を的確にダメージを与える連続技か。

 見事だな。

 あれでは、勇者は、しばらくは立てないだろうな?」

 ガインと、ザーツは、リシェルが繰り出した連続技に、惚れ惚れするため息をはいた。


「……まったく、見えなかった。

 私も、もっと鍛えなくては、駄目だな」

 ミーザは、ザーツ達とは、逆に落ち込んだ。


「何言ってるんだ?

 もう、この戦いが終われば、そんな事する必要はないだろ?

 ……これからは身体がなまらない程度の運動でよくなるはずだ」

 ザーツは、ミーザの言葉に希望を答えた。


「そうか……そう、だな

 ザーツの言う通りだ」

 ミーザは、最後になるであろうリシェルの戦いを見る為、再び前を向いた。



 リシェルは、再び手に槍を出現させ、刃先を勇者に向けた。


 勇者は、受けたダメージが足に来て、震え笑い、立つ事が出来ない。


「最後だ。

 だから言っておく。

 おとうさんは、お前に負けてない。

 事実、剣の技術で、おとうさんは、お前に勝っていた。

 もう数年あれば、おとうさんは、神の力をもってようが、全てにおいてお前に勝っていたはず」

 リシェルの魔力は高まり、威圧を勇者に放つと同時に、魔力を勇者に向け爆発、増幅させた。


 〈神に近づく零〉を指方向性を持たせ、威圧を含めた事で、対象だけの時を止める、零。


 名付けて、〈神を越える零〉。


 この時、勇者だけが時を止まる。

 意識と、動かす事の出来ない目に入る情報だけを残して。



(何だ?

 ……何も聞こえない、動けない、回りは全部動いているのに、何で俺だけが動く事が出来ない。

 くそっ、何なんだ?

 どうなっているんだ!)

 時が止まった勇者には、混乱しか残らなかった。



 リシェルは、槍を出来る限りに魔力強化した。


「最初、この槍をもらった時、私は使いきれなかった。

 だけど、今の私なら……属性神になった私なら行ける。

 ……火の単一魔法、炎」

 槍の側面に炎がともる。


「水の単一魔法、氷。

 光の単一魔法、雷」

 炎、氷、雷が三角の間隔で集まる。


「無の単一魔法、氣力」

 槍の刃先に、氣が集まる。


「土の単一魔法、重力。

 風の単一魔法、空気。

 そして、闇の単一魔法、吸収」

 それぞれが、炎、氷、雷の間に集まり、六芒星を描く。


 七つの属性魔法が限りなく集まり、計り知れない七つ魔力が槍に纏う。


「これで、本当に、終わりだ」

 リシェルは、槍を、勇者の心臓に突き刺した。


 七つの光が、勇者から解き放たれ、光が消えた時には、一メトル程の大きな輝く球体が残された。



やっと、ここまで来ました。

次回、最終話となります。


頭捻りながら書きますので、お待ち頂けたらと思ってます。

一週間以内には……

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