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EgoiStars:RⅡ‐3379‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3379年 <帝国標準日時 8月15日>
11/48

第5話『それぞれの前夜 後編』

毎週土曜日AM10:00に最新話を公開中

【星間連合帝国 衛星ジオルフ 平民街 食料品店】


≪PM18:56≫


 フラッと寄り道した店内で見覚えのある顔を見つける。数多の星を統治するこの帝国内でそんな事があると感動はひとしおだった。ましてや海陽系を飛び回っている者であれば尚更である。ジャネット・アクチアブリはその感動を少し感じながらガムの咀嚼テンポを上げて商品棚の前で屈むくせっ毛少年に近づいた。


「久しぶりッスね。アーク君」


ジャネットが声をかけた少年……アークは屈んだまま振り返ると少し驚いたような表情を浮かべた。


「おぉ姉御。何となく後ろにスタイルがいい人がいるとは思ってましたよ」


スラッと背の高いジャネットはアークを見下ろしながら微笑む。そして目の前の少年が屈託のない微笑みを見せながらも、スリットから彼女の内腿を覗き込んでいるのを見逃さなかった。


「美脚は維持できてるッスか?」


ジャネットは少し意地悪な笑みで尋ねると、アークは少しむくれながら頭を振った。


「……姉御。少年の隠れエロは気付かないフリをしてあげて」


「アーク君はふくよかな太腿が好きって言ってるのに何で私の脚を見るのか疑問に思ったんスよ」


「太かろうが細かろうが生足には生足の魅力があるですはい」


「じゃあストッキング履いてたら見ないんスか?」


「俺にピタ感を語らせると長くなるけどいい?」


「じゃあこれ以上はやめとくッス」


ジャネットはケラケラ笑いながら腰だけを曲げて商品棚の下に陳列されたガムを手に取ると、再びゆっくり上体を起こし上げる。その仕草を見ていたアークは感心したような声を上げた。


「運転同様に相変わらずしなやかなお動きで」


「見え見えのお世辞ありがとッス」


「お世辞と分かるなら好都合。この恵まれない少年に何か買ってやっておくれ」


「君達に何か買い与えると後で私がカンムさんに怒られるんスよ」


ジャネットは苦笑交じりにそう告げると商品棚から拾い上げたガムを手の中で遊ばせながら、アークが持っていたお菓子の袋をそっと奪い取った。


「でもま、今はカンムさんが見てないんで買ってあげるッスよ。何よりこれからそっちは色々大変になりそうッスし」


「大変? えぇ……何か悪い話?」


グッタリした表情を浮かべるアークにジャネットは再び苦笑を浮かべた。


「民間軍事会社には帝国軍の監査役が入る事になったんスよ。これからは無茶出来ないかもしんないッスね」


「監査? 姉御がやんの?」


その言葉にジャネットは益々苦笑を浮かべる。


「一応、私階級は大将で帝国軍の権威でもある戦皇団団長ッスよ。そういうのは若手がやるんス」


ジャネットはそう告げたところで表情をキリッと変えた。ある違和感……いや素人の者ではない視線を感じ取ったのだ。


「どしたの?」


アークの問いにジャネットは答えることなく、額に乗せているゴーグルを弄る素振りを見せながら視線の正体を確認した。売店の外に見え隠れする人影……そしてその正体に気付いた彼女は小さく鼻を鳴らす。そしてアークの腕を掴んだ。


