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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月17日>

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第40話『喧嘩上等』

【星間連合帝国 帝星ラヴァナロス シルセプター城 帝国議事堂】


<AM8:00>


 帝国の政治システムは分かりやすい。皇帝の下に宰相があり、その下に各惑星の知事、その下に軌跡先導法で選出された人物が議員として名を連ねている。

 その日、帝国内における最上位にいる帝国宰相、そして各惑星の知事がホログラムながらも一堂に会していた。円卓の第二席に着席する帝国宰相エリーゼ・ラフォーレは険しい表情で各惑星の知事に視線を向けた。


「早朝からよく集まってくださいましたね」


『このような事態が起きた以上、仕方ありませんでしょう』


レオンドラ星人でありながらアイゴティヤ星知事を務めるセドリック・ガンフォールがそう告げる。それに続くように青い肌のナイスミドルが軽薄な笑みを浮かべた。


『美女に呼び出されれば僕はいつでも馳せ参じますよ』


『レオパルド知事。今日はそのような態度は控えていただきたいですわ』


カルキノス星知事アンドリュー・レオパルドの軽口をレオンドラ星知事であるアリータ=アネモネ・テンペストは不愉快そうに諫める。すると彼女はエリーゼの方に視線を向けてきた。


『宰相、本日の議題は当然……』


「ええ、神栄教の独立宣言です」


 エリーゼはそう答えると、続けて各惑星の知事らに尋ねた。


「一先ず、各惑星の状況を報告していただける? 私から時計回りに答えていただけるかしら」


その言葉にセドリックは小さく咳払いをしてから口を開いた。


『ウホン、アイゴティヤ星はかなり混乱が。特にゲイリム大陸はジュラヴァナ星人が多く、帝国軍に鎮圧させております。明確な数は出ておりませんが、死傷者も出ている模様です。また、在星のジュラヴァナ星人に対して暴行を行うなどの事件も各地で多発しているようですな。念のため、ジュラヴァナ星人の保護を行っております』


「なるほど。レオンドラ星は?」


『はっ。レオンドラ星は暴動といった状況はそれほど見受けられません。ですがジュラヴァナ星人に限らず神栄教の信者による脱星者がかなり多く見受けられます。港宙ステーションなどに人が溢れたため、今は危機回避のための出入星規制を』


「クリオス星は?」


エリーゼがアリータの隣に黙って座っていた若い女性に言葉を振る。するとこれまで沈黙を保っていた若いクリオス星人の女性が気弱な声を上げた。


『は、はいっ。そのクリオス星は……非常に混乱が多く、その、暴動も各地で起きております。ええっと、何分、軍事惑星という事もあって宗教に肩入れする者が多く、なのでその不安からくるもののようで……』


「スーザン・ハルフ知事。今は理由ではなく明確な数字や状況を提示してくださるかしら」


エリーゼは冷たい目でそう告げると、セドリックは鼻を鳴らした。


『フン……謀反人コウチ・ハルフの娘はそのようなことも分からんのか』


『ガンフォール知事。君に自虐の趣味があるとは知らなかったな』


セドリックの言葉にアンドリューは皮肉を込めてそう告げる。するとセドリックは頭頂部の耳をピンと立てながら彼を睨み返した。


『何が言いたい?』


『クリオス星の反乱以前に、君は陛下に反旗を翻したルネモルン派の補佐官じゃないか』


『私は当時の皇帝陛下であるランジョウ様に行動で真意を見せた。貴様のその発言は皇族であるランジョウ様の判断を批判すると捉えてもよいのだな?』


「そこまでに」


睨み合うアンドリューとセドリックに対してエリーゼは呆れたように、それでいて苦笑も入り混じった表情を浮かべる。自身が育ったローズマリー共和国での教え同様、やはり男という生き物は争わずにはいられないと思ったのだ。

 エリーゼは仕切りなおすように再びスーザン・ハルフの方に視線を投げると、彼女はその浅黒い肌が銀髪に埋もれる程に俯いていた。


「ハルフ知事。顔を上げなさい」


『は、はい!』


慌てて顔を上げるスーザンの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。まだ若くここに居る面々とは経験が違う。エリーゼは自身の中にある母性本能と性的欲求を隠しきれず僅かに口角を上げて彼女に告げた。


