天使(悪魔)からのメッセージ①
「青春って何なんだろうな」
「どうしたのですか、いきなり」
「いや、俺は今青春を味わっているのかなぁと思ってな。でも、そもそも青春って何なのかわからなくなってきたんだ」
「ではAIに聞いてみますか」
「いやAIに頼ろうとするんじゃない」
「青春とは何か、という問いにはいくつか答えがあります」
「やめろやめろ」
今日も雨模様の中、俺は教会の懺悔室を訪れていたのであった。
「どうも初めまして。私はAIシスターです。どんな懺悔もバッサリ切り捨てていきます」
「とうとうシスターもAIになる時代かぁ。じゃあAIシスター、明日の天気を教えてくれ」
「明日、櫻ノ島は叔父時々ごぼ天」
「おい、このAIポンコツだぞ」
「桂岡はのぞみ53号が通過するでしょう」
「新幹線の線路すら通ってねぇんだよ桂岡は」
「藤咲は今日の夜から明日の朝にかけて、第三共和政に移行する見込みです」
「第一と第二はいつあったんだよ!」
学校でも授業でAIについて学ぶこともあるし、AI関連のニュースもよく耳にするようになった。AIを相談相手として使う人もいるみたいだし、そういう意味ではAIシスターというのは既に存在しているのかもしれない。
「そして、才木さんの明日の心の天気は青空の下、桜の花びらが舞い散ることでしょう」
「青春だけにってか。まぁ、俺もイマイチよくわかってないが……」
「青春もわからないのに、ネット小説を書けるのですか?」
「まぁ、それに憧れがあるからこそ書けるものもあるだろうよ」
「なるほど。つまり憧れさえあれば官能小説も書けると……」
「だから俺をそっちに持っていこうとするんじゃない!」
相合傘ってどんなものなのだろうと俺は思っていたが、いざ経験してみると濃厚過ぎるというか、一度に摂取するにはカロリーが高すぎる。偶然にも壁ドンまで経験してしまったわけだが、そういう類の話に喜んで食いついてきそうなので、シスターには隠しておこう。
「ところで、今日はどんなお悩みですか?」
「まぁ、一応青春に通ずる悩みでもあり懺悔でもあるんだが……」
「おっ、赤飯炊いてきていいですか?」
「後にしてくれ。俺、この前クラスの女子とLIMEの連絡先を交換したんだが、それから一週間以上経つのに、まだ何もメッセージを送っていないんだ」
俺は、色々あった末に隣の席の天使こと小日向雪歩のLIMEの連絡先を入手した。
その連絡先交換に至る経緯は、今となっては思い出したくもないぐらいだが、きっとクラスの、いや学校中の男子達が羨むであろう雪歩の連絡先を手に入れたのにも関わらず、俺は未だに彼女にメッセージを送ったことがないのだ。
トーク画面を開いても、連絡先を交換した時にお互いに送ったスタンプが並んでいるだけである。
「なるほど。才木さんとしては、その方に何かメッセージを送りたいということですね?」
「まぁ、俺から交換を頼んだんだから、俺が何も連絡しないのはどうかなぁと思ってな。でも送るにしても、どんなメッセージを送れば良いのかわからないんだ」
LIMEに登録されている友人の数で言えば立派なものかもしれないが、大体は学校の生徒会役員だったり各部活の部長だったり委員会の委員長だったり、何なら先生もいたりする。彼らから送られてくるメッセージの要件は、何かしらの手伝いを求めるものなのである。
そういう手伝い以外で俺が連絡を取り合うのは、男友達である牧や、幼馴染のメグや遼と、後は姉貴ぐらいである。一応女子ともやり取りをすることはあるが、それとこれとでは話が違うのだ。
「なるほど。貴方の告白、しかと受け止めました。そんな正直者の貴方にはきっと、神様からのお導きがあることでしょう……」
「神様がメッセージを考えてくれるのか?」
「せっかくですし才木さんも神様のグループLIMEに入りますか?」
「そんなのあるのか?」
「憲政の神様や代打の神様がいますよ」
「何か俺が思ってる神様と違うかもしれないな、それは」
もしかしたら、日頃俺に裁きを与えている神様は懺悔の神様なのかもしれない。
そして、このシスターは懺悔の神様とLIMEでやり取りでもしたのか、俺に対して──。
「神は貴方を赦さないでしょう」
はい、いつもの。そろそろ素直になっておくれよ神様。
「今度はどんな裁きなんだ?」
「才木さんは喋ることが出来なくなってしまいます」
「今までで一番重い罰かもしれないなそれは」
「代わりにLIMEのやり取りがスムーズに出来るようになります」
「それはもう必要に迫られたからそうなっただけだろ」
必要は発明の母とも言う。
例え雪歩とLIMEのやり取りがスムーズに出来るようになっても、現実で雪歩と話すことが出来なくなってしまったら、それはそれで困ってしまうため、どうにか対策を考えたいところだが──。
「というわけで、その方におじさん構文を送りつけましょう」
「お前は俺をおじさんだと思っているのか?」
「花子ちゃん、今日も学校お疲れサマ~(^o^) いつも頑張ってて偉いねぇ~(*´∀`*) おじさんは今日も仕事が大変だったヨ~(´;ω;`)」
「なんでそんなスムーズにおじさん構文を作れるんだお前は」
「そうだ!! 今度、一緒にご飯でもどうカナ~(^o^) おじさん、花子ちゃんの好きなものなんでもご馳走しちゃうヨ(>ω<)」
この愉快なシスターはどうやって口頭でこの内容を伝えて、そして俺はどうやってそれを理解しているんだ?
