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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月16日>

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第18話『If you look carefully, it's more ordinary than it appears』

【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン ザイアン隊基地正面玄関】


≪AM11:30≫


 防弾式のエアカーが垂直に降りてくる。神聖ザイアン隊隊長アンディ・ラフレインは無骨な無表情でエアカーの腹部を見上げていた。やがて地面に設置したエアカーの扉がゆっくり開くと神栄教枢機卿でもあるアンディの姉メルティ・ルネモルンが降り立った。

 アンディを含めた出迎えの一団は、一糸乱れぬ動きで十五度程腰を曲げる。その姿を視認したメルティは小さく頷きながらアンディの前に歩み寄ってきた。


「ご苦労さま」


「枢機卿。此度の件、私は納得しとりまへん」


頭を上げたアンディは挨拶もせずに開口一番そう告げる。するとメルティは困ったように微笑んだ。


「その神栄教の教えを重んじる気持ちは立派どす。せやけど時には柔軟性を持つことを説いた教えも仰山あるんよ。何より今回の件はウチやのうて教皇猊下のお考えでもあるいうんを忘れへんように」


「姉上が猊下を誑し込んだという噂があるはご存知の筈や」


アンディは小声ながらも少し語気を強めると、メルティの表情が切り替わる。それは幼少期に見た弟を叱りつける時の顔だった。


「ウチ程度に懐柔されるような猊下とちゃう。それはアンタもよう分かっとるはずや。……それと今の発言はウチやのうて猊下に対する不敬発言や。注意しい」


「……失礼した」


アンディは渋々ではあるものの、発言に対する姉の批評は正しいと感じ素直に謝罪する。するとエアカーからようやくコウサが降りてきた。


「いやぁ~スマンスマン。揺れが心地ようて寝てしまっとったわ。アンディ。待たせてスマンかったな」


後頭部に彫られた蓮の花の入れ墨をペチペチと叩きながら、笑顔でそう告げるコウサを見て一団は背筋を正したまま腰を三十度を折る。アンディもまた一礼をしてから代表してコウサの前で膝を付くと、差し出された手にそっと額を擦り付けた。


「わざわざ足をお運びいただき、感謝します」


「ええんや。ボクかてワガママに付き合ってくれたラブレイン隊長の顔を立てたくもなるやろ。……ほな、案内してもらおか」


コウサがそう告げるとアンディはそっと手を離して立ち上がる。そして半身になって進行方向に手を差し出した。


「ほな、こちらへ」


アンディがそう告げると、案内を命じられていたザイアン隊の隊員が前に出て歩き出す。コウサとメルティがその後に従うのを見届けてから彼もまたその背後に着いて行った。


 「叔父さん」


隣に歩み寄ってきた甥を見てアンディは少し表情を綻ばせる。


「リョクレイか。シャオロンはどこ行きおった?」


「アイツは俺の代わりにお使いに行ってる。おかげで俺は今日一日親父殿のお守りだ」


シャオロンと違い神栄教の教えより道楽を優先するというリョクレイはそう言って口を窄める。彼からすればそれは遺憾な事だったが、可愛い甥っ子とあっては多目に見ざる得なかった。


「名誉なことやないか。……そうやリョクレイ。これから見ることをしっかりと目に焼き付けとくんやで」


アンディはその無骨な表情と大きな身体に似つかわしくない優しい口調でそう告げる。

血縁が無くとも可愛がっているリョクレイとシャオロン……この二人が神栄教の外に出てしまうことをアンディは何よりも危惧していたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【神栄教民主共和国 衛星ザルディアン ザイアン隊基地 CS部隊用ドック】


≪AM11:45≫


 到着したドック内は隊長であるアンディの性格を表すかのように美しいほどに整理されている。訓練する隊士達はコウサの姿を見ると一斉に動きを止めて礼拝時の祈りを捧げていた。オートウォークに乗るコウサは、彼等に笑顔を返しながらドックの奥へ奥へと進んでいった。


「エライ奥にあるんやな」


「神通力という汚れた力です。これでも警備が甘いくらいやと考えとります」


背後で生真面目にそう答えるアンディにコウサは小さく振り返って微笑む。教えを恭順する彼にとって今回の件は不本意以外の何物でもないだろう。コウサはその事を察しながらも、彼に希望に添えないことを心の中で少し申し訳なく思っていた。


「隊長。その辺にしておきんさい」


隣のメルティは少し怪訝な表情を浮かべながらそう告げるが、アンディは引き下げる事なく口を開いた。


「猊下。確かにBEちゅうのは大きい力やと思います。せやけど、いくら神栄教を守るためとは言え、教えに反する異端者の力を借りるのは本末転倒やと思うんですわ」


信者であれば最もな言葉にコウサは小さく頷く。そして正面を見据えオートウォークに揺られながら口を開いた。


「隊長。神栄教は大きくなりすぎたんや。元々海陽系最大の宗教やったけど、今や信者の数、そしてキミらザイアン隊という軍事力は、帝国から見ても無視できない存在になっとる。そうなればボク等はただの宗教惑星としてボーッとしとる訳にはいかへん。神栄教がローズマリー共和国に続く帝国の抑止力にならなアカンのや」