「本日中に明確なデータの提出。そして問題に対する行動と結果を報告してください。疑問点があれば副知事やそこにいるテンペスト知事にご相談なさい。テンペスト知事もよろしいですね?」


『ええ、いつでも相談に乗りますわ』


『は、はいっ。ありがとうございます!』


二人に頭を下げるスーザンを見てからエリーゼは先程同様の鉄仮面に戻ると、アンドリューの方に顔を向けた。


「レオパルド知事。カルキノス星は?」


『特別目立った事は何も。神栄教よりも問題なのは横流しをしていたライオット・インダストリー社ですね。会社に対する嫌がらせや苦情、営業妨害行為が多発しています。帝国軍への武器提供に遅れが出る可能性が。今はとりあえず形式上の営業停止命令と監査を行わせていますが、社長のタクミ・マウントをはじめとする主要幹部の行方は未だ分かっておりません』


アンドリューの的確な報告に隣に座るスーザンは尊敬の表情を浮かべる。そんな彼女を引き戻すかのようにエリーゼは小さく咳を鳴らした。


「ではクリオス星以外はこのまま帝国民を落ち着かせてください。特に注意しなければならないのは帝国民の脱星です。神栄教に人口が集中すれば将来的にも軍事的に大きな脅威となりかねません。まずは」


そう言いかけたところで議事堂の扉が勢いよく開かれた。

 議事堂の面々の視線が一斉に飛ぶ。そこに現れた人物にエリーゼは思わず顔を顰めながらも立ち上がると、ホログラムの知事たちも背筋を正して立ち上がる。ここに居る面々にこのような行動をとらせる人物はこの海陽系には一人しか存在しなかった。


「皇帝陛下」


「ウッス。何だぁ? オメェら? シケた面してんな。お、アンドリュー久し振り! 真面目なステファンは元気か?」


普段と変わらない雰囲気のダンジョウはにこやかにそう告げると、アンドリューは微笑みながら頷いた。


『はっ。愚息ながら今では副知事を務めております。これも陛下の下で働かせていただいたおかげかと』


「お? そうか? カカカ! いやそうかもな! アリータも久し振りだな。そうだ、この前野菜取れたから送るよ。まぁレオンドラ産程じゃねぇけど結構いい出来なんだぜ?」


ダンジョウの言葉にアリータは微笑みながら感謝の言葉を述べた。


『そのような大層なもの……光栄の極みでございますわ。何より陛下がお作りになられたお野菜など……ドライ化して末代までの家宝にしたいほどにございます』


「相変わらず大げさだな。セドリック。オメェは相変わらず口がひん曲がってんぞ。オメェの親父見習ってもっと柔和でいろ」


『……気を付けます』


「んでスーザン! 何だその猫背は! 知事なんだからもっとドーンと構えとけ」


『は、はい!』


全員に話しかけるダンジョウはエリーゼが作っていた空気を変貌させる。そんな空気を変えるべくエリーゼは小さく息を吸ってから口を開いた。


「陛下、よろしいですか」


 エリーゼの言葉にダンジョウは「ん!」と元気よく返事をするとズカズカ歩き、ドッシリと最奥の上座に腰を下ろす。そして片足を円卓に乗せながら腕を組んだ。


「んじゃ、会議続けて」


ダンジョウがそう告げるとエリーゼは少し言霊に力を込めように、先ほどよりも少し多めに息を吸い込んでから口を開いた。


「陛下、対策に関してはクリオス星を除き問題ありません。ここからは別の問題です。此度の件をいかにして国民に納得させるかという事です」


その言葉に周囲の空気が変わる。それは今回の件の責任問題を問うという事であった。

 エリーゼは自分に言葉で徹底的に空気を支配するという武器があると自負しており、それは紛れもない事実でもあった。現に惑星の知事を務める面々が彼女の言葉の後に何も言えなくなってしまっている。そんな空気の中で唯一支配できないのが彼女の目の前で足をテーブルに乗せながら座る男だった。