「何? 遂にその美脚を撫でさせてくれんの?」


「ちょっとお願いがあるんスよ」


「あら? 否定しないの?」


勝手に飛躍したような表情を浮かべるアークをよそに、ジャネットは彼の腕を掴んだままレジに向かうと、レジ横にあるボトルを二つ手に取った。


「ウチは帰るんスけど、アーク君はあそこのイートインでこいつを飲んでから帰ってくんないッスか?」


「どして?」


よく分からないお願いに疑問と警戒心を見せるアークにジャネットはニコリと微笑んだ。


「別に大した意味はないッス。ちょっと休憩するだけで飲み物もらえるなら良くないッスか?」


「そうなんだけど完全に裏があるじゃん。ボスと姉御のお願いほど胡散臭いもんは無いってエル吉が言ってたよ」


「ほぉ。エルディン君も言ってくれるッスね。まぁ裏はあるッスけど面倒事じゃないッス。理由も教えたいけど言えないんスよ。ね? ほら」


「やめとく。水着を着たカワイ子ちゃんがくるならまだしも何で」


「それに近い事が起こるかもッス」


「んもう……今回だけだからね?」


アークはスケベ心を隠しきれずボトルを受け取る。そんな彼にジャネットは「じゃあ頼んだッス」という言葉と微笑みを残すと振り返ることなく店を後にした。


 外はすっかり暗くなり星が輝いている。違和感の正体である視線を感じながらジャネットは夜道を歩き始めると、違和感は徐々に消えていった。


「(……意外と私もいい奴ッスよね)」


ジャネットは自画自賛しながら自らの宇宙船が停泊するエリアへ向かって歩き、口から大きなフーセンを膨らませた。



――

――――

――――――

――――――――



 急に妙なことを頼まれたアークはイートインの座席に向かう。人影もまばらな店内を歩きながらアークは適当な席に腰を下ろすと窓から夜の街を眺めながらスナック菓子の袋を開けてからジャネットに渡された二本のボトルを見下ろした。


「(なんで二本? お腹タプタプになるじゃんよ……)」


そんな疑問を抱えながらアークはスナック菓子の袋に手を入れる。その瞬間に真横に異様な視線を感じて振り返った。


「「ぅわぁぁぁぁっ!!」」


真横にあったドアップの顔面にアークは驚愕の声を上げると、アークを覗き込んでいた少女も同じ声を上げ仰け反り尻餅をついていた。


「急に振り向かないでよ! メガびっくりしたぁ!」


「その文句は理不尽過ぎると思う!」


アークはそう言って尻餅をつく少女の姿を見て下衆い笑みを浮かべる。その視線の先には彼好みの少しムチッとした太腿と水色の()()があったのだ。


 不可抗力で見えてしまった幸運に満足しながらアークはピンクのインナーカラーでボブカットの少女に手を差し出した。


「いや、でも驚かせてごめんね。もう全部俺が悪かったでいいや」


幸運を見せてくれた少女に感謝を忘れなかったアークだが、そんな彼の下衆い心を見くことがなかったらしい少女は彼の手を取った。


「え? いや、まぁ私もパーソナルスペースが狭すぎたよね。ごめん」


少女は少し恐縮した様子でゆっくりと立ち上がる。そして尻餅をついた大きめのお尻を軽く払うと、改めてアークの方に向き直った。


「あのさ、ちょっと君に聞きたいことがあるんだけど」


少女の言葉にアークは驚きと同時に再び下衆い期待に心を膨らませた。


「待って? こ、これが逆ナンってやつ?」


「……何でそうなんのよ」


一瞬で引いた表情を浮かべる少女にアークはいつもエルディンが女性に向けるような気取った態度を見せてみた。


「照れないでお嬢さん……僕もそのムッチリした太腿を見た瞬間からキミにトキメキを」


「誰が大根足だ! メガムカつくっ!!」


一瞬で激昂した少女は顔を真っ赤にすると身体を捻らせて胴廻し回転蹴りを繰り出した!


 彼女の踵が見事にアークの頬にめり込む!

痛みと脳の揺れで意識が薄れる中でもアークは決して瞬きをすることなかった。その視線の先には再び水色の()()があったからである。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 衛星ジオルフ 高級住宅街浮遊都市 高層階レストラン】


≪PM19:00≫


 星の起源を辿った時、衛星ジオルフは帝星ラヴァナロスと双子の星だったのではないかという説が残っている。その説を仮定する理由としてジオルフは衛星と称しながら惑星と遜色ない質量を持っているということにあった。事実、大気に包まれているため屋外での呼吸を可能としており、海陽系外研究者によれば海陽系の外にはジオルフよりも小さな惑星が存在するほどである。唯一惑星に値しないとすれば、重力が他の惑星より大幅に弱いことにあるだろう。そのため、ジオルフは人工的な重力によって無理矢理帝国法基準の重力を持つ星になっていた。


