043:機能停止
今日一日で何度驚けばよいのだろうか。
目の前の男の情報はあまりにも誤差が大き過ぎて、もはや何を信じれば良いか分からなくなる。いや、実際には視界に飛び込んでくる情報を読み取れば良いだけの話ではあるのだが、ヒューマンと違ってオートマタであるマリアナは、どうしても自身の中に保有するデータを基準に思考回路を繋げていってしまう。
それでも目の前の男の情報は、既にこの戦闘中にもう数回は上書きしているのだが、今この瞬間にも情報の更新が必要となる。
「ハッハッハ! ようやく慣れてきたぜ!」
全身ボロボロになって尚、高笑いする男。
初めは防戦一方だったはずなのに、今ではマリアナの動きに完全についてきている。時には反撃してくる程にだ。
距離を取り、照準を定め、引き金を引く。
本来であればこの作業だけでフランを破壊する事も可能であるはずだったのだが、彼が口にした通り完全にマリアナの攻撃を見切っていた。
着弾するより早く、フランはその場所から離れマリアナに接近する。
幸いな事に、マリアナには立体移動補助機能が備わっている為、再び距離を離す事自体は難しくない。だが反して、思わしくない事態も発生してきている。
(徐々にスピードが上がってきている……?)
本来であれば有り得ない現象にマリアナは混乱する。
毛髪、肌、筋肉、骨格。見てくれこそヒューマンと大差ないが、彼らのように鍛えたところで性能が上がる訳では決してない。
オートマタは使用している部品の交換、改造等により性能向上を追求する事が出来るのだ。
だというのにこっちを追ってくる男――フランの攻撃が、徐々にマリアナを捉えつつあった。
「チッ、おしい!」
今もまた肌を掠める。
「……あなた、本当にPF82?」
「あん? だから何だよ、そのぴーえむなんたらって。んなことより、いい加減観念しな。もう嬢ちゃんの動きは完全に見切ったぜ。降参しなけりゃ次で終わらせるぞ」
「愚か。あなたの性能を知る限りそれは万に一つも有り得ない。……けど私の中で絶対にないとも言い切れなくなってきている。こんな事今までなかった。不思議」
もしかするとおかしいのはフランではなく、自分の方ではないのだろうかと考え始める。自身に起こるエラーのせいで予測した計算を悉く外しているのだ。有り得ない話ではない。
この任務終了時には早急にメンテナンスを受けるべきだろう。
「ほう、ようやく嬢ちゃんも俺様の強さを実感し始めたってわけか。だが今更泣いたって許してやらねえぞ」
「……愚か。泣きを見るのはそっちの方」
「面白えじゃねえか。ならどう俺様を泣かしてくれるのか見せてもらうぜ!」
そう笑って、フランが大地を蹴る。
「――愚か」
――そして倒れた。
まるで糸が切れたように唐突に。
「時間はかかったけど、あなたの緊急停止プログラムを掌握した。再起動コードも書き換えたからもう私以外にあなたを起動させる事は出来ない」
ピクリとも動かなくなったガラクタに言葉を落とす。そして――
「次はあなた達の番」
マリアナは残る標的二名の方を振り返った。




