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20. そういう風にできている

 十秒ほどそうしていただろうか。

 突然、アルマが両腕で突き飛ばすように離れ、レイの手から黒髪がするりと零れ落ちた。


「ごごごごめんなさいっ! いきなり!」


 茹でダコかというくらい、アルマの顔が真っ赤になっていた。

 レイはぬくもりがなくなって若干喪失感を覚え、わきわきと右手を握ったり開いたりした。数秒後、何事もなかったかのように平然と会話に臨む。


「いや、いいけど。なんか、大丈夫か? 切羽詰まってる様子だが。何か、あった?」

「え、えと……。……いえ。大丈夫、です」


 そう言って、アルマはレイから視線を逸らす。レイは、じっとアルマを見下ろした。目を合わせたら負けの勝負でもしているかのように、アルマは頑として動かない。しかし、その頬がぴくぴくと引き攣っているのを、レイは見逃さなかった。これで本当に「大丈夫」なのだとしたら、明日笑顔で登校してもいい。


「大丈夫じゃない、よな?」

「…………」

「中でゆっくり聞かせてもらおうか」

「…………」


 アルマは深く溜息を吐いて――溜息を吐きたいのはこっちの方だ――渋々頷いたのだった。




 部屋に入ると、レイはつい無意識に中を見回した。

 アルマの部屋には前に一度入ったことがあるが、あの時は状況が状況なだけに、じっくり見るわけに行かなかった。玄関脇に置かれた棚と、不自然に盛り上がったベッドがあったことだけはよく覚えているが、そのベッドは今はどこかへ追いやられ、代わりにソファが鎮座している。訪問客から見える位置にベッドを置くのはどうかと思っていたので、この配置換えにはホッとする。


 左手の壁に、窓が二つ。レースとジャガード織りのカーテンが二重にぶら下がっていて、後者は端にまとめられ、チュールレースのカーテンが光を透かしている。夏になれば、この部屋はいい風が入りそうだ。


 平和で穏やかな光景を見ていると、ふと、婦女子の部屋に力づくで押しかけたような錯覚に陥りかけて、レイはうっと小さく呻いた。

 錯覚、のはずだ。そうに、違いない。

 半ばその通りであるという現実から目を逸らすと、窓と壁の隅っこに収まるようにして鎮座する書斎机が目に入った。

 その手前の床には、机と同じ材質の椅子がごろんと転がっており、先程の騒音の一つはこれが原因だろうと察することができる。

 机の上には、真っ白な上質の紙が何枚も重ねて置かれてあった。レイはなんだろうと思ったが、ガンっとテーブルに足をぶつける音で考えを遮られる。振り返ると、蹲って涙を浮かべるアルマと目が合った。


「いっ、今、お茶を淹れますので。おお、お構いなくっ」

「……それはこっちの台詞じゃねぇかな」


 しかしアルマには聞こえなかったようで、ズレたテーブルを騒々しく元に戻すと、部屋の隅にある小さな調理スペースへあわあわしながら向かっていく。手際よく焜炉コンロに火を点け、飲料用の水を入れたケトルを上に乗せる。戸棚を開けて茶葉を吟味する真剣な顔に大丈夫かなと不安な眼差しをくれたあと、レイはなんとなく窓の外へ目を向けた。


 ちょうどその折、窓の外では強い風が吹き荒れた。

 開いていたらしい窓から悪戯な突風が舞い込んできて、カーテンがぶわっと大きく煽られる。


 バサバサバサッ!


 あっという間だった。

 机の上に置かれていた紙束が、花びらのように部屋中を舞う。そのうちの何枚かがレイの近くに飛んできたので、彼は反射的にそれらを掴んだ。


「なんだこれ。レポートか何かか?」


 呟いた瞬間、アルマがばっと振り返る。


「なになに? サンチェスト広場の壁画群。夕焼けに染まり、ひまわりが燃え立つ――」

「ぎゃあああああああああ!!」


 右耳から左耳を貫く壮絶な悲鳴に、一瞬意識が飛びかける。その隙にアルマはレイのもとへ走ってくるとその手から紙をひったくり、同じ速さで一番遠くの壁際に張り付いた。それはもう物凄い形相で。

