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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
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045:人質

「銃を向けといて言う台詞か、それ?」

「痛い目に遭いたくないなら無抵抗降伏を推奨する」

「面白い冗談だ」

「……愚か」



 勧告は成った。

 マリアナは躊躇なく引き金に手をかける。

 発砲音は一発、狙いはデレピグレオの右大腿四頭筋。撃ち抜けばもはや逃げることすらままなるまい。

 未だ恐怖の外側にある銃の恐ろしさを、痛みを持って体感させる。これで恐怖を概念の内側に擦り込めば言う事も聞くだろう。無論、目の前の男があの愚か者のようにいくらかの知恵があればだが――。


 しかし、銃弾はマリアナの予想と違い、彼の足をすり抜けて後方の木に着弾する。



(……え? 外した……?)



 マリアナは目を丸くして、思わず自分の手元を確認した。

 だが銃に異常は見られない。



「どうした? そんな驚いた顔して」

「…………」



 ニマリと様子を窺うデレピグレオ。さっきから沸沸とマリアナの中に込み上がる感情、これが一種の怒りというものかもしれない。事態を把握するより先に、指が反応してしまう。


 続け様に放たれた銃声。

 これは空撃ちの音が鳴るまで続いた。


 今度は狙いを一点に定めず、脚部という括りで攻撃した。


 しかし――



「おっと」



 マリアナは到底信じられない光景を目の当たりにする。


 銃は構えた。

 照準も合わせた。

 弾は装填されている。

 全弾撃ち尽くすまで引き金を引いた。


 ――にも関わらず、弾丸はまるで男を避けるようにして薄皮一枚その横を過ぎ去っていく。


 呆気にとられるマリアナに男が嗤う。



「正直反則だよな。本来であれば引き金を引くだけで絶対命中ともいえるオートマタ専用の武器なんて。まあ俺のスキルも似たようなもんか」

「……どうやって弾丸を避けたの?」



 フランのように動き回って避けた――というよりかはマリアナが狙いを外した――というのであれば納得もいく。

 だがデレピグレオは全くその場を離れる事なく全ての銃弾に対応してみせたのだ。そんな事、第四世代であるマリアナを以ってしても不可能だ。



「どうやって――か。別に特別な事をしてるわけでもない。目で銃の軌道が見えたから避けただけだ。普通だろ?」

「……初期モデルの銃ならば確かに不可能ではない。けれどこれは弾速と威力を向上させた試作型。私にも視認出来ないのにヒューマンが避けられるはずがない」

「やれやれ。色々突っ込みたいところはたくさんあるんだが、実際に避けられるんだから仕方ないだろ。それとも――もう一度撃って確かめてみるか?」



 男が人差し指をクイクイと曲げて挑発する。


 いちいち感に触る男だ。

 ならば――と、すぐにでももう片方のリボルバーを取り出して全弾撃ち込みたい衝動に駆られるが、これ以上の弾の消費は好ましくない。


 残念ながら、デレピグレオが銃弾を回避するだけの動体視力と反射神経を有しているのは現状疑いようがないのだから。


 マリアナは銃をホルダーへ(しま)う。



「ん? もうおしまいにするのか?」

「……銃はもう使わない」

「そりゃ助かる。当たれば痛いじゃ済まなさそうだしな」

「掠りもしなかった癖に……。けど――ここからは違う」



 マリアナはゆっくりとデレピグレオに掌を(かざ)す。エネルギーの消費が激しいのであまり多用はしたくなかったのだが仕方あるまい。

 第四世代に備わっている飛行機能。その副産物である攻撃機能の一部を解放する。


 掌の中心にぽっかりと空いた穴に急激に光が収束する。



「……おいおい、もしかして――」



 ここに来て初めてデレピグレオが引きつったような表情を見せる。

 そんな顔が見れただけでもマリアナにとっては十分な収穫とも言えるだろう。今までのお返しと言わんばかりに唇を少しだけ緩ませた。


 ――高圧縮火焔弾。


 収束した光が閃光となって放たれる。

 その目標は言うまでもなくデレピグレオだ。


 と言っても、銃による攻撃を視認して避けるような男だ。放たれた火焔弾は高速とはいえ、先程のリボルバーを超えるものではない。しかしこの一発目は直撃を前提にしたものではない。


 マリアナの予測通り、デレピグレオは横に飛んで火焔弾を回避する。先程よりも大幅に身躱ししたのは、超高温の熱に当てられないようにする為だろう。認めたくないが一瞬でこの攻撃の性質を掴んだデレピグレオには、確かに眼を見張るものがある。


 だが――避けた後のことまでは考えが回っていなかったようだ。


 デレピグレオが火焔弾を回避した事で、直後に後方から響く轟音に業火。乾燥した大木が、一気に枝の先まで炎を燃え広がしていく。



「あ!」



 デレピグレオの注意がマリアナから外れた。



(今――!)



