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鵺の娘  作者: 水無月
2/24

第一夜






夜鳥やとり あかり16歳。

もう既に死語かもしれないけれど、花の女子高生っていうものだ。


私自身は、とても平凡でつまらない人間だと思う。

真っ黒でまっすぐな髪は貞子さんみたいだし、手足も白くて細い。

知り合い達には、棒切れのようだとよく心配されている。

目はぱっちりしてて、唯一自分の中でポイントだと思ってるけど鼻は低いのが悲しい。

面白いことだって話せないし、基本的に人付き合いは学校の中でしかしない。



でも、そんな私でも。

ひとつだけ、自慢できることがある。






「ただいま、お父さん!」


『おかえり、灯』


それは、私のお父さんが妖怪の鵺だということだ。













私は、お父さんの住む山の麓に捨てられていたらしい。

こんなご時世に、なんで山とも思わなくないけれど、お父さんに会えたから結果的には良かったと思っている。


色々あったみたいなんだけど、他の妖怪さんの助言もあったらしく、お父さんは私を育ててくれた。

今でも本当に大変だったと言ってくるくらい、大変だったらしい。

知り合いの妖怪さんに色々と助けてもらいながら、お父さんは私を育ててくれた。


今でもその妖怪さんとは会っている。




お父さん顔は、怖いらしい。

らしい、というのも、私はそうは思わないからだ。

知り合いの妖怪さんに聞かれたことがあった。

お父さんの顔、怖くないの?と。


猿の顔に、虎の身体。

そして、尻尾は蛇さんだ。

更に面白いことに、蛇さんは自我を持っている。

話したりはしないけれど、たまに一緒に遊んでくれる。

オセロとかで。

いつも負けるけど。


小さいころから見慣れたお父さんの顔を、怖いなんて思った事ない。

そういうと、知り合いの妖怪さんは呵々と笑い、お父さんはそっぽを向いていた。





私は、お父さんの傍で眠ることが大好きだ。

世界で一番安心できる場所、それがお父さんの傍。

ふかふかの鬣。

そこに顔を埋めて寝るのが大好きなのだ。



これは、そんな私とお父さんと。

そして周りの人たちのお話である。









✳︎✳︎✳︎✳︎








「お父さん、今日学校でね!」


『待て、灯。

 お父さんはこれから妖怪会議があってだな・・・』


「ええええ!!

 昨日もそう言って直ぐに出ちゃったじゃない!!

 会議なんて何話し合うの!

 酷い!」


涙目になる娘を見た鵺は、驚きに目を見張る。

基本的に、灯が泣くことはほとんどない。

妖怪に意地悪されたときや、誹謗中傷を受けたときすら、灯は泣かなかった。

ただ、彼女が泣く時は一つしかない。

父である鵺に、冷たくされた時だ。


『待て!灯!

 今日は行かない!!

 だから泣くな!!』


泣きそうになりながらそっぽを向いてしまった灯に、鵺は慌てふためく。

おろおろとする鵺に、灯は胡乱げな視線を向ける。

その瞳には、今にも零れそうなほどの涙が溜まっている。


「・・・本当に?」


『あぁ、行かない!

 日は親子水入らずでゆっくり話をしよう!!』


鵺が必死に言うと、灯は花が咲いたような笑顔を鵺に見せた。


「やった!

 今日はいっぱい話そうね、お父さん!」


笑顔を見せた灯に、鵺はほっと息をつく。

鵺はいつだって、娘のこの笑顔に弱いのだ。


鵺は知らない。

娘が、連日会議に出る父を心配していたことなど。

出来るのであれば、少しくらい休んでほしいとも。

その為に、知り合いの妖怪に色々聞いたことなど。

きっと、それを鵺が知る必要はないのだろう。



これがかつて恐れられていた妖怪だなんて、誰が信じるだろうか。


かつて、この地域一帯を恐怖に陥れた、その妖怪。

古くから言い伝えられるほど、人々の記憶に残った。

気まぐれに現れ、気まぐれに何かを成していき。

気まぐれに現れ、気まぐれに全てを壊していく。


しかし、今ではその姿の欠片すらない。

娘は立派なファザコンとなり。

父は完全に娘を溺愛していた。


鵺は、娘が出来て以来、気まぐれで何かを壊すという事を一切しなくなった。

一部の妖怪からは、鵺が不抜けたなどと言われているが当の本人は気にした様子はない。

むしろ今のままがいいとすら、考えている。



「お父さん!

 今日の晩御飯は何にする?」


『そうだな・・・。

 昨日、あめふらしから魚を貰っただろう?

 それでどうだ?』


「それもいいね!

 お父さんの好きな煮魚にしよっと!」


そう言って灯は、鵺の首元に顔を埋める。

太陽の香りと、微かにお香の香りがする。

確か、父が好んでよく焚く白檀の香りだ。

すぅ、と吸い込むと、不思議とリラックスできるその香り。

灯にとっては、父の香りだ。


「お父さん」


『なんだ、灯』


呼べば、どんな時でも返してくれる父。

些細な事でも、何でも話を聞いてくれる、大好きな父。


「・・・だいすき」


灯のその言葉に、鵺は言葉を詰まらせる。

本来であれば、出会う事のない二人。

しかし、縁があって親子として暮らしている。

いまだに、灯の存在を否定する妖怪はいる。

しかし、そんなことは些細な事だと、この一言を聞くたびに鵺は思う。


『・・・吾もだ』


灯は、鵺の言葉に幸せそうに微笑んだ。







彼らを知る妖怪の長は、彼らを見た時に面白そうに零した。


『―――それが、おぬしらの幸せの形なのじゃろう。

  よいではないか、それで幸せだと言うのなら、それも一つのえにしじゃろうて』


そう言って、にんまりと笑うとまた来ると言ってゆうらりと消えるのだ。




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