二葉さんとのお出かけ
太陽はサンサン。俺の心は散々。韻を踏んではみたものの、見事に撃沈中。二葉さんからのお誘いはお出かけの当日になっても頭を悩まかす問題となった。
たった2日前まではテンション上がりまくりの猫撫でまくりの緊張しまくりの一日だったので、余計に落差を感じてしまう自分がいる。
モブの俺がこうも立て続けに女の子と出掛けるなんて、人生でも今回だけではなかろうか。いや、そうであろう。……さっきからこの口調はなんなんだろうか。それが頭を悩まかしてる原因ではあるけれど、突破口を見つけ出した。俺、頭良い。
「秋人ー。なんでこんな暑い所で立ち続けてんだ? 俺達」
「まあ、もうちょっと待ってよ。雪矢は悪い話しじゃないと思うんだよね」
「マジかー」と天を仰ぐ雪矢。そう、今回俺の秘密兵器と化したのは何を隠そう我らの雪矢だ。……まあ、俺のものではないのだけども。それは置いといて、今回雪矢を連れてきた理由。それは、二葉さんとのお出かけにワンクッション欲しくて雪矢には内緒で連れてきたのだ。
気まず過ぎるので雪矢を同行させ、あわよくば俺はいなくなるつもりである。二葉さんが今日俺を誘ってきた理由はわからないが、俺を誘えば雪矢が芋づる式に付いてくると思ったのだと思う。
ここは期待に応えようではないか。雪矢の気持ちはわからないが二葉さん程キレイな人に好意を向けられて嫌な事はないだろうし、何より二葉さんは雪矢を好きなので嬉しがるはずだ。
今こそ、モブの底力を見せる時! ゴーっと熱く決意した矢先、後方から声がかかる。振り向こうとしたらまた目隠しされる。もう動揺しないと固く心に誓い、口を開く。
「二葉さんでしょ?」
「ありゃ。バレたかー、やるね三隅」
またも語尾の上がる話し方。大人しく目隠しという拘束から解放させて頂く。振り向くと天真爛漫な笑顔。あれ? っと思った。こういう表情を久しぶりに見たと錯覚したからだ。いつから見なくなった? と疑問に思い首を捻る。が、答えなんて出てこなかった。
ただ、俺の知ってる二葉さんの本来の笑顔からは少し離れた笑いに見えて、そちらの方が気になった。
「三隅、早いね! そんなに私に会いたか―――なんでいるの?」
「よう! さーな? 俺は秋人に誘われただけだから。お前が来るなんて知らなかったぜ?」
雪矢を見つけたとたん笑顔から無表情に。そしてグリンと首をこちらに回す二葉さん。怖いと内心震え上がる。なんて力任せの振り向き方……絶対首痛めるよ。そして、目が……目が……。顔が笑ってるのに目が笑ってないんですけど?!
「ねー、三隅。なんで一条がいるわけ?」
「えっと……」
嘘は許さないと目だけでなくオーラが語っていた。とてもじゃないが、嘘を付く勇気も湧いてこない。正直に、但し全部は言わない。
「ゆ、雪矢がいた方が場が盛り上がるでしょ? ほら、俺ってつまらない奴だし。それに雪矢も映画見たいよな!」
思い切り雪矢の肩に腕を回す。雪矢が違うと答える「ち」の発音の口を開いた瞬間、二葉さんに見えないように睨みあげ、腕の力を強くする。雪矢も察したらしく、声に出す事はなかった。ふー、危うくヤの付く職業に就職出来る力を得そうになったよ。
「つまらないって……私は……」
二葉さんが俺達に聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声量で、口を尖らせながら悪態をついている。大丈夫、俺はちゃんと察して雪矢を連れて来たよ。誘うの躊躇したんでしょ? 今日は仕方ないって諦めてたかもしれないけど、きちんと連れて来たから。いると思わなかったからつい雪矢にガン飛ばしちゃったんだよね。わかる、わかる。いない人間がそこに居たら戸惑うよね。
「とにかく! 場所移動しよう。炎天下の中にずっといると熱中症になっちゃうよ」
「そーだな。てか、映画って何見るんだよ?」
「……あー。これ」
どれどれと二葉さんが指差している携帯の映画情報を覗き込む。これは……うん。夏ならではとしか言い様がない。聞かなかった俺も悪いが言わない二葉さんも人が悪い。まさかの俺の大嫌いなホラー映画だなんて。あ、雪矢はホラー好きだから、もしかして! 雪矢との本番の為に俺で予行演習しようとしたとか。なら、俺のホラー嫌いの情報なんて耳にも入らないよね。
「俺はいいけど……秋人ホラー苦手じゃなかったっけ?」
「えっ。そうなの? じゃあ違うのにする?」
「いやいや。嫌いだけど見れないレベルじゃないから……たぶん」
「でも……」
「まあまあ。本人が良いって言ってんだから。男に二言はねーよな? 秋人」
「ま、まあね」
声が上擦る。いやいや。何言ってんの。ちょー怖いよ。え、世の中のホラー好きとかホラー普通に見れちゃう人とか神経大丈夫なの? 赤い血ちゃんと通ってる? 緑とかじゃないよね。そうこうしていると、映画館入口に着く。
「うわー。やっぱ夏休みってだけで混むもんだな」
「そうだね……でもこれも夏休みならではだと思ったらある意味風物詩じゃない?」
「ってもなー。限度ってもんがなー」
「一条はめんどくさがりなんだよ。このくらい我慢したら?」
二人の世界が始まったので、ここでふとモブに徹してきた時代の名残が露見する。そうだ! 二葉さんも雪矢と映画見たいだろうし、ここは気付かれないように離脱すればいけるんじゃないか? そうと決まれば!
見計らって後方へ後退し、二葉さんと雪矢の元から離れる。ほら、気付かれない。いつも通り二人の世界を形成しているので、隠密行動はとてもスムーズにいく。そこに若干の寂しさを抱いたが頭を振って追い払う。ある程度、物陰から二人の様子を眺めていたが、離れてから大分時間が経ってしまった。それでも、二人が俺の不在に気が付く事はなかった。
肩を落としながら、携帯のトークを開く。雪矢と二葉さん、それぞれにトークを送りそっと閉じる。雪矢にはお腹が痛くなったから帰ると送り、二葉さんには雪矢と映画楽しんでと送った。―――これで二人とも俺抜きで映画もといデートを楽しめるだろう。決してホラーが怖くて逃げたわけじゃないと宣言しておこう。
さて、時間が空いたな。帰るのはなー。せっかくショッピングモールに来たんだし……ブラブラして帰るかと足を踏み出すと後ろから声を掛けられた。最近聞いた声だなと後ろを振り向く。―――そこには、
「三隅君。2日振りですね。お一人ですか? お時間あったらお茶でもしませんか?」
小さく手を振りながら駆け寄ってくる四宮さんがいた。




