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28. 頼もしい味方

「とりあえず、レイ君を灯夜祭に誘いましょ。アルマちゃんがまずすべきは、それよ!」

「え。えええ!?」


 アルマの話を聞き終えた後、ほぼ間髪入れずに、ルイスの口からそんな提案が飛び出した。おそらく、アルマがのろのろと話している間から考えていたのだろう。ルイスは少女のように顔を輝かせて言う。


「聞いたことない? アルマちゃんくらいのの間だと、絶対百回や二百回は話題にすると思うんだけどなぁ」


 アルマは一瞬、言葉に詰まった。同年代の友達なんて一人もいない――なんてことは、言いづらく。


「し、知ってますよ。もちろん。でも……」


 挑むように飛び出た言葉は、しかしすぐに萎んだ。


 灯夜祭は、十二月の中旬に行われる王都の祭りだ。この日は街中がランタンで飾り付けられ、夜にはその全てに火が灯される。空の上におわす神様が一年に一度だけ地上に帰還する日を祝うというもので、灯火は目印のために焚かれる。

 時期的にはクリスマスなのだが、アルマはこの話を聞いた時、お盆みたいだなと正直思った。


 そしてなぜ灯夜祭で女の子が騒ぎ出すのかというと、単に一大イベントだからという理由ももちろんあるのだが、この手の話にありがちな恋のジンクスというものがあるからだ。

 それは、祭りの夜にキスされると、その人と永遠に幸せになれるというもの。キスなら唇でも手の甲でもどこでもいいらしい。

 元々は礼拝で神像の足の甲に口づけする習慣があり、そこから女の子の間で恋愛のジンクスへと発展したようだ。なんでもかんでも恋愛と結び付ける、年頃の女子らしい発想の転換である。


 ルイスが言っているのは間違いなくその話。しかしそこには、彼女の知らない情報が隠されている。


(確かゲームだと、ヒロインが告白されるイベントじゃなかったっけ)


 半年間で最も好感度が高く、かつ条件を満たした対象者から告白されるのが、灯夜祭のイベントだ。ちなみに条件を満たしていれば複数人からの告白イベントが自動的に起きるので、ユーザーの間ではベルトコンベア、略して「ベルコン彼氏」とか「納期」とか呼ばれていた。やたら事務的に見えるということだろうけれど、なんとも風情がない。それもこれも、深く考えずとも高感度が溜まっていくキャラクターが複数人いるせいだ。セドリック王子もその一人だったんだけど……と、アルマはそこで考えるのをやめた。ドツボに嵌りそうだ。

 ともかく、そのイベントで告白を受け入れればキスする、受け入れなければしない、という流れだった。


 だけどそれはゲームの話。もっと言えば、ヒロインとヒーローの話。

 自分はヒロインのガワを被ってるだけの偽物だし、レイは攻略対象者ではない。イベントなんて起きないはずだ。

 なのに、なんでこんな時に灯夜祭の話題が出てくるのか、アルマは疑問でならなかった。

 ルイスは相変わらずニコニコ、いや、ニヤニヤしている。


「ライバルが出てきた今だからこそ、ここが勝負時でしょ。誘ってオッケー貰えたら、それだけでシャーリーズって子より一歩リードよ。大丈夫、私の見立てじゃあまずレイ君は断らないわ! むしろ喜ぶわよ」

「えええ……? そうかなぁ……」

「大丈夫だってば。お姉さんの目を信じなさい!」


 ルイスはとん、と胸を叩く。彼女を信じないわけではなかったが、圧倒的な自信の無さがアルマの決断を鈍らせていた。

 それに。


「灯夜祭に誘って、私は何をすればいいんですか……?」


 うろたえ気味にそう問えば、ルイスはびっくりしたように目を見開いて、


「何をって、決まってるじゃない。ジンクス。レイ君にキスされればいいのよ」

「ええええ!? ムリムリムリ、無理です!」

「どうして?」

「いやっ、それこそ決まってるじゃないですかっ! だって、そんな、私からするならともかく――」


 って、何を言ってるんだ、自分は。自分からキスするのだって難易度は高い。される難しさと大差ない。ハードを超えたナイトメア級だ。


「だから、誘うのよ。思わずキスしたくなるような台詞とか、仕草とかで」

「あわわわわ」


 アルマは顔を真っ赤にして耳を塞いだ。レイとキスなんて、想像しただけで心臓が爆発しそうになる。


「絶対、ムリです……!」

「うーん。余裕で行けると思うんだけどなぁ」


 瞳を潤ませ、全霊で訴えかけるアルマに、ルイスは腕を組んで悩ましげに唸った。

 アルマからすれば、なぜそんなに確信を持てるのか不思議だ。つい最近初恋を自覚したばかりのアルマに、男性を誘惑するなんてできるわけがない。しかも、相手はレイである。たとえアルマが誘惑の術を心得たとして、簡単に転がせるとは思えない。むしろ、白けた目を向けられる様がありありと想像できる。冗談と思われるのがオチだ。


「まあ、アルマちゃんがムリというなら仕方がないわねぇ」


 分かってくれたようだ。

 アルマはほっと胸を撫で下ろす。


「でも、灯夜祭には誘うだけ誘ってみない? レイ君、喜ぶと思うのよ。アルマちゃんだって、お祭りの日には一緒にいたいと思うでしょ?」

「う」


 さすがルイス。ここぞという所を突いてくる。

 そりゃあ、アルマだってレイと一日を過ごしたい。祭りの日でなくたって、いつもそう思っている。会えない時間はとても辛くて、長く感じる。会えない時間が永遠に続くわけじゃないと分かっているから、耐えられるのだ――今は。


(あと一年もしたら、レイ様は王都からいなくなる。二度と会えなくなる。そしたら、私のことも忘れてしまうかも)


 不思議なことに、二度と会えないことよりも、忘れられるかもしれないと考える方が怖かった。レイの心に自分の思い出が欠片も残らないのは、嫌すぎる。せめて、私が居たということだけは覚えていてほしい。

 灯夜祭は絶好の機会だ。ジンクス云々は抜きにして、ここを外すと一生後悔が付き纏う気がする。


「やります。私、誘ってみます。灯夜祭」


 アルマは、みぞおちの辺りでぐっと拳を握った。

 不安はある。けれど、声に出して宣言すると出来る気がしてくる。

 勇気は後から付いてくる。いつだって自分の味方なんだ。背中を支えてくれる勇気に感謝した。


「そうそう、その意気よ! 頑張ってね、アルマちゃん!」

「はい!」


 もちろんルイスも。

 こんなにも頼もしい味方がいる。そう思うと、一層励みになる。何が何でも、勝ちを得なければならない。それが、せめてものルイスへの恩返しだ。


 ――そんな風に意気込んでから数日後、アパルトマンを訪れたレイからあっさりと了承の返事を貰ったアルマは喜びのあまり踊りだしてしまい、その様子をこっそり見ていたルイスにからかわれるのだった。

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