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二葉さんの家

続きまーす。

「はい、これ秋人君が持ってきてくれたケーキと私が丹精込めて入れた紅茶。それじゃあ、何かあったら遠慮なく言ってね」


「は、はい。ありがとうございます」


「晴香、お母さん家空けときましょうか?」


「な! い、いらないから!! 変な遠慮しないで!」


「あらあら、うふふ」と二葉さんのお母さんはさがっていった。二葉さんの部屋に取り残された俺。すごく居心地が悪い。なんでこうなったんだっけ? そう、あれは3日前二葉さんを家に送り届けてさあ、帰ろうとした時偶然二葉さんのお母さんに会ったことから始まった。


あれよ、あれよという間に家にお邪魔する手筈になり、こうして手土産を持参して来た次第である。マジか……なんかお母さん勘違いしているような。在らぬ誤解を生む前にお暇しないと。


「もう、お母さんったら。三隅、気にしないでね? お母さん調子のってるだけだから」


「まあ、ひどーい。それが実の親に言う言葉ー? ……あら」


「お母さん!!」


肩がビクリと跳ねる。扉越しに聞かれてたのか……バカな発言は絶対に出来ないな。二葉さんはお母さんを追い払い、鼻息荒く戻ってきた。


「ほんとにお母さんは! だから今まで呼んでなかったのに!」


「………」


今まで呼んでなかった……それは俺じゃなくて雪矢の事だよね? 俺が心なしか消沈していると、慌てた声が耳を打つ。


「ち、違うよ! 三隅が嫌だとかじゃなくて、その、お母さんに冷やかされるのが嫌だっただけで」


「うん。わかってるよ」


「三隅! ちゃんと私を見て! 私は三隅に勘違いされたくない!」


度肝を抜かされる。肩を力いっぱい掴み鬼気迫る顔で言ってきたのだから。勘違いされたくないとはどういう意味なんだろうか。


「わ、わかったから」


「ほんと?」


「うん」


雪矢の事が好きだから俺に勘違いするなと言いたいんだよね。充分にわかったからいちいち確認しなくてもいいのに。


「うわ!! ふ、二葉さん?!」


「何? 別に誰も見てないんだからいいじゃん。Amaz○nプライムで映画見よ? これとか面白いよ」


「いや、でも、その……」


「前も言ったでしょ? 当ててんだよ」


してやったりの顔付きで俺を見つめる二葉さん。なんて返せばいいのか見つけられず目を逸らす事で軽く抵抗の意思表示をした。それにしても、相変わらず柔らかい。


「いやあ、たまには映画三昧もいいもんだね、ね? 三隅」


「うん。まーね」


「何? 面白くなかった? もっとパニック系とかの方が好きとか?」


「いや! 楽しかった! それはもう」


二葉さんが小首を傾げるのもしょうがない。だって、俺があまりにも上の空だったから。いやいやいや。反論させてくださいよ。終始女の子の胸を押し付けられてて平常でいられる人はいるのでしょうか? いや、いないでしょう。


生き地獄すぎて死にそう……。俺の事をなんとも思ってない子と過ごす事がこんなに苦しいなんて。


コンコンコン。扉をノックする音が響く。はーい、と二葉さんが返事をすると二葉さんのお母さんが扉からひょっこり顔を覗かせた。


「秋人君、夕飯食べていく? おばさん、腕によりをかけて作ったから」


「いえ。そこまでしてもらうのは悪いので帰ります!」


ぐいっと手を引っ張られる。


「えー、いーじゃん。お母さんの料理美味しいよ?」


「じゃ、じゃあ頂きます……」


子犬のような目で見つめられた。こんなの振りほどけるわけがない。はぁー。


二葉さんのお母さんがずっと喋りかけてくるので、頷きマシーンに早変わりし、手も動かす。あ、美味しい。濃い味付けより薄味が好きなのだが、出汁の味がめっちゃ効いてて美味しい。


「それじゃあ、いつもご飯は一人なの?」


「いえ、妹がいるので食事は一緒にしますけど、普段は幼なじみのお母さんが気を利かせてくれて、おかず持ってきてくれますね」


「そうなの……じゃあ、今度からおばさんのところで食べる? 妹さんも連れて」


「え! いやいや! そこまで迷惑かけれませんから。大丈夫です!」


「そう? 遠慮しないでいつでも頼ってね。お昼ご飯はどうしてるの? ご両親が出張だったらお弁当作るのも大変でしょう?」


「昼は、コンビニで買うか学校の学食に行ってますね」


「三隅、コンビニ弁当なの?!」


「え、いや学食もちゃんと利用してるからね」


さっきも言ったけど。あれ? 急にそわそわし始めたぞ?


「じゃ、じゃあ、私がお弁当作ってあげよっか?」


「いや、大変だろうから大丈夫―――いてっ」


ドスッと横腹をつつかれる。批難の目を向けると、そこには二葉さんの膨れっ面。えー? この前もなってたけど、ここ最近多いね。なんで? 怒る要素どこにあった?


逆に今のは褒められてもおかしくないレベル。人の手を煩わせないんだから。


「ふふっ。秋人君はこれから前途多難そうねー」


いや、笑わずに止めてくださいよ。あなたの娘さんにやられてるんですよ。しばらくの間二葉さんに脇腹をつつかれ続ける俺なのだった。


長居してしまったな、と思いながら二葉さんの家を後にする。マンションのエントランスを出ると、後ろから呼び止められた。


「―――三隅! 今日はありがとね」


「ううん。こちらこそ。夕飯ご馳走になっちゃって」


「妹さん大丈夫だった?」


「雪矢に言っといたから大丈夫だよ」


「そっか」


暫し無言。重い空気ではないんだけど、むず痒い。いたたまれなくなった俺は口を開く―――が、先に二葉さんが言葉を発した。


「三隅、今日の事は気にしないでね。でも、勘違いしてほしくないって言うのはちゃんと本心だから」


「………それって、どういう―――」


「私は―――三隅が好きだよ」


「―――へ?」


真っ直ぐな瞳と真剣な顔付きから発せられた爆弾が俺を悩ます事になるなんて二葉さんの家に行く前は想像もしなかった。


二葉が投下してきましたね。ここから二葉攻撃が始まるのか……はてさて。

『仕事中は恐いけどお仕事以外は甘いんです。』もよろしければ閲覧してくださいね。

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