表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月16日>
37/48

第31話『Girls talk』

【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン ザイアン隊基地】


≪PM20:00≫


 潜入騒ぎに花火紛いの爆発事件。となれば基地が厳戒態勢になるのは必然である。しかし運はアークたちに味方していた。偶然ではあるが、出入り口の見張りが全員女性だったからである。


「あ! エル吉め……うらやまけしからん……」


双眼鏡で基地出入り口の待機室を見ていたアークはまるで親の仇を見つけたかのように地面に伏した身体を震わせる。

 明確に映る彼の視線の先にはうっとりとした複数の女性隊員がエルディンの手を握ったり、後ろから首に手をまわす光景があった。


「ちくしょう。俺があっちの役割やればよかった。お姉ちゃんもそう思わないかね?」


憤慨しながらアークは隣りに首を振ると、彼と同じく身体を伏せるリオが呆れたようにジト目を向けてきた。


「君とエルディン君じゃ顔の造りに雲泥の差があるでしょ。それとこれから女の子を迎えに行くのに何でそういう発想になるかね」


「それとこれとは話が別なんですよ? 詳しく語ろうか?」


「ギガ興味ないからいい。ほら、さっさと行くよ。あと一時間でここを発たなきゃいけないんだからね」


エルディンに告げられたタイムリミットを告げてリオはゆっくり身体を起こし上げる。そしてお腹に付いた埃を払うと、腰を屈めながら入り口まで走って行く。アークは少し唇を尖らせながらも、彼女の大きめのお尻を凝視しながらその後に続いた。


 基地内でも慎重な行動が求められていたが、思いの外に順調に進む事が出来た。恐らく、今もどこかに爆弾がないか探しているのだろう。とはいえ偽造パスがない以上、アークとリオは死角を伝って徐々に実験棟へと近づいていった。


「ねぇお姉ちゃん」


「何?」


アークは彼女のお尻と太腿から目を離さずに声をかけると、リオもまた周囲の警戒を怠らずに返事を返す。そんな彼女にアークは疑問に思っていた事を語りかけた。


「これって完全に個人的な任務外行動だけどさ。何で手伝ってくれんの? 帝国軍の慈善活動?」


「はぁ? 博愛主義で心の広い私でも慈善に命は掛けられないわよ」


「じゃ何で?」


「私がやりたいからやってんの」


振り返る事なく、そして少し素っ気なくそう告げるリオの後姿を見ながら、アークはそれが嘘だと直感的に気が付いた。いや、嘘というよりも何か隠していると思ったのだ。


「お姉ちゃん何か隠してね?」


「何? 無関係の私が手伝うのが気に入らないワケ?」


「違う違う。女の勘があるよーに男にも妙な直感があるんだなこれが」


「何それ? ……別にただ昔やり残した事をやろうと思っただけ」


彼女はそう告げると、辿り着いた実験棟の前で立ち止まる。そして初めてアークの方に振り返った。


「……あの羊海戦でアーク君たちが戦っていた宙域ね。私もいたの」


その言葉を聞いてヘラヘラしていたアークの表情が変わる。しかし彼が言葉を発する前にリオが先に口を開いた。


「二手に分かれて探そう。10分後にここで集合ね」


彼女はそう告げるとそのまま振り返る事なく走り去って行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 実験棟内を駆け抜けながらリオは妙な罪悪感に駆られていた。

 羊海炎上戦……それは帝国内戦において、現在までの最大規模の戦闘と記録されている。クリオス星知事だったミドガルド・アプリーゼが率いた軍事惑星の反乱は短期間でありながらもその犠牲者の数は皇宰戦争を超えるからだ。


「(あの時……私がもっと早く決断していれば……)」


リオの頭に過去の後悔が過る。しかし彼女は冷静さを失ったわけではなかった。事実、視界の先にある通路に隊列の足音を聞いた彼女は瞬時に身を隠すくらいの行動を取れたからだ。


「隊長! 警戒態勢整いました!」


「ん……覚悟は出来とるな?」


隊長という呼称とその口ぶりからリオは小さく息を飲む。死角から僅かに顔を覗かせると、そこに居たのは著名なザイアン隊隊長アンディ・ラフレインだった。


「(アンディ・ラフレイン……守護巨神か)」


その大柄な体格から名付けられた通り名がピッタリだとリオは思いながら彼の正面に立つフードを被った怪僧に視線を移した。


「分かってるよ。侵入者を殺せばいーんでしょ?」


そう言ってフードを取る少女をリオは思わず凝視する。

 周囲の不快そうな表情とは対照的に、片方の角が折れた少女はまるで太陽のように明るい笑顔を浮かべていた。彼女はそこから他のザイアン隊隊員を見下すような表情に作り替えると、彼らを一瞥して不敵にほほ笑んだ。