 レイは反応できなかった動きに唖然とし、空になった掌をしばらく見つめていた。

 アルマはソファの影に隠れ、警戒の眼差しでこちらを凝視している。その胸には先程の紙が抱くように押し付けられている。既にぐしゃぐしゃの皺まみれだ。


「――詩か?」

「ちっ違います! 単なる記録です!」

「記録?」


 ちらっと見えたのは、そんなものではなかったように思うが。しかし誤解されるのが余程嫌なのか、アルマは必死になって説明する。


「き、綺麗だなとか、いいなと思ったものを、なるべく見たまま感じたまま、記録しておくんです! そうすれば、後から思い出す時、便利です!」

「便利……か?」


 正直、あまり理解できない。が、絵の好きな人間がスケッチをするようなものだろうかと想像して、少しだけ納得する。意外と言えば意外だったが、アルマも楽しいと思えるものを持っていたのだと分かって、レイはちょっと安心したのだった。


「変わった趣味だな。でも――」


 ふと、途中で言葉を切る。階段をドタドタと駆け上る、二つの足音が聞こえたせいだった。足音はあっという間に二階に辿り着き、そのまま通り過ぎるのかと思いきや――。


「野盗はここかーっ!!」

「大丈夫!? アルマちゃん! 助けに来たわよ!」


 部屋のドアを勝手に開き、見知らぬ男女が凄い剣幕で現れた。それぞれ手にモップと麺棒を武器のように構え、どこからどう見ても臨戦態勢だった。


「ル、ルイスさん……に、ユアンさん?」


 レイとアルマは、揃って彼らが現れた入り口に顔を向ける。ルイスはソファの影に身を潜めているアルマを見つけて、すぐさまそちらへすっ飛んでいった。そのままアルマの首をぎゅうっと掻き抱き、涙混じりに叫ぶ。


「ああーん、よかったぁ! もう大丈夫だからね~! アルマちゃんの悲鳴を聞いて、とにかく武器持って走ってきたのよぉ! ちょうどロールパンを成形してるところだったから」

「武器……」


 アルマはルイスの右手に握られている調理道具を見て呟いた。確かに、主婦の生活のお供はある意味武器と言えなくもない。

 でも、違うのだ。ルイスの根本的な勘違いに気付いたアルマは、慌てて夫婦に訴える。


「あ、あの、待ってください。レイ様はそんなんじゃなくて」

「この夜盗め! こんな真っ昼間からうら若き女性の部屋に侵入するなんて、許せない!」


 アルマの言葉を遮り、というか全く聞いていない様子で、ユアンが鼻息荒く、レイに向かってモップの先端を突きつける。


「しかもその制服、王立サントレナ学園の子じゃないか! ぐぬぬ……、なんたる不埒! なんたる不良! こうなったらパウアーの編集者たるこのボクの権限で、告発記事を書き殴ってやるー! ペンは剣よりも強し! 言葉の暴力だ!」


 唾を飛ばして怒鳴るユアンを、レイはぽりぽりと頬を掻きつつ眺めていた。

 彼らが何やら勘違いをしているらしいことは、すぐに分かった。部屋に飛び込んできたのは、アルマを心配したがゆえの行動だとも。そのため、何を言われても怒りや苛立ちは沸いてこない。ただ、自分が説明するより、アルマか男の連れに言ってもらった方がいいだろうな、と軽く考えただけだった。


 侵入者の片割れ、ルイスは、様子が思っていたのと違うことを察したようで、気まずい表情でレイとユアンの顔を見比べた。その袖をアルマがちょいちょいと引っ張って、控えめに口を開く。


「レイ様は、その、お友達で……。いつもお世話になってて……」

「どうやらそうみたいねぇ。ごめんなさい。私たちの早とちりだったわ」


 その一方で。


「……いいから、早くこの人を何とかしてくれ」


 レイは、ぶんぶんと繰り出されるモップ攻撃を躱しながら、げんなりとした顔でぼやくのだった。



 ***



「はあ!? 通り魔に襲われたぁ!?」


 昨日起きた事件のことを話すと、案の定レイは大層驚いた。

 アルマはソファに浅く腰掛けて縮こまっている。その隣に座り、優しく肩を抱くルイス。レイはテーブルを挟んだ対面に、書斎机用の椅子を持ってきて座っており、残るユアンはと言えば、窓の方を向いて――つまりレイたちに背を向けて、何やら床に胡座をかいている。誤解が解けると静かになってしまったので、とりあえずユアンのことは放置することにした。