 ジオルフは基本的に平民が住む地上の街と重力調整器によって地上から数百メートル上空に浮遊する富裕層の別荘が並ぶ浮遊都市(平民からは皮肉って富裕都市と呼ばれている)に分かれている。富裕都市に建つ高層ビル最上階から下界を見下ろしていたエルディンは地上の人為的光と空の自然光を見比べながら美しい笑みを浮かべた。


「……いい夜だ」


高級レストランの窓際の席に腰を下ろしていたエルディンはそう呟く。そして浮遊都市より遙か上空にある成層圏に花火が広がるのを確認した。彼が先日行った偽のイベントとは違い、本物のイベントが今空で行われているようだった。


「食前酒はいかが?」


空を見上げるエルディンの耳に聞いたことのある声が届く。しかし彼は視線を向けることなく小さく首を横に振った。


「遠慮しておくよ。こう見えて未成年だからね」


「それは意外。この前の夜は未成年とは思えない女性の扱いだったのに」


その言葉にエルディンは空を見上げたまま苦笑する。到着したであろう()()()()()客の声に聞き覚えがあったのだ。そしてそれは彼にとってある種想定内のことでもあった。


「二十六歳にしては幼さを感じる声だと思ったが……君だったのか。アンナマリー」


エルディンが顔を向けると、そこには一週間前に一夜を共に過ごした女性の姿があった。

 一週間前……それはちょうど彼がアークとともにフマーオス星で仕事にあたっていた時である。そしてその時に出会った女性の中で彼の記憶に残る人物は一人しかいない。成層圏で行われた偽装パーティーにいたローズマリー人美女……ベッドの中でアンナマリーと名乗った美女がそこに立っていた。


「アンナマリーか……一週間前なのに懐かしく感じるわ。今はセリシアと名乗っているからそう呼んでもらえるかしら」


明らかに堅気とは程遠い台詞にエルディンは苦笑する。しかしそれはお互い様と思いながら彼は頷いた。


「美しい女性の頼みとなれば断れないな。何より、どのような呼び名でも君の美しさは変わらないしね」


「ベッドの中と同じで口もお上手ね。そして貴方もきれいな顔は変わらないわ。見せる表情は随分違うようだけど」


「お互い様な言葉の投げあいはよそう。それで? 二十六歳の独身女性を名乗って僕に接触しようとしたのは何故だい?」


エルディンは余裕の表情でそう告げるとセリシアと名乗る美女は彼の前に腰を下ろした。

 彼の中でセリシアと名乗るこの美女の正体にはおおよそ検討がついている。そしてそれもまた彼女も同じで、セリシアもエルディンの裏の顔に気付いているのだろう。だからこそこうして彼に会いに来たに違いないのだ。


「(君は僕を利用すればいい……僕も僕で利用させてもらおう)」


彼女がエルディンをどう利用しようとしているのか、そこまでは彼も分からない。しかし、エルディンの直感が彼女が障害になることはないと言っていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 衛星ジオルフ ガレージハウス】


≪PM19:13≫


 ガレージに残されたメアリーは両腕の義手を装着して、両足は義足も付けずに宙ぶらりんにしていた。先程までアイゴティヤ星の親戚と会話をしていたが、下半身は映らない。だからこのようなズボラな装いをしているのだ。


「……どれもこれもつまらんなぁ」


自らを囲む球体のディスプレイを眺めながらメアリーは溜息をつく。そして思い出したように小さく微笑むと、様々な情報や動画に見向きもせずに一枚のディスプレイを眼前に配置する。そこには文字だけのチャットルームが広がっていた。


[SR:最近、ウチの星に殺伐とした空気が流れているんですよ]


[留学生:殺伐ってどういうことですか?]


