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十二章『体力づくり』

 週末の夕方。寺の境内へと続く長い長い階段の天辺で俺はストップウォッチを片手に石段を見下ろしながら秒数を読み上げていた。

「ごじゅうなな……ごじゅうはち……ごじゅきゅうーー」

「はぁ……はぁはぁ…………」

「はぁ……はぁ…………」

 境内の長い長い石段を凛と綾瀬が息を切らしながら一歩一歩、踏み締めるように走ってくる。

「ろくじゅういち……ろくじゅうにっ!」

 二人とも登り終えたのを確認してストップウォッチに手を掛ける。

「やっと、つき……ました…………」

「もう……むり…………」

 二人はそのまま身体を放り出すように境内に転がり込む。

「お疲れさん」

 備えてあったスポーツドリンクを彼女たちに渡す。

 綾瀬はそれを飲んで息を整えると、キッと俺を睨み上げた。

「まったく、ふざけんじゃないわよ!」

 境内に怒号が飛ぶ。お怒りである。その理由は分からんでもない。

「呼ばれて来てみれば訳わかんない寺に来させられるし。漫画みたいに長い石段を何往復も走らされるし。地味な座学を何時間も受けさせられるし。一体どういうつもり?」

「言っただろ。本格的に始めるって」

「どこがよ!? 私はてっきり模擬戦とかするものだとばっかり思ってたのに」

「確かに穹戯用のフライングシューズに身体を慣れさせることも大事だけどな。お前たちには圧倒的に足りないものがある」

「私たちに足りないもの?」

「それはーー」

「それは?」

「お前らには圧倒的に体力が足りないんだ!!」

 びしりっ、と指を突きつける。

 この間の模擬戦を見た時に感じたことだ。

「穹戯は大会になると一日に何試合もしなきゃならない。一試合目で体力を使い尽きたらそのあとの試合で実力を出せずに終わるのは不本意だろ? だから、これはそのための体力づくりなんだよ」

 なるべく優しく言い聞かせるように続ける。

「それに、地味だと思ってる座学だって効率的に身体を使うことを学ぶことができる」

「でも、一回ぐらい飛ばせてくれたっていいじゃない」

 綾瀬はふてくされたように頰をふくらます。

「これから嫌でも飛びまくることになるんだから先に体力づくりをしておきたかったんだよ」

「どういうこと?」

「どういうことですか?」 

 綾瀬と凛が不思議そうにこちらを見上げる。

 俺はがりがりと頭をかくと、今日の本題を切り出す。

「俺の高校にあるフライング部が合宿に行くことになったんだけどな。俺たちにもその招待が来たんだよ。まだ返事はしてないんだがーー」

 そこまで言ってふと、視線を向けると、凛の目が輝いていた。そうして元気よく手を上げる。

「はいっ! わたし行きたいです!!」

「上等よ。おもしろそうじゃない」

 綾瀬も静かな闘志を瞳に燃えたぎらせている。

 だが、凛が遠慮するようにしゅんと表情を曇らせる。

「でも、わたしたちが入っても大丈夫なんでしょうか……」

「大丈夫だよ。メニューは俺が組むから安心してくれ。さすがに高校生と同じメニューはキツすぎるからな」

 だが、思いもよらない返事が返って来た。

「わたしやってみたいです!」

「そうね。遠慮されるのは気にくわないし」

「いや、だからーー」

 止めようとしたが、途中で言葉を飲み込む。

『彼女たちの意思が大事なんじゃないのか?』

 その言葉を思い出したから。俺は息を吐くと。

「分かった。先生には俺から伝えとく。だけど約束してくれ絶対に無理だけはするな」

「はい。わかりました」

「わかってるわよ」

「それじゃあ。月末に行くから用意しとけよ。それから寝る前によくストレッチして身体をほぐしとけ筋肉痛になるからな」

 それだけ言うと踵を返す。

「もう、終わりなの?」

「体力づくりには休むことも大切なんだよ。だから今日から合宿までの期間は早めに終わることにするからな。それから明日は身体を休めるためにも部活はお休みだ。余った時間は適度に身体を動かすなり家で自由に過ごすなり好きに使ってくれ」

「……わかりました。それじゃあ、失礼します」

 何かを考えるそぶりを見せた凛だったが、頷くとぱたぱたと石段を降りて行く。

 後に残ったのは俺と綾瀬の二人だけ。

「ほら、綾瀬も早く帰った方がいい」

 それだけ言って俺も帰ろうとしたのだが。

 ぐいっと、袖を後ろから引っ張られる。

「あん?」

 怪訝に思って振り返ると、恥ずかしそうに顔を赤らめた綾瀬がこちらを見上げている。気のせいか瞳も少し潤んでいる。そうして、大事な秘密を告白するように、

「明日、よければ私の家に来てくれないかしら……」

「は……?」

 その言葉を聞いて俺はフリーズする。小学生の家にお呼ばれ……だと?

 そんな俺の思考を知ってか知らずか。

「じゃあ、伝えたからね!」

 そう言い残して綾瀬は逃げるように去っていく。

 あとの境内には俺だけが取り残されていた。

 小学生の家にお呼ばれとかどうしたらいいんだよ!!

 家に帰ってからもそのことに悶々とする俺だった。

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