「それは……承知しとります。せやけどそのために異端者を受け入れて、さらにフマーオスとも手を組むっちゅうのは……」


「ランジョウ君と手を組むんとちゃう。ボク等神栄教は全てを受け入れるんや。そのためにフマーオスにも助力は惜しまへん。ただそれだけのことやないか。異端者もそれと同義や。神栄教の教えを守りながらも神通力を持っとるというだけで彼等を見捨てるのはおかしいやろ?」


「せやけどそうなると前法王様は……」


そう言いかけてアンディは口を噤む。今やセイマグル・ヴァレンタインの名は、熱心な信者にとっては禁忌の名前なのだ。

 コウサはアンディの心情を全て見透かしながら、終点を迎えたオートウォークからヒョイと降り立った。


「思うところはあるやろ。せやけど、今の……いやこれからの世界の為には少しの我慢が必要なんや。帝国が作る世界にある歪み……それを正すには聖なる教えと信じる心。そして力が必要や」


コウサはそこまで告げると思わず微笑んでしまった。今やどこに居るかも知れない想い人が頭の中に浮かびあがったからだ。


「(ボクがこう動くんも……キミの想定通りなんかな?)」


初めて出会いから約五十年の月日の中でコウサはシャイン=エレナ・ホーゲンの事を忘れたことは一日たりとてない。自らの唯一の自慢である歴代最高のB.I.S値を塗り替えた彼女の栗色のお下げ髪と愛くるしい童女の姿……それはコウサにとってこの世界で唯一自分の思いどおりにならなかった存在だったのだ。


 コウサの言葉に納得したのか、それとも言葉が無かったのか、アンディは新たなオートウォークに乗り換えてからそれ以上何も言うことは無かった。やがてオートウォークは基地の中央部にある最奥の部屋に繋がる扉の前で停止すると、コウサはゆっくり降り立った。


「こちらになります」


案内役としてコウサの前を守っていたザイアン隊隊士がそう告げて機器を操作すると、大きな扉が両サイドに移動し、二重になっていたもう一枚の扉が上下に動き出した。


 重々しい厳重な扉の中にコウサは足を踏み入れる。限られた人間だけが立ち入ることを許されるその部屋の中の奥には、ガラス越しにもう一つの部屋があった。いや、部屋というよりも小型ドックといったほうが良いだろう。そこにはライオット・インダストリー社から送られたという新型BEエネルゲイアが正座で鎮座していたからだ。


「これが新型か……帝国のBEデュナメスと違うてゴツゴツしとるな」


コウサがそう告げると、アンディが「シナプス殿」と声をかける。するとライオット・インダストリー社から出向していたらしい白衣の整備士がコウサの前に走り寄ってきた。


「猊下。ライオット・インダストリー社より出向してきたエルナンド・シナプス氏どす。彼から一通り説明を」


アンディはそう告げてエルナンドに視線を投げると、彼は笑顔で会釈してきた。どうやら神栄教には一切興味のない人間らしく、まるでさっき覚えたと言わんばかりに拙い祈りの作法を見せてくる。


「(あんまり神栄教に興味ない人間を送ってきたか……タクミ君も相変わらずやな)」


コウサは今や旧知となったライオット・インダストリー社の社長であるタクミ・マウントの分厚い贅肉の奥に隠れた細心の注意力に少しの感嘆と不愉快さを感じる。そして不愉快さだけを押し隠してエルナンドに微笑んだ。


「よろしゅう頼むわ」


「はい。自分もそれが仕事ですので」


世界的著名人であるコウサを前にしながらもエルナンドは淡々とした様子でそう告げる。そしてコウサを制御装置の前まで誘った。


「では、これより新型BEエネルゲイアの起動実験に移ります。既にご存知かもしれませんが、BEの起動は神通力を持つ特定の人間……神栄教(ここ)で言う異端者が放つ特殊な脳波が必要になります。その脳波がヤシマタイトに触れる事によってヤシマタイトからは物質を粒子分解する波動が生まれ、何かを粒子分解することで無尽蔵のエネルギーを発生させる訳です。その粒子分解に着用者の身体を利用し意識はBEに移し込みます。これによってBEは文字通り身体が(Body)巨大化(Extension)するという訳ですね」


エルナンドの淡々とした説明をコウサは理解しながらも少し複雑な感情を抱いた。

 BE開発に携わった人間は沢山いる。しかし基礎理論を作ったのはシャイン=エレナ・ホーゲンとノヴァ・ホワイトと言われている。コウサの想い人であるシャインが着用者の身体を粒子分解の餌にするような非人道的理論を考案したことに少し違和感を感じたのだ。