「犯人は?」

「昨日の内に逮捕されたわ。アルマちゃんにはこの通り、傷一つないわよ」


 ルイスはアルマを安心させるようにニッコリと微笑み、頭を撫でた。アルマは口をムズムズさせ、ちょっと恥ずかしそうにする。愛情を示されることに慣れていないのだ。小さい頃はことあるごとに「アルマお嬢様はお可愛い方でいらっしゃいますね」などと言われていたが、それを真に受けた結果、大きな間違いを犯してしまった。だから、ルイスがこうして可愛がってくれるのを素直に受け入れていいものか、まだためらいがある。とは言え情を向けてくれるのはやっぱり嬉しくて、慣れない愛情におずおずと身を任せていた。


 レイは何とも言えない顔でアルマを見ている。本当に、何とも言えないとしか言いようのない顔である。


「大丈夫だったのか?」


 気遣ってくれているのだろう。でもその思いは、ルイスから感じるのとは少し違う。そんな気がする。どこが違う、とははっきり言えないまま、アルマは困惑の表情で答える。


「はい。すぐにルイスさんたちが助けてくれたから、どこも怪我なんて――」

「そっちじゃない。知らねぇヤツに敵意を向けられたんだろ。それで平気なのかって聞いてるんだ」


 そう問われた瞬間、アルマの顔が強張った。

 平気なわけがなかった。あんな怖い思いをしたは初めてだった。詰られたり怒鳴られたり、母親の平手打ちだったりとは違う、芯から震え上がるような体験だった。男に掴まれた感触や声は、薄い膜がかかったように朧気だ。しかし、昨夜齎された恐怖だけは、骨の髄まで染みて忘れようがない。

 レイは、俯いてしまったアルマに悔しげに目元を歪め、絞り出すように言った。


「……悪い。馬鹿なこと聞いた」


 後悔の言葉に、アルマは思わずふふっと笑みを零す。レイとルイスが、驚いた顔で彼女を見つめた。


「もう大丈夫ですよ。だって――心配してくれて、嬉しい」


 アルマはレイを見、それからルイスを見る。彼らは気付いていないだろうか。彼らの存在がどんなにアルマの力になっているか。

 確かに昨夜の事件は怖かったけれど、支えてくれた腕を忘れたわけじゃない。震えて休めない彼女を心配して、ルイスは一晩中一緒にいてくれた。レイは、事件のことを知らせたわけじゃないのに来てくれた――たとえ気まぐれだとしても構わない。心のなかで思うだけなら、この偶然を運命と呼んだって許されるだろう。

 怖い思いをした。だけど自分を心配してくれる人たちがいる。それが何よりも嬉しい。

 しかも、片方は生まれて初めて恋した人だ。実はさっき声を聞いた時から心臓がはしゃぎっ放しで、顔の熱さやらぎこちない視線やら、色々とボロが出ていないかとアルマは心配でならない。結論から言えば、そんな心配はするだけ無駄といったところだった。


「心配するに決まってるだろ。そんなことで喜ぶな。次似たようなことがあったら、迷わず魔術を使って反撃しろ。殺すつもりでな」

「む、無茶ですよ。そんな、物騒な」

「大丈夫大丈夫、即死級の技じゃなけりゃ死にゃあせん。それに、お前みたいなひ弱そうな小娘に魔術で反撃されたとなれば、大抵はビビって逃げるって」

「逆上されたらどうするんですかっ。あと、小娘は余計ですけど、私はひ弱そう(・・)じゃなくてひ弱なんです! 無理です!」


 拳を握って力説する。騎士志望のレイと心構えを一緒にされたら、たまったものじゃない。アルマには、"大抵はビビる"と"大抵は逆上する"の違いが分からなかった。魔術を使える人間は少ないが、不意打ち程度なら小石をぶつけるのとなんら変わらないのだ。


