↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵺の娘  作者: 水無月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/24

第二夜




「灯、今日放課後遊ばない?」

「ごめんね、理々子、放課後は駄目なの…、前もって言ってくれると、多分大丈夫だから!」


 灯は申し訳なさそうに言うと、鞄をもって颯爽と教室を去っていった。彼女の歩いた後には、ほのかに残り香が残る。それを一部男子たちは必死になって嗅ごうとしていた。


「ちょ、男子キモイ!! でもやっぱダメかぁ、今日こそはいけると思ったんだけどなぁ」


 (あずま) 理々子(りりこ)は残念そうに唇を尖らせながら零した。灯と理々子の子のやり取りは、結構な頻度で行われている。本人が言った通り、前もって言えば放課後に遊ぶことはある。

 しかし、当日にいきなりだと彼女は必ず断るのだ。しかも理由が”お父さんが待ってるから”。


 これだけ聞くと、どんだけファザコンなんだと思われるだろう。しかし、灯の凄いところはそれでからかわれたとしても、本人は一切気にしていないところだ。むしろ、嬉々として父の事を話してくる。


 曰く、父は大きくて強い。そしてとても優しい。優しいだけではない、いつも自分の事を気にしてくれている、等など。


 彼女に語らせようものなら、一時間では済まないだろう。ちなみにそれでからかったものは、一時間以上父の自慢話をされたことにより、二度とそれでからかうことはなくなった。


「無理でしょー、最近灯パパ、忙しくてあんまり話せてないって言ってたし」


 理々子にそう言いながらしだれかかるのは、同じクラスの牧村(まきむら) 陽子(ようこ)だ。理々子はショートカットの髪に、適度に日焼けした肌を持つスポーツ系女子だとすれば、陽子は胸元までの髪を緩いおさげにし、儚い系の文学少女、と言ったところだろうか。

 実際はお腹真っ黒である事を知っているクラスメイトは、彼女に夢見る男子に合掌している。


「そうだっけ? あーあ、今日駅前のコンビニに新しいアイス入ったって聞いたからさー。まぁ、でもしょうがないか」


 陽子は、理々子のこのさっぱりとした感じを好んで一緒にいる。他の女子であれば、グチグチと文句を言っていても、理々子はそういったことはしない。無理なら仕方ない、また誘えばいいと考えているからだ。


「そうね、また誘いましょ。理々子、もう行く?」

「行く行く! 待って、準備すぐするから! 他に誰か一緒に行きたい人いるー?」


 理々子がそう声を掛けると、何人かの女子が手をあげる。陽子は、理々子のその性格を知っているので何も言わない。楽しい事は皆で、と地で行く彼女が好きなのだから。










「ただいまー、お父さーん」


 灯の家は、学校から少し離れた山にある。山の麓から階段があり、それを登っていくと昔風の家屋がある。それが鵺と灯の家だ。

 しかし、それは他の人には見えない。妖怪や、力をもつ人間しか見えない様に鵺が細工をしている。


『帰ったのか。お帰り、灯』


 鵺はのそりと体を動かしながら灯を出迎える。何かをしていても、顔を合わせて挨拶をする。それが、二人の間の決め事だからだ。


「ただいま! 今日は会議ないの?」

『…あぁ』


 少し口ごもる鵺に、灯は怪訝そうな表情を浮かべる。そんな二人に、第三者の声がかかった。


『灯、帰ったのか、久々じゃのぅ』

「ぬらりひょんのおじさま!!」


 居間からひょこりと顔を出したのは、二人にとって恩人とも呼ぶべきぬらりひょんだった。


 ぬらりひょんは、この地域一帯の妖怪の長だ。

 掴みどころのない彼は、いつの間にかいて、いつの間にか消えている。灯が赤ん坊だった時に、鵺に色々と助言し手助けしたのは、何を隠そう彼なのだ。


『おおぅ、大きくなったのぅ。どうじゃ、鵺との生活は?』

「おじさま、そう言っているけど先週も会ったよ」

呵々(かか)っ!! これは手厳しいのぉ。なんぞ困った事はないか、泣かされてはおらんか?』


 話だけを聞くと、祖父と孫のような会話だが、ぬらりひょんの相貌は全く年老いていなかった。長い髪は背後の宙に浮き、毛先はゆらりと陽炎のように揺らめいて消えている。

 そして彼はどう見ても、20代から30代ほどの容姿にしか見えなかった。


 初めて鵺がその容姿を見た時、灯を抱き込みながら叫んだものだ。色呆けたかこのジジィ、と。もちろんそんな鵺の頭には、ぬらりひょん手ずからたん瘤を作っていたが。


 妖怪とは、本来の姿はもちろんあるものの、長い年月を生き妖力を持つものは、その姿かたちを変えることが出来る。ぬらりひょんかて、本来の姿はもっと年老いており、後頭部分は人の数倍の長さを持っている。


 そしてぬらりひょんは考えた。人からかけ離れた姿を持っていると、灯が怖がるのではないかと。

もちろん鵺にも同じことを言い、同じように人型になるように言った。

 それを速攻で跳ね除けてくれたが。


 そうして気付けば、灯の前ではその姿になる事が当たり前になってしまっていたのだ。逆に、鵺の容姿を恐れない灯に、自分も最初からそうしていればよかったと後悔したのは秘密だ。


「今日おじさまがここにいるってことは会議はないのね! おじさま晩御飯はどうする?」

『おお、もちろん灯の美味しい飯は頂こう』


 ぬらりひょんがそう返すと、灯は跳ねるように台所へとその姿を消す。そして居間にはぬらりひょんと鵺が残された。


『―――、なぜ来た』

『わしかて灯と一緒に居たいわ』

『だからと言って一週間に二度三度は多いだろう』

『わしも暇でのぅ。それに灯を見ている方が会議をするよりよっぽどええわぃ』

『ジジィ!! ここは吾と灯の住まいだ!! もっと来る回数を減らせ!!』

『黙れ小童!! わしがおらねばろくに育てられんかったくせに何をほざく!!』


わぁわぁ言い合っていると、ひょこりと灯が顔をのぞかせた。


「お父さん?おじさま?何かあった?」



『『何もない』』



 二人の大妖怪は、今までの言い争いが嘘のように大人しく居間でくつろぎ始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。