「一応聞いておくが、お前はそんなメッセージを送られたら嬉しいのか?」
「相手がおじさんを名乗る美少女なら、まぁ……」
「おじさんを名乗る美少女も大概変質者じゃないか……?」
もしも俺がおじさん構文を雪歩に送りつけたら彼女がどんな反応をするか気になる所ではあるが、修復不可能な傷がついてしまったら恐ろしいのでやめておこう。むしろ向こうがふざけて送ってきそうな気配さえある。
「ですが、やっぱり女の子からモテるためにはユーモアも必要だと思います」
「別にモテたいわけじゃないんだが」
「ですが、嫌われたくはないでしょう?」
「おじさん構文を送りつけましょうって言ってる奴に言われたくはないが、まぁそうだな」
「でしたら、才木さんらしく相手の方を気遣ってみてはいかがですか? どしたん? 話聞こか?と」
「何となく下心が透けて見えるんだが」
「花子ちゃん、どうしたの……(゜o゜; もし何かイヤなことがあったなら、おじさんで良かったら話聞くヨ(^o^)」
「すっこんでろおじさん」
このシスターのミームに対する造詣の深さは一体何なのだろう。それを知っている俺も俺だが、大体は姉貴のせいだから許してほしい。
「逆に考えてみるのです。才木さん自身は、その方からどんな内容のメッセージが送られてきたら嬉しいですか? あるいは、どんな内容のメッセージを送ったら相手の方は喜んでくれそうですか? 才木さんは相手のことを考え過ぎるあまり慎重になってしまうようですが、それは長所でもあり短所でもあります。もし才木さんが夕焼け色に染まる海を見て美しいと思ったなら、その写真を送ってみるのも良いでしょう。才木さんがそれだけメッセージの内容に悩む程の相手なら、きっと何かしらの反応をしてくれるはずです」
……俺は、雪歩からどんなメッセージが送られてきたら嬉しいのだろう?
『好き』なんて送られてきたら一瞬ドキッとはするだろうが、まぁいつもの悪魔の囁きだなと身構えるだけだ。
おそらく、雪歩が何かに困っていて、その助けを求められたら、俺は嬉しいかもしれない。俺の悲しい性だ。
ならば、逆に俺が雪歩に助けを求めてみる?
……それが出来ないようでは、俺と雪歩の関係性は進展しているように見えて、まだまだなのだなと実感させられてしまう。
「まぁ、色々考えてみるよ。ありがとな、アドバイスをくれて」
「もしおじさん構文を作るのが難しかったら、私が考えてあげますからね」
「絶対使わないからな! じゃあな、今日はここで御暇するよ」
「夜遅いから、気をつけて帰るんだヨ」
「やめろやめろ」
シスターはもしかしたら本当にボイスチェンジャーを使っているおじさんなのではと本気で疑い始めた今日このごろ。
俺は帰りの電車の中で、LIMEのトーク画面を開いていた。
『雪歩ちゃん、今日も学校お疲れサマ~(*´∀`*)』
ダメだ。試しにメッセージを作ってみたら、あのシスターのせいでとんでもないメッセージが生まれてしまった。
流石にこんなイカれたメッセージを送るわけにはいかないと、俺はメッセージを消そうとしたのだが──。
ガタン、と突然電車が揺れて。
「しまっ────」
あっ、と気づいたときにはもう遅く。
送信してしまったメッセージを慌てて消そうとしたのだが。
無情にも、信じられない速度で『既読』と付いたのだった。
カクヨム版の方が、もっとおじさん構文っぽくなってると思います。個人的に。




