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「失礼します」
部屋の中では大量の段ボールがあった。
「久しぶりだな、どうした?」
「あのフライングのレースでお話が…」
「申し訳ないね、今忙しくて」
「異動ですか?」
「本部に異動だよ、ありがとう」
岡本さんはそう言いながら握手を求めてくる。
「あのレースは君のミス、仕方ないよ」
「う~ん…」
「舟券は返還になり、お客様は損をしていない。あのレースの売上は減ったが、1日の売上を考えると、他の日より多く、損というレベルではない」
「どういうことですか?」
「君にも多くの仕事オファーがあった、誰も損をしていない」
「だから分からないんですよ」
「何が?」
「自分が動画を加工してまでフライングにさせられた理由が」
岡本さんは手を止めこっちを向いた。
「誰も損をせず、1ヶ月過ぎた。もういいだろう」
「自分は1つのレースも諦めたくないんですよ」
段ボールを組み立てながら岡本さんは話す。
「そろそろ退室いいかな?」
「自分を応援してくれている人にとっても、まだあのレースは続いています。失礼しました。」
敗北の退室だ。
間違いなく決定打に欠けていた。
見えているゴールがあるにも関わらず、ボールを見失っているようなもどかしさ。
きっと岡本さんは何かを知っている。