 マリアナはその隙を逃さず一気にデレピグレオへと接近する。拳を構え、推進力を利用した一撃を男の顔面目掛けて打ち出した。しかし直撃寸前のところでデレピグレオがマリアナの接近に気付いてしまう。



「っとぉ!」

「……惜しい」



 豪炎に蝕まれる大樹を背中に、マリアナは空中で方向転換する。



「ああ、確かに危なかった。けどまだまだあんな速度じゃ俺にダメージを与える事なんてできねえよ。ましてや俺の油断を誘う事前提なら、もうキミに勝ち目はない」

「ううん。今度は当たる」



 マリアナは力強く断言し、再度掌を(かざ)した。



「へえ、面白い。俺が避けられないとでも?」

「避けない」

「……ちょっと変な言い回しだな。避けられないではなく、俺が『避けない』ってか?」

「そう。あなたは避けない。何故なら私の攻撃を避ける度、この森は炎に包まれていくから」



 そう言って、マリアナは二発目を放つ。

 デレピグレオが森林国に手を貸す理由は依然として不明だが、護るべき森林国の象徴とも言うべき大自然を攻撃の対象として移した時、果たしてデレピグレオはどのような行動に出るのか。

 あくまでも手を貸しているのはアスタ個人に対してのみで、森林国そのものはどうなっても良いと決断するのか、はたまた森林国全体もその対象として捉えるのか。可能性は他にもあるが、おそらくデレピグレオが取るであろう行動は想像に難くない。



「――チッ! そういう事か!」



 デレピグレオもマリアナの狙いに気付いたのだろう。

 すぐにデレピグレオは地面を蹴ってマリアナに迫ろうとする。この判断は誰が見ても正しかった。これを打ち破る方法はマリアナに高圧縮火焔弾を撃たせない事なのだから。だが高圧縮火焔弾を放つ為の準備時間はとうに終わっている。


 デレピグレオの接近を待つ事なく、再び焔が解き放たれる。



「くそ!」



 デレピグレオも間に合わないと気付いたのだろう。腕を交差し防御の姿勢を取る。



「愚か」



 しかし高圧縮火焔弾はその程度で防げるほど弱々しい攻撃ではない。

 その一撃の正体は鉄をも溶かす超高温の焔。火傷などという生半可なダメージで済むものではない。しかも焔は空気により圧縮され、超高速で放たれる事で接触時に物理的にもダメージを与える。


 その性質通り、デレピグレオはその一撃に体ごと宙に持っていかれ、やがて圧縮された炎が爆破の如く解き放たれた。


 大気を震撼させるかのように轟く爆音と共に周囲の気温が急激に高騰する。

 そして空で爆散した残火と硝煙の中から落下する黒い影。遠くからでも分かる力無く垂れたその身体は、重力に対抗する事なく巨大な蔓の下へと落下していった。


 落ち行く邪魔者の姿を見ながら少しだけ後悔する。



「……やり過ぎた? 聞きたいことがあるから死んでないければいいけど」



 とは言え、元々怒りに任せて始末しようとしていた相手だ。情報を得られないのは残念でこそあるものの、鬱憤を晴らせたとでも思えば別に構わないだろう。

 それに敵を弱らせる為の手段が他に無かったので仕方ない。

 マリアナは反省をそこそこに空中でくるりと旋回する。



「お待たせ。……ようやくあなたの番」



 マリアナがそう言って掌を突き出した相手は残る最後の標的――アスタだ。

 観察する限りようやく立ち上がれる程度には回復している様だが、森全体へ徐々に広がっていく炎に完全に気を取られている。もはや戦いに集中する事も出来ないだろう。



「……くそっ!」



 もはや拳を構えようとする事すらなく、アスタは悔しそうに舌打ちする。



「さっきの私の要望を呑むならこれ以上の攻撃はしない。火を消す事も許可する。けど返答次第ではここ一帯を焼き尽くす」



 と言うより、マリアナにとってもこの森林国を焼き尽くす事には抵抗がある。何せ今まで極力火攻めを避けていたのも、なるべく無傷でこの森を制圧したかったからだ。それこそが女帝の命令。

 しかしある程度の被害は許容されているので、最終手段として結局強行してしまった訳だが――今ならば森林国の王に対しての脅し文句としては申し分ないはずだ。


 アスタも酷く不快そうな表情を浮かべるが、今までの様に即答しないところを見ると、かなり葛藤している事が分かる。

 あとはもう一押ししてやるだけだ。



「けど拒むなら……」



 エネルギーを掌へと集中させる。



「……待て! ッ、分かった……! お前の要求を――」

「――呑む必要はまだないだろ」



 突如介入した声にマリアナは心底瞠目する。



(今の声、まさか…………?)



 いや、起き上がれるはずがない。百歩譲って生存していた可能性はあったとしても、ここは地面からそれなりに高度な場所に位置する巨大蔓の上。炎に焼かれ、地面に叩きつけられて、そこからここまで登ってくるなど、有り得るはずがないのだ。


 しかし目の前のアスタも驚愕を露わにしながらマリアナの後方に視線が向けられている。


 これが不安と呼ぶべき感情なのだろうか。それとも恐怖というべき代物か。マリアナは初めて己の内で渦巻く感情に揺れ動かされながら、ゆっくりと後ろを振り返った。



「嘘……⁉︎」

「貴様、生きて……⁉︎」



 二人が言葉を漏らしたのはほぼ同時であった。

 マリアナは思わず両手をぐっと握りしめる。


 果たして今日何度目の驚愕だろうか。

 爆炎に呑まれたはずの男が力強く両足で立っている姿に、マリアナはそれ以上の言葉を完全に失ってしまっていた。


評価いただきありがとうございます。

皆様の応援により、日間文芸・SF・その他 BEST100 にて久々に作品名が掲載されました。

(11/26 調べ 20pt 51位)

より多くの読者の方にも閲覧していただけるよう尽力してまいりますので、どうぞ今後とも応援よろしくお願いします!

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