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09_エバン(5)

 俺は数日かけてようやく魔塔にたどり着いたものの、わずかな魔力しかない状態では魔塔に漂う魔力に当てられてしまい、意識を保つのもやっとの状態になる。


「これは、これは、かわいいニャンコのお出ましじゃ」


 ぐったりとソファに横たわる俺を見下ろし、じじいは言った。


 俺が猫ではないことはわかっているはずなのに、からかう意図があるのは明白だった。


『うるさい、じじい……』


 俺は過去と同じく減らず口を叩く。


 実際声にはならないが、それでもじじいには聞こえたはずだ。


 しかし、じじいは気にもかけない様子で、


「はて、そういう呼び方をされるのは、はじめてじゃな」


 俺は舌打ちをしてから、よろよろと体を起こす。


 なんとかじじいに状況を説明して、断られるのを承知で協力を仰いだ。


 断られたときの脅し文句はいろいろ考えていたが、予想に反して、じじいは俺の言うことを信じてくれた。


「お前さんの器を見ればわかる。いまはわずかな魔力しかなくとも、魔塔のあるじたる資質がある。時間を巻き戻すなど無茶をしおって……。時間が巻き戻る前のお前さんを魔塔に連れてきたわしは、相当な苦労を強いられておったようじゃ……」


 そう言って、深いため息とともに嘆いていたのは無視した。


 その後、限界に達してしまった俺は猫の姿を保てなくなり、回復を余儀なくされた。


 数日後、なんとか猫の姿を取り戻すと、過去に作った疲労回復効果のあるお菓子を応用したものを作り、同時に自分と相性のよい風を取り込むことで、体内にある魔力を自力で回復させていった。


 過去の魔力量に比べれば微々たるものだが、ある程度体内に魔力がある状態になれば、あとは勝手に魔力が体内を巡ってもとの量に戻そうと増えていくはずだ。


 そして、俺はウィルクス伯爵家のことも調べはじめた。


 ステアの魔力を奪うだけでなく、不正や横領、自領にあるいくつかの教会と癒着して数々の悪事を働いている事実を突き止めると、その証拠とともになかば脅しとも取れる内容の文書を王家に送りつけた。


 気づけば、魔塔に来て二十日以上が経っていた。


「──エバン、魔塔のあるじをお前に譲る」


 唐突に、じじいが言った。


 どうやら、老いぼれなりにいろいろと考えることがあったようで、揺るがない決意が見てとれた。


 過去の俺と違い、いまの俺は魔塔に所属する魔術師ではない。


 でも過去の経験のおかげで、魔力を制御するすべは身についている。魔力が暴走する危険は限りなく低く、魔塔に入る必要性はあまり感じない。


 それに、魔塔に所属してしまえば、またステアのそばを離れることになる。


 それだけは絶対に避けなければならない。


 しかし、魔塔のあるじであれば、少なくともステアとの縁を切る必要はない。


 俺は少しだけ考えてから、


『──ああ、いいぜ。じじいもそろそろ引退を考える時期だもんな』


 魔塔のあるじには興味はみじんもないが、過去に続いて、またもじじいが俺に譲ろうとするくらいだ。断ることはできないと感じた。




 その後、ようやく最低限の魔力を回復させた俺は、じじいの火の魔術で作られた火の輪をくぐり抜け、ウィルクス伯爵家に戻った。


 予想していたよりも、大幅に時間を取られてしまった。


『なるべく早いうちに、その少女を魔塔に連れて来ることじゃ、身の安全を確保したほうがよかろう』


 炎をまとう鳥が、じじいの声でしゃべる。


『言われなくてもわかってる、また連絡する──』


 俺は眉間にしわを寄せて答える。


 火の鳥は瞬時にぼっと燃え上がり、消え去る。


 俺は、すぐに屋敷に向かって走り出した。


 ステアのことが心配だった。早く顔を見て安心したい。


 しかし、屋根裏部屋にステアはいなかった。


 屋敷中、庭園や裏庭も探すが、どこにもいなかった。


 その上、当主である伯爵や義母、義姉の全員が出払っているようだった。


 ──いやな予感がした。


 ふと、厩舎の脇にいる御者らしき若い男とベレー帽を目深に被った出入り商人らしき男が話をしている姿が目に入る。


 そっと近づくと、


「──馬車は首都の街道を抜けたあと、東へ向かった。行き先は、いつものあの教会の可能性が高い。もしそうなら、到着している頃だろう」


 ベレー帽の男が周囲を警戒しながら、声を落として言う。


 若い御者は眉をひそめて、


「──教会へ? おかしいな、教会へ行くなら俺に言いつけるはずなのに。それに、あの男だけでなく、妻も義姉もまた一緒に教会へ行くとは思えないが──」


 そこで表情をより険しくさせ、


「……そういえば、今朝からお嬢さまの姿も見えないんだ。胸騒ぎがする。俺はひと足先に馬で教会へ向かう。お前は、男爵家にいる数名の騎士を目立たないように教会へ向かわせてほしいと、奥さまに伝えてくれ。何事もなければそれでいい。でも万が一に備えて、人手をそろえておきたい」


「──わかった」


 ベレー帽の男が頷き、足早に伯爵家の裏門から出ていく。


 若い御者は、厩舎から手頃な馬に鞍をのせ、すぐさま駆け出す。


(……男爵家? ……奥さま?)


 御者が言った言葉が気になったが、それよりも優先すべきはステアの行方だった。


(伯爵家のあの三人が教会へ……?)


 いやな予感は、ますます大きくなる。


 俺はなんとか回復したばかりの魔力を使って風を起こし、村の教会へと向かった。


 そうして駆けつけた俺の目に飛び込んできたのは、過去と同じく、またもやステアの魔力が奪い取られそうになっている光景だった。


 俺は、魔術師らしい白いローブの男目がけて体当たりし、爪を立てて飛びついてやる。


 しかし、すぐにつかまれ、石の壁に叩きつけられる。


 ここに来るために魔力を使ってしまったせいで、小さな猫の体ではすぐには起き上がれない。


 それでも、残りの魔力で風を起こそうとしたとき──。


 まばゆい光が地下を覆った。


 光がおさまると、体の中の魔力が格段に増えているのを感じる。


 ふと見ると、猫ではなく、人間の体に戻っていた──。



次からステア視点に戻ります。


そして、残り3話で完結です!


ここまでご覧くださり、ブクマやポイント、いいねなどで応援いただき、本当にありがとうございます(*´▽`*)

また、誤字脱字報告も本当にありがとうございます!

引き続き、完結までどうぞよろしくお願いいたします。


「面白かった!」「続き読みたい!」「応援しようかな!」など思っていただけましたら、ブックマークや、下にある☆ボタンを押していただけると、とてもよろこびます!


よろしければ、よろしくお願いいたします(*ˊᵕˋ*)

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