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11_エピローグ(1)

 ──年が明けたその日、デルクセン王国の王城にある大広間はきらびやかな雰囲気に包まれていた。


 新年を祝うパーティーが開催されるとあって、大広間にはこの国に名を連ねる貴族たちが大勢集っている。


 わたしはこれまでの人生で着たことのないほどのきれいなドレスとかかとの高い靴に苦戦しながら、慎重に歩いていた。


 ドレスは夜空を思わせる深い青色で、星を散りばめたような宝石が無数にきらめいている。


「──おい、転ぶなよ」


 わたしの隣を歩くエバンが言う。


 ぶっきらぼうな言い方だが、わたしをエスコートしながらも心配げにこちらを見ている。


「……だ、大丈夫」


 全然大丈夫ではなかったが、わたしはそう答える。


 一度でも転べば、心配したエバンによってすぐさまこの場から連れ出されてしまうのは容易に想像できた。


 わたしは足元に注意しながらも、ちらりとエバンに目を向ける。


 本人は着るものにはあまり執着がないようで、普段は白いシャツと黒いローブを羽織っている姿しか見たことはないが、こうしてきちんとした礼装に身を包めばとてもさまになる。


 先ほどから、周りの若い令嬢たちがちらちらとエバンに熱い視線を向けているのだが、本人はまったく気づいていないようだ。


 わたしの父や義母、義姉のウィルクス伯爵家と教会の司祭、元魔塔の管理人などが起こしたあの出来事のあと、エバンは順調に魔力を回復させ、いまでは以前と同じくらいの魔力量に戻っていた。


 それを見届けたあとで、白髭のご老人である魔塔のあるじは引退を宣言し、正式にエバンにその立場を譲った。


『わしに恩があるんじゃろう? ならば、王城で開かれる新年のパーティーに参加しといてくれ』


 と有無を言わさず強制してきたのは、ついこの間のことだ。


「こんな面倒事まで押しつけられるとは思わなかった……」


 エバンは、ふてくされるようにもんくを言っている。


 そのとき、向こう側がざわざわと騒がしくなる。


 顔を向ければ、大勢の人がさっと脇に寄り、その開けた道をひとりの幼い少女が背後に護衛を連れて、優雅に歩いてくる姿が見えた。


「──シャーロット第四王女殿下だ」


「──シャーロット王女殿下よ」


 周りの人々は遠巻きにざわめき、その少女に釘づけになっている。


(──第四王女?)


 思わずわたしも、そちらを注視する。


 少女の着ているドレスや身につけている宝飾品はまぶしいほどきらびやかだったが、それ以上に王女と言われるだけあって、本人にとても華があった。


 くせのあるプラチナブロンドの髪の毛に、淡いピンクローズの瞳──。


 ふと、どこかで見たような気がした。


 わたしが首を傾げていると、


「──やあ、また会ったな」


 突然、声をかけられる。


 驚いて顔を上げると、目の前に王女が立っていた。


(また、会った……?)


 わたしは無礼にもかかわらず、無意識に少女の顔をじっと見つめてしまう。


 少女はいたずらっ子のように、にやっと笑い、


「馬車に()かれそうになったとき、助けてくれたじゃないか」


「──あっ!」


 その一言で、わたしは思い出す。


 教会からの帰り道、馬車に轢かれそうになった少女が迷子だと知り、滞在しているホテルまで送り届けたことがあった。


 少女の振る舞いや話し方などからどこかの貴族令嬢だろうとは思ったが、まさかこの国の王女だったとは──。


 予想外のことに、わたしは驚いて立ち尽くす。


 すると、王女はすっと指先を頭上に掲げ、弧を描くようにその手を右から左へとゆっくりと動かした。


 と同時に、先ほどまで聞こえていた人々の談笑や足音、楽器を演奏する音などが消え失せ、急にあたりがしんとする。


「少しだけ防音の魔術をかけさせてもらった。周りの者には、当たり障りのない世間話をしているように見えるはずだ」


 王女は、にっと笑う。


 どうやら王女はまだ幼いにもかかわらず、魔術が使えるらしい。



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