「うーん、そうか? そっかぁ……」


 でも、もし同じことがあったら試してみよう。試さざるを得ない。身を守るためなら。そんなことを頭の冷静な部分で考えていると、レイが一人で納得したような声を出した。


「うん。そうだな。じゃあ、兄貴に頼んで衛兵の数を増やしてもらうか」

「え?」


 アルマとルイスは、二人揃ってぎょっとした。アルマは明後日の方角から返ってきた反応に。ルイスは目の前の少年が上流階級の人間だと察して。

 レイは至極真剣な表情をしている。冗談の類ではないと察したアルマは慌てた。しかし、彼女が遠慮すると鋭く察したレイにより制止される。彼はさっと手を一振りするだけで、魔術を使った時みたいにアルマの口を噤ませた。


「それはともかくとして、だ」


 レイがその長い足を組みかえ、群青色の瞳でアルマを見据えた。彼の目つきは鋭いため、凄んでいるようにも見える。実際、今の彼は目に真剣な光を宿している。剣呑とはまた違うが、これから口にすることが冗談の類でないことは一目瞭然だった。


「このこと、家には連絡したのか? 繋がりはまだあるんだろ?」


 ――やはり、聞かれるか。

 レイは以前と現在のアルマ・ヘンレッティを知る、数少ない――いや、唯一の人物である。月に一度、アルマの下には父の秘書官が様子を見に訪れる。彼はアルマに対して限りなく事務的だ。非難めいたことは口にしないものの、必要以上に関わろうともしない。父や弟とは、書簡でのやり取りすらない。

 レイだけなのだ。アルマの胸の内を、すっかりとは言わないまでも察することができるのは。

 そのレイに聞かれたら、素直に答えないわけに行かなかった。


「……してないです。これ以上、心配や迷惑をかけたくないから」


 アルマは、なるべく感情を抑えた声で答えた。その様子に、事情は知らなくても何かを感じ取ったのか、隣に座るルイスが膝に乗せた拳にそっと手を重ねる。


「じゃ、やっぱり巡回の件は頼んでおこう。心配だからな」

「良かったじゃない、アルマちゃん。頼りになる人がいて」

「オレは何も」


 ルイスの茶化すような言葉に、レイは苦笑しながら頭を振る。アルマはルイスの言葉の裏にある意図に気付いてドキリとしたが、なんとか平静を保つと大きく頷いた。


「オレ、今日はもう帰るわ」

「えっ」


 立ち上がったレイを、アルマはテーブルに身を乗り出す勢いで見上げた。


「も、もう!?」

「うん。善は急げって言うしな。さっさと兄貴見つけて、さっきのこと頼んでみる」

「でも、何か用事があって来たのではっ」

「いや? アルマの顔が見たかっただけ。特に用はないよ」

「え……」


 どくんっと、心臓がとびきり高く跳ね上がる。目の前がぐらりと揺れる。血管中の血が恐ろしいくらい沸騰し、全身がかっかと熱くなった。

 え? え? 今、なんて?

 口説き文句にしても、単にからかっただけにしても、レイはあまりにも平常運転で、今しがた聞いたのは幻聴だったのかと思えてくる。


「ルイス殿――とユアン殿。アルマのこと、よろしく頼む」

「ええ、ええ! それはもう!」


 ユアンは相変わらず床に座りこんで何をやっているのか分からないが、夫の分もルイスが張り切って頷いていた。

 アルマは動揺したまま、ルイスに引っ張られる形で玄関まで見送りに出て、彼の姿が階下に消えるのを呆然と眺めた。いつもと同じ明朗な笑顔で「じゃあな」と言われた時も、ぎこちなく首を動かすばかりで。