[SR:ザイアン隊が特殊訓練するらしくて衛星の方に集まってるらしいんです。なんでも特殊な軍事訓練があるらしくって]


このご時世に文字だけの会話をする人間は珍しい。

しかしハッキングを始めとした解析力を持つ人間が最後に行き着くのは文字だけの場所だという。いくら姿かたちや声質を変えようとも、アバターの制作過程や口調や声紋を解析することである程度特定出来てしまう。そうなれば秘匿性が最大限に生かせるのは口調も性別も種族も隠し通せる文字だけの場所となるのだ。

 メアリーは片手を小さく動かしてチャットルームに入室して文字を打ち込んだ。


[キャタピラちゃん:わんばんこ。ジュラヴァナって宗教惑星なのに何で軍事力持ってんの? 宗教が武力を持つとロクなことにならないと思うんだがね]


メアリーはアークとエルディンの口調を織り交ぜた文章を打ち込む。するとSRからの返答はすぐに戻ってきた。


[SR:キャタピラちゃんこんばんわ。個人的に宗教が武力を持つのはこのご時世じゃ仕方がないと思いますよ。何よりウチの猊下は心配症ですからね]


[留学生:キャタピラちゃんさんこんばんわ。私も同意で武装は反対ですね。危険ですよ]


[掃除係:久しぶり~。あれ~? まだトーク始まったば~っかり? 今から参加も可能かしら?]


飛び込んできた一人にメアリーはニヤリと笑う。この四人こそこの誰も知らないチャットルームに出入りする秘匿主義達だったからだ。


[キャタピラちゃん:掃除係さん久し振りー。元気だったか? あ、ぜひぜひ参加してくれて構わないよ]


[留学生:掃除係さん、お久し振りですね。最近いらっしゃらなかったみたいですけどお忙しかったんですか?]


[掃除係:いえいえ~。ちょっと趣味に勤しんでいたもんで~。それよりトーク見ましたよ~。ジュラヴァナ武装で~すか~。SRさん大変ですね~]


[SR:そうなんですよ。最近ウチの両親もピリピリしてて……妹もそれに触発されてて居心地が悪いんです]


[掃除係:た~いへんだ。でもそれなら~国を動かすよりもSRさんが心を武装したほうが早いんじゃないですか~?]


[留学生:心を武装って素敵なようで少し怖い言葉ですね]


[キャタピラちゃん:自分を守るためなら多少身構えるのは必要だよな。でもそれが星単位になれば不安になるのが人間の性というものさ]


[掃除係:ですよね~ま、混乱が生じても殆どの人には関係ないですよ~死んだり怪我したりするのは前線にいる人間だけですからね~]


[留学生:事実かもしれないけど掃除係さんの言い方はあんまり好きじゃないです]


[SR:でも事実と認めるところが留学生さんの柔軟なところですね]


他愛もない会話が続く。その光景を見ながらメアリーはカンムが残していったタバコを手にして火を点ける。そしてチャットルームにいる二人までの居場所を突き止めると、そこからSRと留学生のハンドルネームを使う人物の姿を映し出した。


「……ローズマリーの女の子に、ジュラヴァナ星人の男の子か」


秘匿性の高い場所で秘密を見つけ出す。それこそが彼女にとって最高の暇つぶしだった。

 メアリーが勝ち誇った笑みを浮かべると、再びチャットルームに言葉が打ち込まれた。


[掃除係:それにしても~一度くらいこの四人でオフ会したいですよね~]


[SR:いいですね。ただ私が一人で行くと妹がグズりそうです]


[留学生:私も行きたいんですけど、実家に帰るんで厳しいかも知れないです]


[掃除係:そうですか~せめてみんなの顔が見てみたいなぁ~]


掃除係の言葉が打ち込まれると同時にメアリーは目を見張った。文字だけの羅列ではあるがその文面とタイミング、そしてこのチャットルームに入る力。それを繋ぎ合わせると一つの答えが導き出されたからだ。


「(……気付いちょる……)」


メアリーはこの掃除係と名乗る人物の得体のしれなさに恐怖心を抱く。気付くと彼女はチャットルームから退出していた。

1月8日(土)AM10:00

第6話『神の国』

更新予定

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