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アーキテクトの運命

「アーキテクト」――それは空上一家に伝わる、世界のことわりを書き換える禁忌の異能。

万物のルールを定義し、事象を操るその力は、手にした者を「神」と同義の存在へと押し上げる。だが、過ぎたる力は破滅を招く。かつて膨大なルールを記述した祖父が、書き換えた世界の彼方へと消えてしまったように。

「人前では決して使ってはいけないよ」

祖母の言葉を、僕は忠実に守ってきた。

僕の名前は、空上奏一郎。

冴えない容姿、クラスでの孤立。中学から高校までの四年間、僕は「いじめ」という名の地獄にいた。能力を使えば一瞬で彼らを消し去れる。だが、祖父の二の舞になる恐怖が、僕の指先を止めていた。

しかし、高校三年生の春。僕の精神はついに臨界点を迎えた。

「……もう、どうなったっていい」

死ぬのは怖くない。この泥濘ぬかるみのような日常が続くことの方が、よほど恐ろしい。どうせあいつらを殺したところで死刑になるだけだ。

僕は決意した。自分という存在を対価にしてでも、この腐った世界を塗り替えてやると。

「アーキテクト――全人類にランダムな異能力が付与された世界へ、改変リライト!」

その瞬間、視界がどろりと黒く溶け落ちた。

意識が遠のく中、僕は「ああ、やっぱり死ぬのか」と、どこか他人事のように自分の最期を受け入れていた。

……だが。

「……ここ、は?」

まぶたを開けると、見慣れた天井があった。自分の部屋のベッドだ。

失敗したのか。そんな落胆と共にテレビを点けた瞬間、画面には信じられない光景が映し出されていた。

『昨夜、市街地で暴れていた無断能力使用者を撃退したNo.1ヒーローは――』

高層ビルの間を自在に飛び回り、異能を振るうヒーローたち。

成功したのだ。僕は、世界を書き換えることに成功した。

逸る心で学生証や運転免許証など、本人確認をするための物を探して確認する。どうやらこの世界では、身分証に自身の異能力とその詳細が記載されるルールのようだ。そこには、残酷で確かな事実が刻まれていた。

所有異能名:『ルール』

能力詳細:自身に対する制約の付加(世界への干渉不可)

世界を書き換える万能の力「アーキテクト」は消えていた。どうやら元いた世界の自分とこの世界の自分は入れ替わったか、僕が乗っ取っているか、まあつまり、自分だけの力ではもう元の世界には戻れない訳だ。

だが、不思議と後悔はなかった。ネットで調べたところ、この世界には「ヒーロー」という輝かしい職業が存在していたからだ。

ヒーロー免許に合格して戦闘資格を取得し、警察からの出動任務に参加して実績を上げる。さらにはSNSなどのメディア露出で人気を集めれば、国から支払われる給料も上がるという。力と結果が正当に評価される新しい社会。

毎年、国によって発表される「ヒーローランキング」なるものまで存在するらしい。

「自分が望んだ世界だ。楽しむしかないな!」

独りごちて、ヒーローランキングのページをスクロールしていた僕の手が、ピタリと止まった。

国内No.7ヒーロー

空上 輝彦――

そこにあったのは、かつて別の世界で消えたはずの、僕の祖父の名前だった。

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