「ん。そうだな。今回の件はコウサのおっさんに独立執行権をあげた俺のせいだし」


あっさりと現状の事実、そしてエリーゼが噤んでいた言葉を口にしたダンジョウはいつも通りの笑顔で言葉を続けた。


「みんなはとりあえず国民のみんなに変な影響がねェ用にしてやってくれ。俺はそろそろコウサのおっさんに返事しなきゃいけねぇからよ」


『しかし陛下』


アンドリューがそう言いかけたところでダンジョウは「任せろって!」と言って胸を張る。そんな彼にエリーゼは空気を戻すような冷たい口調で告げた。


「陛下、何をなさるか教えていただけますか?」


その言葉にダンジョウは得意気に親指を立てた。


「決まってんだろ? 俺もコウサに向けて話すんだよ。あのオッサンと一緒で海陽系に向けてな!」


とんでもないことを言い出すダンジョウに知事の面々は口をぽかんと開ける。しかしエリーゼは眉間に皺を寄せながら問いかけた。


「どのような内容を? 原稿をお見せいただけますか?」


「原稿? んなもんあるかよ」


当たり前の質問にダンジョウは首を傾げる。その反応にエリーゼは思わず語気を強めざる得なかった。


「何を仰っているのです……此度の件で神栄教は陛下の失言を狙っているのかもしれないのですよ? こちらも何か手を……」


「あのオッサンがそんな見え見えの事するかよ。つーかエリーゼ。下手な小細工は考えんな。あのオッサンを出し抜けんのはババァだけだ」


その言葉にエリーゼは思わず唇を噛みしめる。心の底にある事実を突かれると誰もが悔しさを滲ませるものなのだ。

 ダンジョウは変わらぬ笑顔のまま立ち上がると全員に向かって告げた。


「小細工が通じねぇなら真っ向からやり合うしかねぇ。で、こっちの代表は俺だ。だったら俺が応じんのがスジってもんだろ?」


ダンジョウの言葉に誰もが呆然とする。しかしその静寂を切り裂くようにアンドリューとアリータの小さな笑い声が響いた。


『ハハハ! 確かに、陛下の仰る通りですな』


『昔から変わらぬその心意気……このアリータ、改めて陛下に敬服いたしますわ』


「お、だろ? カカカカカッ!!」


ダンジョウは腰に手を当ててゲラゲラ笑う。

 その光景を見ながらエリーゼは益々悔しさを募らせる。彼女は言葉で空気を支配する。しかしダンジョウはその存在だけで空気を支配するのだ。それは正に天性のカリスマとも呼べるエリーゼが持ちたくても持ちえない力に他ならなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 帝星ラヴァナロス シルセプター城 会見場】


<AM9:00>


「えーっと。連チャンで海陽系全域に話しちゃって悪いな。コウサのオッサンの言い方と同じことすっと自己紹介しとくわ! 俺はダンジョウ=クロウ・ガウネリン。この帝国の皇帝だ。ま、あのオッサンよりも俺のこと知ってるモンは多いだろーけどな! ギャハハハ! 

ま、冗談はさておいて神栄教が独立するって話が出てるが……俺は認めねぇ。理由は簡単だ。この海陽系に住んでんのにバラバラなのは不自然だからだ。

ただ勘違いしねぇで欲しい事がある。俺は別に神栄教を弾圧しようなんざ思ってねぇ。軌跡先導法で仕事やら結婚は管理させてもらうが、信仰を管理するつもりはねぇからな。

それともう一つ! この帝国から出ていこうと思ってる奴に言いてぇ。この国はこの十数年で技術は発展したし食料自給率も跳ね上がった。それと逆に失業率も貧富の差も犯罪率も小さくなった。それは何でかって言うと、オメェら国民が俺のやり方に協力してくれたからだ。そして俺はこれからもオメェらに平穏な生活をさせるつもりだ。だからこれからも俺と一緒にこの国でやっていけ!

ぃよし! 言いてぇ事は言った! あとはコウサ! いーやウンコ教皇! テメェ喧嘩売るってんなら買ってやる! でもな! 俺に喧嘩売ってタダで済むと思うなよ? 一個だけ助言しといてやんよ。テメェを慕ってる信者やウチの国のモンの事考えんならやめておけ!」

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