「せいぜいあーしの邪魔だけはしないでね」


彼女はそう告げると、アンディ・ラフレインを横切って格納庫の方に向かっていく。その後ろ姿を睨みつけながらザイアン隊隊員たちは恨めしそうにアンディに不平不満を告げた。


「隊長! あない奴に頼らんでもウチ等だけで!」


「そうや! 結局異端者に神栄教の奥深さは分からんのどす!」


まるでひな鳥にように口を開く面々をアンディ・ラフレインは一蹴するような視線を投げつける。すると隊員たちは今まで開いていた口を瞬時に閉じた。


「教皇様のご意向や。不満があるんやったらCSで待機しとき……お前らがあん異端者よりも力があるっちゅうことを教皇様にお見せしい」


その言葉に再び隊員たちは口を開く。しかしそこから出るのは先程とは打って変わり、歓喜と鼓舞に満ちた歓声のようだった。そんな老若男女の入り混じった声を尻目に、リオは迂回して格納庫に向かって走り出した。

 格納庫前にある更衣室の前に差し掛かると、リオは周囲を警戒しながら扉の前で端末を開くと、士官学生時代に習った一時的な偽造パスを作り上げて扉を開いた。


「ふぅ」


「ん? なーにキミ?」


中に入ってきたリオを見て既に下着も脱ぎ捨てていたハンナは首を傾げる。

 そんな彼女にリオは小さく笑みを浮かべながら歩み寄った。


「ハンナ・アゴストさんですね? 私は帝国軍諜報部特別少尉のリオ・フェスタ。貴女を迎えに来たの」


「帝国軍? 何で?」


怪訝な表情を浮かべるハンナにリオは慌てて取り繕うように頭を振った。


「あ、ゴメン! 今の無し! 軍は関係なくて、私はアーク君たちの友達を迎えに来たってこと」


リオは微笑みから少し砕けたような笑みでそう告げる。すると少し戸惑った表情を浮かべていたハンナは小さく微笑んだ。


「あ! じゃあ君がアッ君、エッ君、メッちゃんの監査役って子?」


「そうそう! それそれ!」


理解の早いハンナにリオは感嘆と歓喜が入り混じったような声を上げる。そして彼女がアークを除くエルディンやメアリー同様に優秀な人間であることを瞬時に感じ取った。

 リオは少し心を開きながらハンナに歩み寄る。しかし彼女は微笑みながらもまだ少し警戒心を抱いた様子でBE用のスーツを着始めた。


「そっか。いらっしゃい。言うてもあーしさぁ、君たちの抹殺命令受けてんだよねー。君がここに居るってことはアッ君たちも近くにいるんでしょ?」


「うん。みんなで一緒にハンナさんを迎えに行こうって話してたんだ」


「ははは。相変わらずアッ君はバカだね~。あーしは帝国には帰らないって言ってたんだけど?」


「それは聞いてた。でもだからってこのまま神栄教(ココ)に居たらいつかきっと戦うことになる。友達同士で殺し合いなんてしたくないでしょ?」


「そりゃ勿論。でも帝国に戻るのも同じくらい嫌なんだよね」


「アーク君たちと戦うことになっても?」


「大丈夫。君たちくらいなら見逃せるように立ち振る舞うよ。こー見えてあーしアッ君より100倍は強いし」


明るい笑顔でそう告げるハンナにリオは悲しげな笑みで歩み寄る。

 そして彼女の手を取ると、まるでキスする距離感で顔を近づけた。


「帝国は変わるよ……ううん……私が変えてみせる。だからそれを貴女にも手伝ってほしい」


リオは真っすぐな目で彼女を見つめる。それまで笑っていたハンナも、いつの間にかその瞳に捕らわれたかのように呆然とした様子で固まってしまっていた。

 ハンナが硬直していたのは恐怖心なのか、魅入っていたからなのかは分からない。しかし、そんな二人の空間を切り裂くように乱雑に扉が叩かれた。


「着替えにどんだけ時間掛かっとるんじゃ!」


ガサツで乱暴な口調に二人は思わずハッとする。するとハンナは我に返ったかのようにそっとリオの手を解いた。


「リッちゃんだったね。そこの通気口から外に出れるからね」


そう言ってハンナは途中まで着込んでいたBE用のツナギを再び着込み始める。その様子にリオは再び彼女に詰め寄った。


「待ってよ! 一緒に」


「誘ってくれてありがと。……でもね、あーしはやっぱり帰れない。帝国にだけは……」


ハンナはそう告げると、まるで泣きそうな妹をあやす姉のような優しい微笑みでリオの頭にそっと手を置いた。


「でも……帝国にもリッちゃんみたいな子がいるんなら悪くないなって思うよ。あの三人の事ヨロシクね」


彼女はそう告げるとリオに背を向けて扉の方に向かって歩き出す。

リオの目にその美しい後ろ姿は、女なら憧れる大人の女性の姿のように写っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