「(……多分、その部分はノヴァ・ホワイトが思い付いたんやろうな。それを呑んだっちゅうことは……シャインちゃんもそこまで余裕がなかったんかもしれん)」


「猊下?」


険しい表情を浮かべているコウサにエルナンドが問いかける。コウサは取り繕うように笑みを浮かべてから質問した。


「一つ聞きたいんやけど、粒子分解した着用者は何で元の身体に戻るんや?」


「あぁ。着用者は粒子サイズで編み込まれたスーツを着込んでいるんですよ。BEの電源を落とす際に自動で再構築機能が起動します。その際もスーツのおかげで不純物が入らずに元通りの姿になるというわけです」


エルナンドの丁寧ながらも素人にも分かりやすく噛み砕いた説明に、コウサの後ろにいる面々が大きく頷いている。コウサは彼等以上に理解したからこそ、BEの性質に少し恐怖を覚えながら頷いた。


「よぉ分かったわ。続けてくれるか?」


「はい。今回の着用者は神栄教の怪僧と呼ばれる方にお願いしています。始めてくれ」


エルナンドが指示すると、装置の前に座っていたライオット・インダストリー社の面々が遠隔でBEの電源を入れる。それと同時にエルナンドは着用者である怪僧に話しかけた。


「今、電源を入れました。起動してみてください」


『はい』


返ってきた声色にコウサは思わず背後を振り返る。アンディは怪訝な表情を保っており、メルティはまるでコウサから目を逸らすように視線をBEに向けている。そしてリョクレイだけが絵に描いたような驚きの表情を浮かべていた。


 異端者ということもあり、コウサは怪僧と称される人物に会ったことがなかった。それはメルティ等枢機卿が信者への配慮を考えての提案でありコウサもそれに従っていたのだ。ただ、一つコウサにとって誤算があった。


先の内乱の戦地となったクリオス星内で破損したBEからザイアン隊が保護した人間。


それが怪僧の境遇である。その境遇からコウサは怪僧なる人物は壮年の男性だとばかり思っていた。しかし、返ってきた声は若(・)い(・)女(・)性(・)のものだったのだ。


『右手から動かします』


怪僧と称される女性の声が再び響き渡る。それと同時にガラス越しの先に鎮座していたBEエネルゲイアはゆっくりと右腕を上げ、五本の指を親指から閉じ、再び小指から開くという動作を見せてきた。


「はい。いいですね。じゃあ次は立ち上がってみましょう」


『はい』


エルナンドの指示に怪僧はそう返すと、左膝を地面につけて右膝を立て、上げていた右手を右膝においてゆっくりと立ち上がった。

 その壮観な光景にライオット・インダストリー社の人間のみならず、事を見守っていたザイアン隊の人間もが「おぉ」と小さく声を上げる。全高4mほどの巨人はその場で立ち尽くすと、引き続きエルナンドの指示に従って屈伸したり、片足で立ったりという動きを見せてきた。


「いかがですか?」


そう言って振り返るエルナンドに対してコウサは険しい表情のまま小さく口を開いた


「着用者は女の子かいな?」


「ええ。ご存知なかったのですか?」


エルナンドの言葉にコウサは苦笑交じりに頭を振る。そして背後のメルティ達が制止することを想定しながらも飄々と告げた。


「着用しとる怪僧ちゃんと会うてみたいな」


「猊下、それは」


予想通り止めに入ろうとするメルティをコウサは片手を上げて制止する。そして視線はエルナンドに向けたまま「ええか?」と告げると、彼は少し驚いたような様子を見せながら「勿論です」と言ってBEを制御する面々の方に振り返った。


「実験終了です。元の体勢に戻ってくれますか?」


『もうですか? はーい』


エルナンドの指示に従いBEエネルゲイアは再びゆっくりと正座する。それと同時にコウサはズカズカと部屋の奥に進み、ガラス越しのドッグに繋がる扉の前に立った。


 「猊下。いきなりどないしたんです?」


背後に歩み寄って来たアンディにコウサは振り返る事なく言葉だけを返した。


「ただの気まぐれや。先の戦争でBEを着こなすモンは仰山見てきたんやけどな。何でか男ばっかりで女の子はシャインちゃんだけやった」


「まさか……あの怪僧の正体は……シャイン=エレナ・ホーゲン」


アンディの的外れな妄想にコウサは小さく苦笑する。そしてその笑みを見せながら初めて彼の方に振り返った。


「それは無いやろ」


 コウサの言葉と同時にドッグへ繋がる扉が横にスライドする。コウサは足を踏み入れると、一目散にBEの背後に回りこんだ。


『ハッチ開放します』


スピーカー越しに操作室からエルナンドの声が聞こえる。それと同時にBEエネルゲイアの背部が開き、着用者である人物がその姿を表した。


「君が怪僧かいな。エライ可愛いらしいな」


着用者である少女を見てコウサは小さく微笑む


BEから出てきたのは片方の角が折れたアイゴティヤ星人の少女だった。

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