 そんなアルマを、ルイスがにやにやと振り返って、


「あらあら、真っ赤になっちゃって。アルマちゃんったら、初心ねぇ」

「まっか?」

「そりゃあもう。薔薇のように愛らしいわ」


 アルマは「うっ」と言葉に詰まる。「可愛い」とか「愛らしい」とかの褒め言葉は、たとえお世辞でも言われると恥ずかしい。

 ルイスはなおも攻撃の手を休めない。


「アルマちゃんが急に可愛くなったのは、彼氏のおかげだったのね~」

「レイ様はそんなんじゃ……!」

「でもアルマちゃんはあの子のことが好きなんでしょ?」

「うぅっ」


 違うと言えない。なぜなら、全くもってルイスの言う通りだから。前髪を切ったのも、ルイスに話しかける勇気を出せたのも、レイが好きだから。自分の気持ちに気付かなかった頃から、アルマの世界の中心はレイだったのだ。

 掌で顔を覆ってしまったアルマを、ルイスはやんわりと抱きしめた。トントンと、優しく肩を叩く。


「大丈夫よ。すべて上手く行くわ。世の中ね、そういう風にできてるの」


 嘘だ。そんなわけない。そうだったらどんなにかいいのにって思うけれど、この世には不幸な人がたくさんいる。そういった人たちに比べたら、自分は確かに幸せだろう。


「だから自信を持って」

「……はい」


 すべて上手く行く――そうだったら、いいな。そんな思いを込めて、アルマはこくんと頷いた。


「――うぅむ。こういう記事も、片隅に載せる分としてはいいな。うん。有りだ」


 しばらくぶりに聞いた声に、アルマとルイスははたと彼の存在を思い出した。すなわち、ルイスと共に乗り込んできたユアン・ハーディの存在を。

 記事? ……読み物?

 アルマはなんとなく嫌な予感を覚え、おそるおそる部屋の中を振り返った。その不安は的中することになる。


 ――いる。読んでいる。アルマの趣味の産物を!


「あ、ああ、ああああ」


 愕然とした面持ちで戦慄くアルマ。

 そう言えば、部屋中に散らばったままだった。作業中に突然レイが訪ねてきたので、慌てるあまりペーパーウェイトを置き忘れたことが原因だ。そもそもこんな季節に窓を開け放っていたのが、間違いの始まりだったのだが。


「あああああのユユ、ユアンさん」

「ん? ああ、ごめんね。文字があるとつい目で追っちゃうたちでさ。職業病だね」


 ごめんねと言いつつ、ちっとも悪いと思っていない顔で、ユアンは手にした紙をひらひらとそよがせる。


 アルマの目は小刻みに揺れ、彼の周囲に円陣を描く紙たちを捉えていた。それらは、アルマが普段の狭い行動範囲内で見た景色や感じたことを、つらつらと書き殴っただけの代物だ。書体やレトリックの練習も兼ねている。人に見せることなんて端から想定していない。

 それを読んだ? 勝手に!

 死んだような顔になっているアルマや、夫の仕出かしを正視できないといった様相のルイスに気付かず、ユアンは顎を擦りながらブツブツ続ける。


「こういう毒にも薬にもならないテーマってさ、販売には大きく影響しないんだけど、シリーズ化するとファンがついたりするんだよ。テーマにお似合いの地味なファンがさ。得にはならないけど大損もないってとこ。場所もそんなに取らないし、大きな事件が起きた時なんか潰して更地にできるし、うまくすればお得感出るんだよねー」


 なんだかよく分からないが、酷い扱いをされていることだけは分かった。

 趣味で書いたものを勝手に読まれた挙げ句、なんで貶されなければならないんだろうと、アルマはじわじわと涙目になる。それを見て慌てたルイスが、身振り手振りで宥めにかかった。


「ま、待って、アルマちゃん。別にね、貶してるわけじゃないのよ? ほら、あの人小さな新聞の編集者やってて、そういう目線から、ほら、とにかくアレなのよ!」


 アルマは浮かんだ涙をごしごしと手の甲で拭った。グスッと洟をすすって、子供みたいに小さく頷く。

 それを見たルイスがほっと胸を撫で下ろしたところへ、突然ユアンがバシッと膝を打った。言いたいことを言ったせいか、とても良い笑顔をしている。妻がギロリと睨んでも、全く意に介した気配がない。それもそのはずで、彼は今、他のことが目に入っていないのだった。ユアンは真っ直ぐアルマを見ていた。


「ねぇ、アルマくん。うちに寄稿してみない?」

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